72話
パラディンのあまりにも身勝手な発言にヒロムたちが怒りを抑えられずにいる中で突然死獅王は苦しみ出し己が身に纏っていた力に飲み込まれ、その結果なのか死獅王は金髪をなびかせる黒い鬼人のような姿に変貌してしまい、死獅王のその姿を見せられたヒロム、クロト、レイガは驚かずにはいられなかった。
『ガァァァァァ!!』
「何がどうなってる……!?」
(暴走?それで片付けられるような状態なのかアレは!?
能力者の能力が暴走した、てだけならあんな風に見た目まで変わるわけが無い!!何が起きた!?パラディンは死獅王に何をした!?)
『姫神ヒロム、キミは今死獅王の身に何が起きたのかを考えているんじゃないか?』
「……だとしたら何だ?オマエがアイツに何かしたんだろ?」
『そう、私が手を施した。だが私は悪くない。悪いのは私の施した力に適応出来なかった彼なのだよ』
「施した……だと?オマエはアイツに何をした!!」
『うるさい男だねぇキミは。まぁ、どの道知る事になるんだから話してあげよう。私はあの地下施設にてレイガと獅天に人体実験で行っていた。キミたちは地下で見つけたんだろ?私がレイガの事を被験体と記していた書記を』
「死獅王……いや、獅天もそうだって言いたいのか?」
『その通り、だが少し訂正を入れよう。獅天は私にとっては最初の被験体でありその内容は彼を器として精霊の力に代用可能と考えられた霊脈を通るエネルギーを流し込んでの人間の精霊化だ』
「人間の……精霊化、だと?」
『ありえない、とは思わないはずだ姫神ヒロム。キミは産まれてから今に至るまでその魂の一部が人間ではなく精霊として変化している。だからこそキミは人間でありながら精霊の力を受け取ることが出来、霊脈から流れ生まれるエネルギーを正しく感じ取れる。私はその状態を獅天に試した。結果は……拒絶反応を引き起こしてしまい、彼の能力は黒く変異した』
「今の獅天の能力は……オマエのせいでああなったってのか?」
『そう、間違いなく私のせいだね。当時はその程度で終わったかのように思われたが時を経て死獅王に変化が起き始めた。彼を用いた被験体同士による戦闘テストの中で彼はある一定の段階まで力を解放すると今みたいな姿となり獣のように暴れるしか出来なくなる《強制変身》のようなものが見られるようになった。キミの仲間にいたよな……たしか、魔人化と言ったか?』
「ノアルの《魔人》の力による変身能力を獲得してるってのか!?」
「疑惑、東雲ノアルの力は十神アルトが再現しようとして再現出来なかった力だったはずだ。それをオマエは死獅王の能力の暴走の中で再現させたのか!?」
『言葉を選びたまえ。これは偶然の産物でしかないし、私がこんな事をするに至ったのは姫神ヒロムがこの世に産まれたからだ。私を責めるのはお門違いだ』
「激怒……オマエは自分のやった事に悪意は無いと言いたいのか!!」
『当然じゃないか黒月クロト。私の行いはそこの愚か人たる覇王が壊した均衡を取り戻すための善行なのだからね』
「論外!!オマエの行動に善行と呼べるものはない!!」
「クロトの言う通りだな。それに……他人を利用しなきゃ正しい事が出来ないならオマエはオマエ自身の言う均衡を破壊した愚か人のオレと大差ねぇ」
『つまりキミは私がキミと同じ罪人だと?』
「勘違いすんなパラディン。オレが壊したのは世界の均衡じゃない……オマエみたいな外道が腐敗させ堕ちた日本の現状と未来を閉ざす悪意だ!!」
『戯言を……!!そんな戯言は聞きたくもない!!死獅王、そいつらを殺せ!!』
『ガァァァァァ!!』
ヒロムの存在が行動を起こさせた、ヒロムの存在が世界を滅茶苦茶に乱したと語るパラディンに対してクロトが怒りを見せ、ヒロムもパラディンの言いたいことを聞き入れた上で自身の行いはパラディンとは異なるとハッキリ言い切って見せ、ヒロムの言葉に対して感情が抑えられなくなったパラディンは言動が荒っぽくなる形で暴走する死獅王に命令を下し、命令が下された死獅王は雄叫びをあげるとヒロムとクロトに向けて黒い風と雷を撃ち放って2人を仕留めようとした。
が、ヒロムとクロトは死獅王の攻撃を難無く躱すと左右に分かれるように駆けると同時に加速しながら死獅王を左右から挟撃するべく素早く間合いを詰め、死獅王との間合いを詰めると同時にヒロムは拳撃、クロトは斬撃を食らわせようとした。が、死獅王は2人の挟撃に対して全身から強い力を発する事でそれを衝撃波に変えて2人の攻撃を防ぐだけでなく2人を吹き飛ばし、吹き飛ばされた2人が倒れまいと受身を取ろうとすると死獅王は素早く狙いをヒロムに定めると次なる一撃を撃ち放とうとした。
『ガァァァァァ!!』
「速……
「はぁっ!!」
死獅王の行動と次への移行の速さにヒロムが驚かされる中で敵の一撃は放たれようとしたがその瞬間、ヒロムを救うかのようにレイガが死獅王のもとへ現れると飛び蹴りを放ってヒロムに向けられる攻撃を中断させると共に死獅王を蹴り飛ばし、死獅王を蹴り飛ばしたレイガは着地と同時に構えると何やら全身に気のようなものを纏い始めた。
「レイガ、何を……」
「さっきの戦いでヒロムさんはオレに覚悟を見せてくれた。だから……今度はオレが!!死獅王を……獅天を止めるために覚悟を見せる!!」