94話
《オーバーロード・ギア》を発動させ新たな姿となって降臨したリクト。その姿はシェリーやパラディンがギア・シリーズを発動した際の姿とは大きく異なっていた。
黒を帯びたような金色の鎧に身を包み紫を重ねたような紅いマントを翻し、降臨する前に蔓延していた闇と同質と思われるものを羽衣のようにして首周りに纏った姿となったリクトの髪は長く伸びるだけでなく銀色へと変色し、そして彼の瞳は右が白、左が黒のオッドアイとなっていた。
人の姿のまま力を得て変化を遂げたと言っても過言では無いリクトの変わり様にヒロムは言葉を奪われ、ヒロムが言葉を奪われ動けなくなっている中でシンクをはじめクロトたちはリクトを倒すべく構えると走り出した。
「リクト!!今のオマエは野放しには出来ない!!ここで倒させてもらうぞ!!」
「宣告……オマエはこの世界の害となった以上、ここで殺す!!」
先陣を切るようにシンクとクロトがリクトに接近すると敵として完全に認識した彼を倒すべく攻撃を仕掛けようとするがリクトは2人が攻撃しようとすると空間を歪ませながら2人の前から姿を消し、リクトが消えた事で攻撃が不発に終わったシンクとクロトが消えたリクトを探すべく行動に移そうとすると2人は突然何かに弾かれたかのように勢いよく左右へと吹き飛ばされてしまう。
何が起きたか分からぬままシンクとクロトは吹き飛ばされて倒れてしまい、2人が倒れると消えたはずのリクトが同じ場所に立つように静かに現れる。が、リクトが現れると今度はアスランが自身の能力で生成した剣を用いて斬り掛かろうとし、アスランが攻撃しようとする中でリクトが何か動きを見せるようとするとそれを阻止するかのようにキラが指を鳴らすと同時にリクトを包囲するようにキューブ状のエネルギーで檻を形成させて拘束すると同時に閉じ込めてみせた。
「逃がさねスよ!!」
「良きアシストだ羅国キラ。このチャンスは逃さ……
「悪手だな」
キラによるリクトの拘束に対してアスランは感謝を口にすると支援に対する礼としてリクトを仕留めてみせようとするがリクトは2人の連携を嘲笑うかのように軽く手を振るだけでキラが生成したエネルギーのキューブを容易く破壊してアスランが手にする剣を眼光を鋭くさせ睨むだけで破壊し、そしてリクトはアスランの横を音もなく通り過ぎてキラの前へ移動してみせると手をかざすとシンクやクロトのようにキラをも何かで吹き飛ばしてみせ、リクトが通り過ぎた事に遅れて気づいたアスランが反応して振り向こうとするとアスランも同様に何かによって吹き飛ばされてシンクたちのように倒れてしまう。
一瞬にして4人が倒れた、そして4人を倒したリクトの強さにヒロムも戦わなければと動こうとするが突然酷い疲労感に襲われるとバランスを崩すように倒れてしまい、ヒロムが倒れてしまうとリクトは冷たい眼差しで倒れたヒロムを見ながら彼に近づこうとした。
だがそんなヒロムを守ろうとレイガが彼の前に立ち、ヒロムの前に立ったレイガがリクトの行く手を阻もうとするとそれに合わせるかのように獅天が黒い風と雷を纏いながらリクトに接近して殴りかかろうとした。
リクトを殴ろうとした獅天の拳はあと数cm程でリクトに直撃する所まで迫るも直撃する寸前のところで何かに止められてしまい、拳が止まったことに獅天が舌打ちをし苛立ちを見せるとリクトは不思議そうな顔で獅天を見ると彼に尋ねるように話し始めた。
「オマエのその怒りは道化として利用された事に対してか?」
「貴様には関係の無い事……強いて言うなら、貴様により汚された武術士としての誇りがある故の怒りだ!!」
「ふん……くだらん」
獅天が口にする『誇り』について理解しようとする気もないリクトが指を鳴らすと獅天が纏う黒い力が爆ぜるように消滅し、流れからして自身も前4人のように吹き飛ばされると感じた獅天は本能的なものか咄嗟に防御しようとし、同じようなものを感じていたであろうレイガは獅天を助けようと緑色の炎と雷鳴を強く纏いながらリクトに迫り攻撃しようとした。
全容の把握が出来ていない攻撃に対応しようとする獅天とその彼に加勢しようと敵に迫ろうとするレイガ、2人の行動に対してリクトが何か思うようなこともなく獅天に向けていた視線を逸らすとその瞬間、2人はシンクたち同様に何かによって吹き飛ばされ倒れてしまう。
が、吹き飛ばされる瞬間まで力を纏っていたレイガは完全に倒れることなく受身を取ることが出来たらしく立ち上がろうとするがそんなレイガを確実に潰そうとするかのように何かが押し寄せるように彼に襲いかかって壁面へと叩きつけてしまう。
「オマエら……!!」
「やめておけ。今のオマエじゃ何も出来ない」
リクトを倒そうと挑んだシンクたちが触れることすら出来ずに倒れた、その現状を見せられたヒロムは突然の酷い疲労感に抗うように倒れた体を立ち上がらせようとするが、リクトはそんなヒロムの前に立つと彼に向けてある事実を語り始めた。
「この《オーバーロード・ギア》、そもそも誰のための武装として生み出されたと思う?」
「黙れ、リクト……!!」
「怒りに囚われるなヒロム。せっかく情報を与えてやるんだから有難く聞いておけ。このギアは原点だと言っただろ?何故原点なのか……それはなヒロム、このギアがオマエが使う事を前提にした武装であり、同時にオマエの精霊の力を第三者が扱えるようになるために設計されたものなんだよ」
「オレが……使う前提だと?」
「信じる信じないは別だが……遊びはここまでだ。そろそろ変革を始めないといけない、オレは最初の目的地へ向かう。ヒロム、オマエがもし阻止するつもりで来るのなら……オマエを蔑もうとした人間が傷つかないように駆けつける事だな」
じゃあな、とリクトが最後の言葉を発したその時、ヒロムの視界は真っ白になり、そして……
気がつけば何もかもが壊れるような音が響き渡りヒロムの意識は遠ざかろうとしていた。