98話
リクトは記憶の改竄を受けていない、そう語るヒロムの言葉を受けたトウマは驚きと戸惑いを隠せず、そして何よりもそれを信じたくない気持ちが強かったトウマはヒロムの言葉に対してリクトへの個人の感情を交えながら反論しようとした。
「そんなわけないよ兄さん……だってリクトさんには十神アルトに加担するメリットも何もないはずだ。それに、リクトさん何のために十神アルトに協力していたって言うんだ?」
「理由ならいくらでもあるが第一にオレへの復讐、第二に真相の解明、第三にトウマ……オマエの監視だ」
「兄さんへの復讐ってどういう事さ?それに真相解明って……まるでボクたちが何か勘違いしていたかのような言い方だけど、どういう事?」
「そもそもリクトに対しての認識がここまでズレてるのは八神リクトという人間の内側にある行動の動機と理念、そして思考の在り方をオレたちがこうだと思い込んでいたのが始まりだ。傀儡にされていたトウマのそばにいたリクトは『斬角』の名を与えられ《ラース・ギア》を授けられた上で姉のホタルさんには成し得なかった事を成しているオレに一方的な恨みを持っている……っていう認識を向けていたのがこれまでだ」
「でもそれはリクトさんも認めて……」
「いいやァ、落ち着いて考えてみろォ、八神トウマァ。八神ホタルの死はあくまで今日に至るまで精神干渉汚染という精神的な疾患から来る自我の崩壊に伴う自死と判断されるものとして扱われてきたァ。姫神ヒロムを恨むということは事実の曲解による単なる冤罪でしかないィ」
「葉王さん、お言葉ですがそれは十神アルトの傀儡にされていた頃の《八神》の内部の人間にそういう風に唆された可能性も考えられますよね?」
「なら聞き方を変えるがァ……何故多くの《八神》の人間がギア・シリーズの作製の為の非人道的な生成にその魂を悪用され死に追いやられている中で何故八神リクトだけが生かされてたァ?」
「それはリクトさんには機械天使を扱うことでの……
「機械天使の件はあくまでギア・シリーズがオレに通用しないと判断して追加されたようなものだ。機械天使云々は傀儡にされていたトウマがオレはともかくシンクにも苦戦してしまったという事実の上で実装されたと考えた方が正しいだろうしな」
「でもさっきは機械天使を利用して……てまさか、リクトさんは最初から最後まで何の記憶操作も受けずに傀儡にされていたボクの近くにいたってこと?」
「そう言ってんだろ?」
「うっ……でも、どうして?」
「リクトがいつどのタイミングでホタルさんの死の真相を知ったのか、いつからギア・シリーズの原点となる《オーバーロード》に目をつけていたのか……というか、いつからギア・シリーズの計画内容を把握していたかってところがカギになるな」
「そこが問題だなァ。八神リクトが今になッてここまで大きなことを企み実行するとなればある程度の準備期間は必要になるぞォ」
「多分情報源は十神アルトか十神シエナのどちらかから直接聞かされたって線が濃厚だろうな。アンタら《一条》の《八神》に対する調査でも浮上してこなかったギア・シリーズの計画書の内容を細部まで知るなんてのはそれくらいの説明が出来ないと無理がある」
「全ての真相はリクトさんに直接聞くしかないってこと……だよね?」
「そうなるな。ただ、今のアイツは正気じゃないからそこが難しい。あの《オーバーロード》の力を攻略して倒して止めるなりしないと難し……」
全ての真相はリクト本人しか分からない、そう話をまとめたトウマの言葉を肯定するようにヒロムは頷くと今のリクトから真相を聞き出すのは困難だとし、それにはまず《オーバーロード・ギア》の力を攻略し倒すしかないと実現が難しい事を話そうとするが、その仲でヒロムは何かに気づくと《オーバーロード・ギア》の力を発動させたリクトと戦闘を行った獅天の方を見るとリクトとの戦いにて彼のとった行動について尋ねようとした。
「獅天、どうしてあの時防御しようと思えた?」
「何?」
「オマエはあの時、シンクやクロトたちが対処出来ず吹き飛ばされるしかなかった攻撃に対して反応出来て防御を選択しようとしていた。それにレイガも獅天の防御に反応してリクトを妨害しようとする動きを取ろうとしているように見えた。2人のあの時の動き、咄嗟に出たにしては上手く動けていたしタイミングが合いすぎていた。アレには何かカラクリがあるんだろ?」
「カラクリ……などというものはない。アレは獣身武闘拳の上級技として教えられていた『見動気』という危機感知能力を高め反応する技だ。オレは会得していた事でオレが反応出来る範囲であれば反応して対応を可能にするがレイガはおそらく不完全で感知出来るくらいのものだ」
「ああ、オレは危機感知能力を高めても何か起こるだろうという前兆を察するくらいで反応出来るかは怪しいところだ」
「だが、見動気を発動して反応してもやつの攻撃は不可解でしかなかった。空間そのものが目の前で凝縮されるような感覚とそれが弾けるような感覚、そして何よりも自分の体が何かによってその場に押さえ込まれ抗えなくなりそうになる感覚を一度に体感させられた」
「……それだ」
何故防御しようとしたのか、ヒロムの問いに獅天は自身とレイガが教えられた《獣身武闘拳》の技の1つによるものだと語る中でその時に感じた妙な感覚を語り、獅天の語るその妙な感覚を聞かされたヒロムは何かに気づいたらしく今度は葉王の方を見るとトウマやレイガたちが驚く衝撃の言葉を発した。
「リクトを……《オーバーロード》を攻略する方法を見つけた」