87話
そして、今……
パラディンを倒そうとするシンクにレイガ、獅天が加勢した事で新たな流れが生まれ、シンクの氷による攻撃を起点にしたレイガと獅天の格闘術で決めるという流れのもとで生まれるパラディンへの連携攻撃が続けられていた。が、この3人の連携攻撃をもってしてもパラディンを追い詰めるまでには至っておらず、どちらかというとこの連携攻撃を放ち続けていることによりレイガと獅天の方がシンクよりも消耗してしまっているという事態に陥っている。
「はぁ……はぁ……」
「くっ……」
「やはり、ダメか……」
(獣身武闘拳の2人の介入はあの男にとっての大きな想定外になるはずだったが、そもそもを見誤っていたな。獅天と呼ばれていた男、アイツは死獅王を名乗っていたが今はその名を捨てレイガに手を貸している……そこだけを見るならあの2人の間の蟠りが消え、死獅王を名乗る理由も無くなった獅天がこちら側に寝返ったと解釈するのが自然だが、そこに至るまでに一悶着あったとすれば2人はヒロム同様消耗してることになる。数的にはヒロムと2人の時より1人増えてる分はあるとはいえ、ヒロムほどの爆発力は……)
「ふむ、氷堂シンクの力も見事だがキミたちの力も見事だ。とくに獅天、私が手を加えたその黒の力……暴走せず扱えるようになったのは素晴らしいことだ」
「今更褒めても何も出んぞ。それにこれはオレが1人で成し得たことじゃない……オレを救おうと正面から向き合ってくれたレイガがいたからこそ、その心に応えたいと思えたからこそ御する事を成し遂げたんだ」
「精神論……とはつまらない。レイガの《破撃》とキミの《鬼撃》は調整次第で色々と試せると思ってたのだが……使い手が堕落したのではダメだな」
つまらない、とパラディンは獅天の言葉に対して一切感情の込められていない完全なる無関心を突きつけるような一言を発すると共にシンクたちに向けて自らの力を解き放とうとし、パラディンが一撃を仕掛けてくると察したシンクはすぐに対応しようと冷気を強く纏いながら構えようとした。
その時……
「待たせた……!!」
パラディンの一撃が放たれようとする中でヒロムはシンクたちに加勢するかのように駆けつけ現れ、駆けつけ現れたヒロムはシンクたちの前に立つと白銀の稲妻を轟かせるようにその力を高めさせていく。
「ヒロム!?早まるな!!いくらパラディンが手強いとしても……
「オレには見えているんだ、シンク。パラディンを倒す未来……オレたちが悪意を討ち破る道が!!」
「今更現れて何を企もうと無駄だ!!」
ヒロムの白銀の稲妻の力の高まりにシンクは彼が事を急いでいると思ってしまい彼を止めようとするもヒロムは確信を得ているように強気に返し、そんなヒロムの確信を彼諸共消し飛ばそうと考えるパラディンは闇を高めた一撃を解き放ちヒロムたちにぶつけようと撃ち飛ばした。
パラディンが一撃を放ったその瞬間、ヒロムは右手を素早く敵の放った一撃に向けてかざすように突き出すと同時に高めた白銀の稲妻を右手へと集めさせ、そして……
「双刃よ、我が未来の道を切り開く閃きとなれ!!」
ヒロムが言葉を発すると彼の右手に集められた白銀の稲妻は緑色の光を帯びながら彼の手から解き放たれてパラディンの放った一撃へと向かっていき、緑色の光を帯びた稲妻が敵の一撃に迫り2つの力が衝突すると思われた瞬間、パラディンの放った一撃は刀剣に斬られたかのように両断されて消滅し、そしてヒロムの放った緑色の光を帯びた稲妻は強い輝きを発するとその中より人の形をした何かを出現させる。
出現した何か、それは……精霊だった。
緑色の髪を邪魔にならぬように後ろでまとめた髪型、最低限の防御性しか持たないであろうアーマーを機動性を失わないレベルで装備しており、緑色の双剣を装備した少女の姿をした精霊は稲妻の中より現れると双剣を構えながらヒロムの前に立ち、姿を現した精霊の少女を目にしたシンクは驚いた反応を見せていた。
「アレは……ヒロムの精霊!?」
(オレがこれまでに見てきたヒロムの精霊にはいなかった精霊……あの事件で宿り直した精霊の1人ということか?)
「マスター……精霊・ユリア、アナタの剣となるべく参りました」
「ああ、頼りにしてるぜユリア」
「それと……アナタたちのことは名で呼ばせてもらっても?」
ヒロムに自らの名を明かした精霊の少女……ユリアはヒロムのもとへ素早く駆け現れたフレイとラミアを見ながら2人に確認し、ユリアの確認に関してフレイとラミアは優しく微笑みながら静かに頷き返して自分たちの意志を伝え、それを受けたユリアは応えるように頷くとヒロムが倒そうとする敵・パラディンを視界に捉えながらヒロムに伝えた。
「行きましょうマスター。アナタの道を阻む敵を討つ為に!!」
「今までのが嘘みたいにやる気満々じゃねぇか。けど、そのやる気に期待させてもらうぜ!!」