93話
シェリーとパラディンこと牙堂詠心、2人の使用したギア・シリーズと呼ばれる武装の放つエネルギーがぶつかり合うことでリクトの頭上に生まれる王冠の形をした何か。それが何かはヒロムたちは詳細を知る術はリクトに聞く他ないが、今言える確かな事は目の前で生まれているそれがリクトの言う『変革』を成すための力でありヒロムたちの把握していないギア・シリーズだろうということだけ。
エネルギーを放ち続けていた2つの武装、エネルギーの放射が止まると小さな爆発を起こしながら2つの武装は壊れ落ち、そしてリクトは王冠の形をしたものを手に取り笑みを浮かべる。
「あぁ……これだ。この力を求めていた。オレ専用に用意された《ラース・ギア》にも2人の愚者を利用するためにつくった《キング・ギア》と《クイーン・ギア》にも……これまでつくられたどれよりも強く圧倒的な力を秘めたこれをオレは求めていた」
「リクト……それは、なんだ?」
「おかしなことを聞くなよヒロム。これは変革のための力だ」
「そうじゃない!!オマエ、自分が何をしてるのか分かってるのか!?オマエが言う《ラース・ギア》をはじめとした《角王》に与えられていたその装備がどうやってつくられていたのか、オマエは知ってるはずだろ!!」
「知ってるさ……《八神》の人間の魂を供物とした武装の生成、人の生命を道具に転用する非人道的な方法だと言いたいんだろ?」
「それを知っててどうしてオマエは……
「やめろヒロム。それ以上はオマエの心が消耗するだけだ」
「同感、アレを説得するのは愚策だ」
笑みを浮かべるリクトに自分が何をしたのかを問いただそうとするヒロムを止めるようにシンクとクロトはヒロムにこれ以上の彼への発言は無駄だと伝え、その上でシンクはリクトを見ながらヒロムにある事を伝えた。
「精神干渉汚染……こんな形で認めるのが悲しい限りだが、リクトはもう普通の状態じゃない。強い力に精神が汚染されて正常な思考を持てなくなっている」
「肯定、さっきから発言にブレが見られる。これは明らかに精神状態が正常ではないことの証明だ」
「精神干渉汚染……だとしたらアイツは何によって心を蝕まれた?」
「見て分かるだろヒロム。アイツは……ギア・シリーズという非人道的な武装の力に喰われたんだよ」
「それが……あの王冠だってのか?」
「王冠だなんて冷たい言い方するなよ。これは《オーバーロード・ギア》、全てのギア・シリーズの原点として開発されるもその力は扱うには危険だとして《キング》と《クイーン》、そして多くのギア・シリーズに分ける形で存在を封印されたものだ」
「オーバーロード……」
「そんな名前、オレは傀儡にされていた頃の《八神》で聞いたことがないが?」
「それは無理もないシンク。ギア・シリーズの全容と詳細はあくまで開発関係者しか知らない事でオマエみたいな下っ端のふりをしていた人間には内密にされていた。だから知らなくても仕方ない」
「トウマはこの事を?」
「それは臣下のオマエから聞けばいいことだろシンク?まぁ、仮に聞かされていたとしても《八神》の中で精神を乗っ取られ傀儡にされていたトウマが記憶しているかは定かではないが……そんな事はどうでもいい。これが完成した今、何もかもが些細な事に感じてしまえる」
「貴様、1つ教えろ。何故オレがあの女の依頼を受け《八神》に捕まるように仕向けた?」
リクトの今の精神状態は普通ではないと見るシンクとクロトに諭されるヒロムに向けて自身が手にしたものが《オーバーロード・ギア》という名の代物だと明かしたリクトはシンクが知らない理由をも簡単に明かして見せるも何もかもが些細な事でどうでもいいと思えると言い切ってしまう。そんなリクトにアスランは彼にとっては1番の謎である何故自分に白羽の矢が立ち海外へと渡航させられたのか、その真相を聞き出そうとし、アスランの質問を受けたリクトは顔色1つ変えないで当然のように答えた。
「単にオマエはあの女の放った餌に偶然かかっただけの巻き込まれた側の人間だ。パラディンという存在を認識した上で密入国者の件によって《八神》もしくは《一条》に拘束されてヒロムに何かしらの形で関与するのなら別に誰でもよかったところにオマエが来ただけだ」
「つまり、貴様のくだらない変革とやらの前座に付き合わされたということか」
「そうなるな。もっとも……オレからすればこの《オーバーロード・ギア》の完成までは余興でしかない」
アスランの質問、その質問が来る事を予想していたかのようにリクトは当然のように語り、そして……
「オーバーロード・ギア……解放」
リクトの発した言葉に呼応するように王冠のようなもの……《オーバーロード・ギア》がヒロムの白銀の稲妻に酷似した禍々しい色の力を放出しながらリクトを飲み込み、リクトを飲み込んだその力は棺に近い形となりながら闇を蔓延させ、闇が広がる中で棺に近い形となったそれが砕け散ると新たな姿となったリクトが降臨した。
「……さぁ、全てを変える時だ」