99話
リクトと《オーバーロード・ギア》の攻略方法を見つけたと口にするヒロム。
そのヒロムの一言を受けた葉王やトウマ、レイガと獅天はこの短時間の話の中で糸口を見出したヒロムに驚き、にわかには信じられない獅天はヒロムの言葉を疑うかのようにいくつか尋ねようとした。
「貴様の言う攻略方法とは何だ?そもそもあの男の今の攻撃は貴様と同格の地位を与えられた氷堂シンクもこれまで十神シエナと師範だった男を相手に戦ってきた戦士たちに何もさせずに倒してしまうほど絶対的なものだというのに突破口をあるというのか?」
「ある。というより、全ての事柄には必ず問題が生じる。今回の件に関してもだ」
「あの男の攻撃は視認出来ない。それをどう攻略する気だ?」
「そもそもリクトと《オーバーロード》の攻撃は視認出来ないんじゃなくて人間にとっては認識するよりも先に処理される事を利用してるからだとしたら……どう思う?」
「認識するよりも先に?おかしなことを……現にオレは危機感知能力を高めて反応は出来た。それについて……
「なるほどォ……引力と斥力かァ」
ヒロムの言葉に対して疑問をぶつけるもヒロムはその疑問を想定したかのように返し、さらにヒロムはリクトと《オーバーロード・ギア》の攻撃について関連するであろう内容を口にして獅天に新たな疑問を抱かせるが、その傍らで葉王はヒロムの言葉を理解したらしく『引力』と『斥力』のワードを口にした。
『引力』と『斥力』、そのワードを聞いたトウマやレイガが獅天同様に理解出来ずにいる中でヒロムは頷き、そしてヒロムは葉王が口にした『引力』と『斥力』の関係性についてトウマたちに詳しく解説しようとした。
「頭の回転がバカ早くて助かる葉王。葉王が言ったようにリクトと《オーバーロード》の攻撃には引力と斥力が大きく関係している。レイガや獅天、シンクたちが受けた吹き飛ばされるあの攻撃は斥力……つまりは2つのものの間で生じる反発しようとする力のことだ。今回の場合はリクトもしくは《オーバーロード》と攻撃対象を軸にして発生させて敵への攻撃に転用している。これが獅天の言っていた『空間そのものが目の前で凝縮されるような感覚』の正体だ」
「凝縮されるような感覚ッてのは強い斥力が発生している瞬間だッたということだァ」
「ならばオレが感じた何かに押さえ込まれそうになり抗えなくなるような感覚は? 」
「それが引力だな。2つのもの……磁石で例えるとN極とS極が引かれ合う際の力を指すと思ってくれればいい。この場合だと獅天を対象にリクトと引かれ合うように働いた力だが、この時には既に凝縮された強い斥力が発生していた事もあって相反する2つの力で反発が生じる中で獅天の動きを封じ押さえ込もうとする力に発展したんだ」
「そしてェ、今姫神ヒロムが話していた反発こそがオマエの言う『弾けるような感覚』の正体だァ」
「そんな事が可能なのか?」
「可能かどうかというよりは起きたからこそ言えるという話だな。引き寄せる力となる引力と引き離そうと弾く力の斥力がぶつかり合うことで瞬間的ではあれど2つの力の間で大きな爆発となればそれは大きな攻撃となる。走行中の車同士が正面衝突するのを想像したら分かるかもな」
「待ってよ兄さん。もし今の話の通りなら……今のリクトさんは相手を自由に引き寄せる『引力』、相手を自由に遠ざける『斥力』の2つを実行出来るだけでなく2つの力を同時に放ちぶつけて攻撃に転用してるって事なんだよね?それって攻略も何も力の反発そのものを認識する事すら困難ならどうにも出来ないんじゃないの?」
「トウマはそう思うか?」
「え、あ、うん……って兄さんはそう思ってないの?」
「オレは違う。オレはむしろ反発が発生した時点でリクトだけが知覚出来る攻撃エネルギーとなる質量のようなものが存在していると認識してしまえば考え方の幅が広がると思ってる」
「だって防御するも何も引力も斥力も大雑把に言えば重力そのものを扱うようなもので自然の摂理として重力に抗えない人間がどうにかできるものじゃ……
「だから今言ったろ。反発で生じる攻撃エネルギーを質量として捉え認識するって。それならオレにも対応出来るからな」
「対応ってどうや……
「噂には聞いていたが覇王、貴様は敵の感情や動き、空気の流れや気配から高度な先読みを可能にする術を有しているらしいがそれを用いるのか?」
「それって……《流動術》!?」
「ああ、オレがガキの頃に能力者を身体能力だけで倒すために編み出した先読みの力だ。目に見えようが見えなかろうがそれが攻撃として認識出来るものなら対応出来るし、《流動術》は《見動気》ってのには無いだろう先読みからの擬似的な未来予知が可能だから上手くいけば斥力と引力が発生する瞬間を先読みして躱すのも容易なはずだ」
「つまりィ、この戦いィ……八神リクトを止めるためのキーパーソンは姫神ヒロムということになるなァ」
「でもヒロムさんはここまで戦いを続けていて万全じゃない。そんな状態のヒロムさんがアイツとまともに戦うなんて……
「だから、ここからはギャンブルでいく」
リクトを倒すカギを掴んだヒロム、そのヒロムの消耗が激しく今のままではリクトと戦えないと危惧するレイガの言葉を遮るようにヒロムは何か賭けに出ようとする発言をし、そして……
「トウマ、葉王。今から話すのはリクトの暴走が止まらない事を前提にしたオレの我儘でかなりの問題発言だ。ある程度の無茶を要求するからそのつもりで聞いてほしい」
「兄さん?」
「オマエェ、まさかァ……!?」
ヒロムが話そうとする『問題発言』、果たしてそれは……