73話
暴走する死獅王を前にして今度は自分が覚悟を示す番だと強気に出るレイガ。レイガが一体何をする気なのか分からないヒロムとクロトは構え直す中で彼の行動に注目しようとし、一方で研究施設の中から見ているであろうパラディンはレイガの言葉がおかしいのか笑っていた。
『何を言い出すかと思えば……ハハハハハハ!!キミでは何も出来ないよレイガ!!キミの中にある力は不完全、肉体的な部分は姫神ヒロムのそれに近づけたというだけで実の所肝心な部分は完成していない!!そこにいる暴走中の死獅王があの日余計な事に気づかなければキミは最高傑作の戦士となれたのに……今では不完全過ぎて笑えない多少身体能力が高いだけの人間だ!!』
「あのクソ野郎……!!」
「たしかにアンタの言う通りオレは未熟だ。そして今のオレはヒロムさんやクロトに遠く及ばない」
『ほぅ、自らの力を理解しているのか。それなのに愚かな行いを起こそうと言うのか?』
「オレは偽りの記憶を信じてここまで来て、アンタの話した真実を聞かされ自分の信じてきたものが何だったのか分からなくなって何もかも諦めたくなってしまった。憎悪に飲まれ暴走していた時ですら仕組まれたことだと思うと何も信じられなくなりかけた。けど、ヒロムさんはそんなオレに道を示そうとしてくれた。それに……ヒロムさんは出会った時からオレを信じてくれていた!!」
パラディンの言葉に対してレイガは自身が先刻の戦いの中で絶望に追いやられ何も出来なくなった事を振り返りながらもヒロムが見せてくれた勇姿を思い出し、そしてその中でレイガは自身がヒロムに言われたある言葉を思い出していた。
『オレはオマエの心と託されたもののために道を外しかけたら止めるがそれ以外ならオマエを信じて任せる』
『殺す』ではなく『止める』、これまでヒロムと行動してきたレイガの言葉の中にはレイガなりの信念があるとして彼の行動を信じて任せると話してくれたヒロムの言葉、その言葉を思い出したレイガが拳を強く握ると気のような力は大きく拡がりを見せると炎にように変化し、そして炎のように変化したその力がさらに力を増していく中でレイガは拳を強く握ると己の中にある気を高めようとした。
「今ここにオレの信じたもの!!オレや獅天の信じたものを壊そうとする害悪が居ると言うならオレはオレたちの信じた志を守るために獣となり戦士となりて戦う!!この身に宿る力がオレの手に扱えぬ力であろうと……オレは!!オレの覚悟を示すために御して見せる!!」
レイガが己の覚悟を強く言葉として発すると炎のように変化した力は緑色に染まり上がると炎と共に雷鳴を起こし、緑色の炎と雷鳴を呼び起こすレイガの瞳が赤く光ると彼の黒髪は逆立つと共に緑に変化し額に炎の角が2本現れ、その瞬間彼の力がこれまでにないほどに高まりを見せていく。
高まりを見せるレイガの内に眠っていた力、そのレイガの力を目にしたヒロムとクロトは彼の目覚めた力に目を奪われ、そしてレイガを散々見下し笑い続けていたパラディンは目の前で起きてる事を信じたくないのか声を荒げて否定しようとした。
『ありえん!!そんな事、あるわけがない!!オマエの力は……オマエの《破撃》の力は私が不完全な状態で留めていたから私の関与無しに制御出来るはず無いのに……何故だ!?』
「パラディン……いや、牙堂詠心!!アンタがどんな思いでオレや獅天に獣身武闘拳を教えたかなんてこの際どうでもいい!!オレは今、この瞬間!!アンタがオレに教えた技で強き者と成りて獅天を暴走から救い出してみせる!!」
『ふざけるな……ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな!!所詮モルモットとして使い捨てにされるしかない人間兵器如きがこの私に楯突くなど許されるわけが無い!!』
「許されなくて構わない……オレはこの身に刻みしアンタに与えられた虎と龍の2つの獣を冠した技で未来への道を開く!!」
『許さん!!そいつを殺せ、死獅王!!』
『ガァァァァァ!!』
「ヒロムさん、ここはオレに!!」
「はっ、この流れで手出するわけないだろ!!見せつけて来い、レイガ!!」
「押忍っ!!」
レイガの言葉と態度がこれまで単なる実験台程度でしか見ていなかった牙堂詠心の感情を完全に爆発させ、もはや感情が抑えられなくなったパラディンは死獅王にレイガを殺すように指示を出してしまう。指示を出された死獅王は抵抗する様子もなく吠えるとレイガを倒そうと走り出し、レイガはヒロムの後押しを受けると拳を強く握りながら構えると同時に地を蹴ると一気に死獅王に接近してみせ、そして……
「獣身武闘拳……龍脚!!」
死獅王に接近したレイガは右脚に力を纏わせると同時に素早い蹴りを放って敵に直撃させ、蹴りを受けた死獅王が怯むと今度は拳に力を纏わせて連撃を叩き込もうとした。
「連技……虎連撃!!」
蹴りを受けた死獅王に叩き込まれるレイガの連撃。内に眠りし力を目覚めさせたレイガの力を暴走状態の死獅王は防ぐことも出来ずその身に受ける他なく、レイガの連撃を受けた死獅王は勢いよく吹き飛ばされると転がるように倒れてしまう。
倒れた死獅王だがそれで終わるはずもなく黒い力を強く纏いながら立ち上がろうとし、死獅王が立ち上がろうとするとレイガは右の拳を死獅王に向けて突き出すと彼に向かって叫び伝えようとした。
「待ってろ獅天!!今からオマエを力の呪縛から助け出してやる!!」