68話
一方……
八神トウマは執務室にて鬼桜葉王と今回ヒロムが対処にあたる死獅王と件についての有事の際の対応について話を進めようとリモートでの会議をしていた。
『……というわけだァ。今回の襲撃は《八神》の敷地内での事に加えて当主のオマエが自ら鎮圧に尽力してくれた事もあッて大きな被害とならずに済んだが最悪の想定は怠れないィ』
「それはもちろんです。現在の《八神》が開放できる避難可能な施設や地下シェルターの設備点検を急ぎ行っています。もし……最悪、兄さんたちが敵の計画を止められなかった時は民間人をそこへ誘導しボクも戦闘に加勢し解決に協力させていただきます」
『当主が動くなァ……と言いたいが十神シエナの得た新たな力が未知数な今はそれを初見で無効化出来たオマエの手を借りずにはいられないのは事実だから承認する他ねェなァ』
「すいません、わがままを言って」
『構わねェよォ。贖罪のつもりだッて言うならオレも手を貸してやるゥ。何せオマエと姫神ヒロムはァ……
「トウマ様!!大変です!!」
鬼桜葉王が何かを言おうとしたその時、彼の言葉を遮るように執務室の中へと白髪の少し老いた男が慌てて入ってくるなりトウマに何かを報告しようとし、リモートとはいえ会議の最中だったこともあってトウマが彼の話を聞こうか鬼桜葉王の話を聞こうか困惑していると鬼桜葉王は咳払いをすると今入ってきた男についてトウマに尋ねようとした。
『八神トウマァ、今入ッて来たのはオマエと姫神ヒロムの亡き父・八神飾音の付き人でもあった秘書かァ?』
「は、はい。天心さんです。すいません、葉王さん。会議の途中……
『オレは構わんから彼の話をォ。今の様子だとォ……只事じャないはずだァ』
「は、はい。天心さん、どうしたんですか?」
「い、今ヒロム様が向かわれている研究施設が過去に何を行っていた施設なのかを調べさせていただきました」
「過去に《八神》が関与していた研究施設に関してはシンクが施設封鎖・破壊処理の申請のために情報をまとめていたはずですが……」
『その情報は先週氷堂シンクの方から《一条》に提出されてるぞォ?』
「それはそのとおりでございます。ですが……先程、《八神》のネットワークコードを介したアクセスによってヒロム様が向かわれている研究施設に関する情報に何者かが入った痕跡が発見されたんです!!」
「何ですって!?」
『待て待てェ。それは今問題となッてる十神シエナや牙堂詠心の仕業と考える他ない事だろォ?』
「私も最初はそう思いました。ですが……アクセスされた情報の裏側に隠されていたある計画に関する情報があったんです」
「ある計画……?」
「トウマ様、鬼桜様。かつて《八神》を悪用した十神アルトが《角王》という組織を《八神》の主要部隊に据えた際に用意したものをご存知ですよね?」
「覚えています……ギア・シリーズ、人の魂を対価とする非人道的な精製方法にて生み出された許されない武装。所有者のあらゆる力を最大限に高めることを前提にした武装、その効力を実現するために十神アルトとそれに加担する技術者は悪意に利用される《八神》を良しとしない罪無き《八神》の人々を生贄にしてそれらを生み出した……!!」
『つくられた武装の2つゥ……斬角と名乗っていた八神リクトが与えられていた《ラース・ギア》は姫神ヒロムとの戦闘で破壊された後に狼角の名を与えられ八神リクトの姉・八神ホタルと婚約関係にあった東雲牙王が回収した後に悪意を止めて欲しいと願ッた同人によッて悪意を止めるために狼角専用の《フェンリル・ギア》と合体させる形で生まれた《アンチェイン・ギア》となりヒロムに託された後にそれは人の想いを託すように形を変えて姫神ヒロムの力となッた』
「そして兄さんがあの騒動の際に《角王》を完全に壊滅させた事で所有者はギア・シリーズを失ったリクトさんを除いて死亡が確認、兄さんが託され形を変えた《アンチェイン・ギア》を除く他シリーズは騒動解決後に葉王さんが《一条》の監視下での管理を申請する形で回収し同シリーズが新たに生まれることなく封印される事となった」
「はい、左様でございます。ギア・シリーズには設計図のようなものもなく研究施設にて生み出されたという推測のもとであの当時の《八神》が管理していた施設全ての使用禁止と機能停止で新たな被害の発生を防ぐこととなっています。ですが……そのギア・シリーズの設計図があったんです!!」
「ギア・シリーズの設計図……!?」
『だが天心さんよォ、ギア・シリーズは人の魂を等価交換とした非人道的精製方法にて生み出される代物だァ。仮にその設計図が本物だとしてェ、そんなものを使用禁止かつ機能停止してるはずの研究施設で生み出せるはずがァ……
「霊脈から通ずるエネルギーを基にしたもの、だとしたらどうでしょう?」
「霊脈……」
『おいィ……ちょっと待て、それは本気か?』
天心の口から『霊脈』というワードが出るとトウマは何かに気づくと言葉を失い、鬼桜葉王もどこか気の抜けたような口調がまともなものへ変わってしまい、2人が異なる場所で驚きを見せる中で天心は自身の見つけた設計図について報告を続けた。
「発見された設計図は没案として隠されていたものですがその理由は『霊脈から通ずるエネルギーを受け取れる人間として適任者が該当せず性能テストもまともに行えない』というものでした」
「霊脈から通ずるエネルギーを受け取れる人間……該当するとしたらそれは兄さんだけだ」
『……いや、八神トウマ。もう1人いる』
「え?」
『今は既に故人、その理由は精神崩壊とされているが……性能テストがまともに行えないという点がもしも行えなかったとしたら、その故人となった彼女はそのギア・シリーズに殺されたことになる』
「っ……まさか!?」
『八神ホタル……八神リクトの姉にして姫神ヒロムが多数の精霊を宿した事で埋もれた当時他に精霊を宿していたもう1人の逸材。姫神ヒロムは早くに《八神》の離れたから免れた事になるが、八神ホタルが被検体にされたとなれば……』
「リクトさんのお姉さんは、《八神》が殺したのか……!?」
「……設計図にはその事が記されていましたので間違いありません」
待ってください、とトウマは天心の報告から見出された衝撃の事実に驚かされる中で何かに気づき、そして……
「葉王さん!!十神シエナが兄さんの精霊の繋がりから成る力を求めたのはこのギア・シリーズを完成させるためじゃないんですか!?」
『その推理は間違ってないはずだ。姫神ヒロムの持つ精霊の力、それに関するデータさえ手に入ればクローン培養技術を用いて被検体となるクローンを生成してしまえば条件はクリアする』
「そうじゃありません!!これが敵の本当の狙いなら……」
『……姫神ヒロムがあの研究施設に踏み入るのはまずい!!』