74話
力の目覚め、過去の呪縛より解き放たれた獣と成りて戦う拳士となったレイガの攻撃は見事に決まった。が、それでも死獅王は終わろうとしない。
暴走状態故の痛覚麻痺が発生しているのか、それとも攻撃を受け痛みを感じようと暴走状態故に戦う事以外考えられないのか……その辺については死獅王本人にしか分かりえない事だがヒロムたちの前にいる暴走状態の男は鬼人の姿となった今、拳士として能力者として完成したレイガを相手にする上で臆する事がないのは確かであり、攻撃を食らわせた側のレイガも死獅王が立ち上がる事に異常さを感じていた。
そしてそれはヒロムやクロトも同じように感じている事だった。
「流石に今のオレの技だけじゃ倒れないか……」
『ガァァァァァ……』
「暴走状態になって自我が消えたせいか獣そのものに成ったのか?オレの知る兄弟子としてのアンタの姿はどこに行ったのやら……だな」
『ガァァァァァ……』
「アンタの中に誇りがあるのなら目を覚ましてくれ。パラディンに利用されるだけの死獅王ではなく、オレの知る強き者である獅天に戻ってくれ」
『ガァァァァァ!!』
「戻る気がないなら力づくで戻してやる!!だから……歯ぁ食いしばれや!!」
レイガの言葉など届いていない、もしくは理解出来ていない死獅王は雄叫びを上げながら立ち上がるとレイガを倒そうと動き出し、レイガも拳を強く握ると死獅王を迎撃しようと動き出した。
動き出した死獅王は黒い力を身に纏いながらレイガへと迫ると獣のように荒々しい動きでの連続攻撃を放ち、レイガは緑色の炎と雷鳴を纏いながら死獅王が放つ連撃攻撃を躱すと死獅王が連撃攻撃を放った直後に生まれる隙をつくかのようにして背後へと回り込むと両手に力を纏わせながら勢いよく掌底を突き出し相手の背中へと叩き込んでみせた。
「獣身武闘拳……虎突!!」
両手の掌底、力を纏わせてのその攻撃は背後を取られた死獅王に対して見事に決まった。普通なら背中に強い一撃を受ければそこで終わる……のだが今の死獅王は普通でないことを表すかのように耐えてしまい、レイガの背後からの攻撃に耐えた死獅王は背後にいるレイガの方を振り向こうとし、その中で死獅王は黒い力を両手に纏わせそれを爪のようにして見せるとレイガを振り向きざまに切り裂こうとするかのようにその爪を用いて襲いかかろうとした。
しかし、今のレイガがそれを受けるはずがなかった。
死獅王が黒い力を用いた爪による攻撃を振り向くと同時に放とうとするのを彼の動きと気配から察知したレイガは地を強く蹴ると死獅王の背丈よりもさらに高い位置まで跳び上がり、レイガのその驚異的な跳躍によって死獅王の攻撃が空振りに終わると今度はレイガが一撃を披露しようと空中で立て直し右脚を勢いよく振り上げ雷鳴を纏わせると死獅王の脳天へ向けて踵落としを炸裂させようとした。
「獣身武闘拳……龍落!!」
レイガの放つ踵落としは見事なまでに綺麗に死獅王の脳天へ叩き込まれ、さらに踵落としを叩き込んだ脚の纏った雷鳴が雷撃となり爆ぜると死獅王は全身に凄まじい衝撃を受けてしまい立つことすら出来なくなったのか膝をつくように倒れてしまう。
流石にこれで決まったか?そう思いたかったレイガが踵落としを放ち終えて着地し一度距離を確保しようと後ろに軽く跳ぼうとすると倒れたはずの死獅王が勢いよく起き上がるとレイガに向かって大きな口を開けると同時に雄叫びを上げ、雄叫びに呼応するかのように黒い力が衝撃となって地を破壊しながらレイガに襲いかかり彼を負傷させようとした。
『ガァァァァァ!!』
「くっ……!!」
レイガの立て直そうと判断した直後の行動を狙うかのような死獅王の武術とは縁のない攻撃に反応が遅れたレイガは咄嗟の防御の構えに加えて瞬間的な判断で緑色の炎を前面に集め盾のようにする事で直撃を免れるも不意打ちに等しい相手の攻撃への対処が遅れた事による多少のダメージを受け傷を負ってしまう。傷を負ってしまったとはいえ軽度なものだったらしくレイガは気にする様子もなく構えようとし、レイガに軽度ではあるものの傷を負わせた死獅王はゆっくりと立ち上がるとレイガを睨みながら黒い力を増幅させるかのように勢いよく強く内側から溢れ出させていく。
暴走状態にありながらも死獅王はレイガを倒すために持てる力を出して一撃を放とうとしている、それを彼の構え立ち姿から察したレイガは深呼吸をするとそれに応えようとするかのように構えてパラディンが《破撃》と呼んだ緑色の炎と雷鳴をこれまでよりも強く身に纏いながら構えてみせた。
そして……
「いくぞ獅天……これで決めてやる。
この一撃でオマエを死獅王という殻の中から助けてやる!!」
『ガァァァァァ!!』
「見せてやる……これが獣身武闘拳の龍と虎の力を合わせ使うオレが放つ奥義だ!!」
覚悟を決め、次の一撃で死獅王を救うと宣言したレイガが地を強く踏み右の拳を握りしめると彼の宿す力は凄まじい勢いでその力を増幅させ、増幅する力を纏いながら一歩踏み出したレイガは瞬く間に死獅王へと接近すると右の拳に全ての力を集約させながら突き出そうとした。
「獣身武闘拳……奥義!!龍虎一対、獣極拳!!」
レイガが奥義と言う一撃、突き出された拳撃は死獅王に叩き込まれ、そして……