96話
トウマと天心から明かされたギア・シリーズの裏に隠された事実。ヒロムのこれまでの戦い、彼を殺そうと狙っていた《角王》のギア・シリーズを用いた戦闘はリクトの姉・ホタルを死に追い詰めた性能テストの延長として利用されていたと知らされたヒロムは驚くよりも怒りを感じるしかなかった。
「……自分の命を優先しておいて他人の命は平気で利用し捨てるってか?それがオマエを……トウマと《八神》を傀儡にされていても平然としていた人間の本性なんだな。そりゃ、父さんもどうにかしてオマエを救おうと思ったわけだ」
「父さんは多分知らなかった。ううん、むしろ知ってたのなら葉王さんに打ち明かしていただろうってあの人は話してくれた」
「天心さんは……知らなかったんだよな。いや、アナタが知ってたんなら父さんかシンクに伝えていたよな」
「もちろんです。お2人のお父様……飾音様の行動の真意を知る私からすればこれをお伝えせず隠す事など背信行為そのものでございます。トウマ様を救い《八神》を良き姿に戻す、そのために私は飾音様とそれに手を貸そうとしていたリクト様、そしてヒロム様のそばでトウマ様と《八神》をどうにかしようとしてくださっていたシンク様にお力添えしてきたのです」
「けど……トウマと天心さんが最近知ったような事をどうしてリクトは知っていたんだ?そもそもアイツはホタルさんの死を精神干渉汚染による精神崩壊から連なるものだと認識した上で内包数が異なれど同じように精霊を宿しながらそうならなかったオレを恨んでいた。そんなアイツがどうやって……」
「記憶の改竄が解けたのだろうなァ」
何故リクトがギア・シリーズの真相を知り、そして姉の死についての真実を知れたのかを疑問に思っているとヒロムにとっては意外過ぎる形で鬼桜葉王が現れ、葉王の登場にヒロムが驚いていると彼はリクトが真相に気がつけた事についてある説を語り始めた。
「《角王》の扱うギア・シリーズは『使用者の技能の全てを極限に高めて存分に発揮させる』というコンセプトのもとでそれに応じた性能を持ったものを適合するものを示すように与えられた名を冠する名前で扱われていたァ。がァ、八神リクトは斬角という『斬』の名を与えられながらも扱っていたのは『怒』を示す《ラース・ギア》だッたァ。単純に八神リクトの能力が怒りを糧に力を増す《憤撃》という事からそれを与えられたと考えるのが妥当に思えるがァ、これが十神アルトによる記憶の改竄と怒りの矛先をオマエに向けるための狙い通りだとしたらァ……」
「アイツがオレに対して怒りを向ければ向けるほどオレが全ての元凶と思い込むように仕込まれてたのか」
「とはいえこれは幼少の頃の記憶が曖昧な事を利用したやり方でしかないィ。真偽はともかくゥ、八神リクトの思考が余計な方に向かないようにするためだというならこの上なく最適といえる方法だなァ」
「その《ラース・ギア》を兄さんは破壊した。これがきっかけでリクトさんがホタルさんの死に疑問を抱き何かしらの方法で調べようとした」
「それがおそらく永楽寺院に現れた時のあの男の目的なのだろうな」
葉王の提供した説について納得はするもののどのようにして調べたのか分からないままである中話に介入するように獅天がレイガとやって来るなり発言し、獅天の言葉が気になった葉王が彼に視線を向けると獅天は詳細を語れと言われたと解釈したのか詳しく話し始めた。
「今思えば永楽寺院には何かしらの形で《十神》の所有地或いは管轄下である事を示す家紋が施されていた。あの男は《八神》の裏に《十神》の存在がある事を知り、そして真実に辿り尽く術として《十神》とコンタクトが取れるであろう人間がいる場所に赴いた……それが牙堂詠心のいる永楽寺院だったという事だろう」
「じゃあ、そこから十神シエナに辿り着き……」
「あの女から真相を聞き出したッてかァ?姫神ヒロムが目を覚ますまでに黒月クロトやコイツらから報告は受けたがァ、まさか真相に辿り着くカギとなった人間すら利用し捨てるとはなァ」
「縁も何も無い人間をも利用する、そうしてでも成功させたいものなのだろうな」
「でもヒロムさん、オレには理解できないところがあるんです。霊脈のエネルギーを正しく感じ取れるのは精霊との繋がりがあるヒロムさんのことなんですよね?」
「正確なことは分からないが現代において精霊という存在を認知させる分岐点となッたという意味では姫神ヒロムのことだなァ。地域・国単位で話し始めると例は多く出てきそうだがァ……待てよォ、姫神ヒロムゥ。八神リクトは精霊を宿していないよなァ?」
「あ?何を今更?アイツは宿してねぇよ。てかそれが……」
「ならどうしてあの人はヒロムさん専用の装備を扱えるんですか?」
「そこはレイガと同じでオレも疑問だった。何故あの男は覇王専用の武装を使いこなせる?アレが仮に霊脈からのエネルギーで稼働しているとするならそれを受け取る側となるあの男には相応の資格が必要になる事になるぞ」
「……いえ、資格ならリクトさんにもあります。むしろ……ボクとリクトさんならあのギアを扱う資格を代用出来ていると言えると思います」
レイガの言葉から葉王が気づき、そして新たに浮かび上がる疑問。何故、リクトはヒロムのためにと設計されていたはずの霊脈から来るエネルギーを扱う《オーバーロード・ギア》を扱えるのか?レイガと同じように獅天も疑問に思うと話すとトウマは心当たりがあるかのように自身も関係するある話を語ろうとした。