86話
レイガと獅天の介入の瞬間まで遡り……
2人の介入により全員の注目が2人の方へ向けられ、シンクも彼らの介入によりパラディン撃破の糸口を見出そうとしている中、ヒロムは戦闘の消耗からか小さくではあるが息を切らし始めていた。
「はぁ……はぁ……」
(クソ……あの外道倒せば終わるだろうってことで勢いに任せて攻めようと思ったけど、思いの他消耗してるのが効いてきてるな。シンクの動きに合わせる、だけじゃオレが足手まといになるから今のオレに出来る最大限の先読みで上手く立ち回ってるけど……こんなもん長続きしない。レイガと死獅王……いや、今は獅天か。あの2人の介入で流れが変わってパラディンを仕留める絶好のチャンスが来るのは間違い無いはずだが……)
「どう動こうとオレが足手まといになりやすい状況は変わらねぇな」
ヒロムが自身の状態について振り返り自身の状態が如何に芳しくないかを痛感し、レイガと獅天の介入により流れが変わる事を期待しながらも自身の状態については変わらないと自らの状態と不甲斐なさに呆れる他なくヒロムはため息をついてしまうしかなかった。
そんなヒロムのそばにフレイとラミアが現れ、2人の精霊は主である彼に優しく声をかけようとするが、2人の精霊が声をかけようとしたその時、ヒロムの中に彼も予期せぬ事が起きようとしていた。
『苦戦しているようね』
「その声……」
ヒロムの脳内に伝わってくる声、その声にヒロムは覚えがあった。《八神》の屋敷の敷地内での戦闘の際、ヒロムが白銀の稲妻を纏えるようになったきっかけとなる異空間での精霊との邂逅、その際にヒロムを認めていない精霊側の代表として話していた1人の精霊の声だったのだ。
「何の用だ?まさか、あまりに不甲斐なさすぎて見限りに来たのか?」
『不甲斐ないとは思っていませんが少し理解に苦しむところはありますね。何故、そこまでして必死になるのです?アナタが与えられた使命がそうさせているのですか?』
「使命、か。いいや、そんな立派なものじゃねぇよ」
『では何故なのです?』
「単なるオレの我儘だ」
何故必死になるのか、声の主たる精霊の質問に対してヒロムは当たり前のように自身の我儘だと答え、ヒロムの答えが意外だったのか声の主は少し黙ってしまい、彼女が黙ってしまうとヒロムは軽く鼻で笑った後に自身の発言について補足しようと話し始めた。
「別にオレが頑張らなくていいならここまで必死にはならねぇ。必死になるのは面倒だし頑張ったところで大して褒められることもねぇし費用対効果っての?そこで考えるとオレが頑張る必要はねぇんだろうなっていう気持ちはある。あと、単純に正義の味方みたいな出しゃばるような真似もしたくねぇしな」
『……では何故?』
「……気がついたら放っておけなくなってんだよ、オレの心が。目の前にいるのを見逃し野放しにした結果でオレにとって大切なものが傷つけられたらオレの心はそれを許せなくなる。単純に……それだけ、オレの面倒だと思う感情と一緒にオレは大切なものを傷つけられたくないと思ってしまう。だから……面倒だと思いながらも必死になってしまうんだ」
声の主に自分なりの言葉で語り説明しようとするヒロム。ヒロムが語る中で彼の脳裏にはこれまで共に苦難を乗り越えてきた仲間、彼を支えてきたフレイたち精霊、そして……彼を見守り続けてくれる少女たちの姿が浮かび上がった。
上手くは話せない、それでま伝えようとしたヒロムの言葉が声の主に伝えられたであろう中でレイガと獅天の介入からのシンクによるパラディン攻略が始まり、ヒロムもそこに加わるべく拳を握りながら向かおうとした。
その時だった。
『今のアナタのその状態、そのままでは過度の消耗でマイナスしか生まないでしょう。ですが……もしプラスに変えられるならどうしますか?』
「プラスに……?」
『今のアナタと高度な連携出来る人間はあの氷の彼、精霊という観点ならばそこにいる2人だけでしょう』
「……そうかもな。現界させてないマリアやテミス、ティアーユ、ステラ、アイリスじゃフレイとラミアみたいな戦闘力の発揮は難しいかもな」
『ならばもし、その7人の他に連携が取れる精霊が手を貸すとなればどうです?』
「……は?」
「マスター、これは……」
『アナタの予想通りです精霊・フレイ。私がアナタの……マスターの剣として戦場を舞うのです。これならばアナタの現状でプラスを生み出せますか?』
声の主からの加勢の提案、それを受けたヒロムの中でいくつもの可能性に至る道が浮かび上がり、そして……
「そうか……それなら……いける!!」