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The OUTRAGE  作者: hygirl
95/126

95話


「……さん!!……さん!!……兄さん!!」

 

 声がする、それだけは分かる。

 

 強く呼び掛けるような声が聞こえたヒロムは薄らとではあるがそれを認識し、曖昧な感覚が正常になろうとする中で周囲の情報を取り込める状態に回復しようとしていた。

 

 気がつけばそばにトウマがおり、状況の分からないヒロムは徐々に回復する意識の中でどうにか起き上がろうとした。


「よかった、兄さん。目を覚ましてくれて」 

「トウマ……オマエ、どうして……」

 

 薄れていた意識がハッキリするとそこは《八神》の研究施設であり、ここにいるはずのないトウマが何故いるのかという疑問を抱きながらも意識が薄れる前に起きた事を思い出したヒロムが周囲を見渡すと彼の視界には目を疑う光景が広がっていた。

 

「んだよ……これ……!?」

 

 ヒロムが目にしたもの、それは驚きを隠せずにはいられないものだった。意識が遠ざかる前までは壁が崩壊した程度に壊れていた研究施設が全壊に等しいレベルに壊れ果て、ヒロムの周囲には惨劇を示すかのように瓦礫が転がっていた。

 

 研究施設そのものが変わり果てるほどの状況、ヒロムはそれを目にしてふとシンクやクロトたちの安否が気になりすぐに動こうとするがそんな彼を止めるかのように誰かが後ろからヒロムの肩を掴み、誰が肩を掴んだのかと確かめようとヒロムが後ろを見るとそこにはトウマの秘書を務める天心がいた。

 

「トウマの秘書の……天心、さん?」

「お久しぶりですヒロム様。先程は席を外しておりご挨拶を出来ず申し訳ございませんでした」

 

「挨拶とかそんなのはどうでもいい。それより、シンクやクロト……アイツらは?」

「現状確認出来ていることだけの報告にはなりますがシンク様のおかげでこちらにヒロム様と同行された皆様はご無事です。が、クロト様、キラ様、アスラン様の3名は強い打撃を受けたようなダメージの影響で動けたとしても万全の状態での戦闘は厳しいかと思われます。レイガ様とお連れの方は軽傷だったようですので私とトウマ様がお連れした医療班の治癒術を受けておられます」

 

「シンクがどうにかして崩壊するこの施設の瓦礫から皆を守ろうと氷壁で守ってくれたおかげで調査員含めて重傷者は出なかったみたいだ」

「シンクは……?」

「……リクトさんを追いかけている。大した怪我じゃないって事で研究施設近くの監視カメラの映像から行き先を割り出しながら止めようとしてくれてる」

 

「……どうしてここに?」


 状況について聞かされたヒロム、だが何よりも気になるのは《八神》の屋敷にいるはずのトウマが秘書の天心とここにいることは疑問でしかなく、その謎をハッキリさせなければヒロムの気が済まなかった。

 

 何故ここにいるのか、それをヒロムに問われたトウマは深刻な面持ちでヒロムにここに来るに至った理由について語り始めた。

 

「兄さんたちがここに向かって直ぐに天心さんが《八神》のネットワークによる情報のアクセスとそれに伴い露見したあるデータを見つけたんだ」

「ギア・シリーズか?」

「……うん、その通りだよ。兄さんの想像した通りギア・シリーズの設計データとそれに関する企画書と報告書のコピー、そして兄さんが《八神》の人間としての傀儡になった際に使用させる予定の最初に企画されたギア・シリーズに関しての情報だった。《オーバーロード・ギア》、霊脈から来るエネルギーを力に変換した質量すら無視する破壊と他を圧倒するだけの兵力を全て備える支配のための武装、企画と開発がある程度まで進められたところで試作機がつくられテストが行われたんだけど、そのテストは失敗に終わった」

 

「まさかだが、そのテストにあてがわれたのは……」

「うん、リクトさんのお姉さんのホタルさんだったんだ。兄さんには敵わずとも同じように精霊を宿していたホタルさんが初期性能と起動実験に選ばれ、彼女はそれを引き受けた事でテストは勧められた。けど……当時の大人たちが『無能』と烙印を押し見下していた兄さんの潜在能力は関係者の想定を遥かに上回っていたらしくホタルさんは武装の起動を行うだけで魂が摩耗し、その結果彼女はあらゆる機能が阻害されてしまうこととなり最終的には錯乱し自らの心を壊すという形での死を迎えてしまった……」

 

「その死の真相すら隠されてたのか?」

「開発関係者はこれを失敗として受け止め開発そのものを止めるつもりはなかった。それどころかこれを1つの成功としたんだ」

 

「発見されたデータの中にはこのテストの段階でホタル様に取り付けられた計測装置にて魔力の増幅が確認されたとして使用者の魔力を増幅させるという面を見つけたとしていました。そして当時の開発関係者は恐ろしい暴挙に出ました」

 

「オーバーロードを原点にした性能の分散によるシリーズ化か」

「事はそう簡単ではありませんヒロム様。開発関係者はヒロム様に扱わせるという目的の上で次に『精霊』に着眼しました。精霊という存在は現代において至極稀な存在とされ、その存在はヒロム様の魂と繋がっているというところに注目したのです」

「どういう……」

「兄さん、ギア・シリーズは《八神》の人間の魂が対価に使われてるのは知ってるよね?」

「分かってる。非人道的な方法で作られた武装、それがギア・シリーズだろ?」

 

「当時このギア・シリーズの開発継続については反対派が出ていた。兄さんと同じ才能を持つとされるホタルさんを失わせた計画を良しとしない反対派が」

「まさか……」

「そう、十神アルトや当時の開発に関与していた《十神》の人間、それに協力する姿勢を見せていた《八神》の研究者は口封じも込めてこの反対派を根絶やしにするために犠牲にしたんだ。ホタルさんの犠牲の上で得たデータを基に分岐するように生まれた複数のギアは総称としてギア・シリーズと呼ばれ、兄さんが《角王》を滅ぼしたあの時まで戦いの裏では戦闘データが蓄積されていた」

 

「まさか……」

「そう、あの日兄さんが日本を変えるきっかけをつくったあの事件が起きるまでの全てはギア・シリーズの開発関係者にとっては性能テストの延長でしかなかったんだ」

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