64話
敵の真の狙いに気づいたヒロム。だがその時にはシェリーは余裕があるかのように言葉を発して闇を強く放出させ、彼女の放出させた闇は周囲の何もかもを破壊しようと衝撃と爆発を引き起こしていく。
このままでは無事では済まない、闇による無差別に近しい広範囲攻撃を前にしてヒロムやクロトは撤退しようと慌てるがトウマは片翼だけの光の翼を大きく広げると天に10m程の巨大な光の玉を出現させ、そしてそれを衝撃と爆発で無差別に近しい破壊を繰り広げる闇へぶつけようとした。
「セイクリッド……パニッシュ!!」
トウマの出現させた巨大な光の玉は放たれると共に無差別攻撃を続ける闇にぶつかり、光の玉と闇がぶつかると空間を1秒に満たぬほどの瞬間的な時間だけ歪ませるほどの力の衝突を引き起こした後に双方消滅し、2つの力の消滅はそれだけで終わらず爆風に近いものを周囲に巻き起こすとヒロムたちを吹き飛ばそうとした。
巻き起こった爆風に近いものを身に受けながらも飛ばされぬよう耐えるヒロムたち。しばらくしてそれが止むと周囲の地面はその余波によりひどく破壊され、ヒロムたちも何事もなく耐えた後にシェリーを倒すべく彼女がいる方を見て構えようとした。が……
ヒロムたちが再度敵を攻撃しようと構える頃には彼女の姿はどこにもなかった。
「あの女……逃げたのか!!」
「兄さんの取り戻した精霊との繋がりによるその力、その確認とデータ収集が済んだ事と目的を知られた事で長居する理由が消えたんだろうね」
「……解説どうも」
「でも、これで流暢なことは言えなくなってしまったね兄さん。ボクはもちろん、兄さんたちは死獅王と十神シエナに関しての認識を改めなきゃいけない」
「……ああ、そうだな」
「確認。ヒロム、今起きた事は鬼桜葉王に報告するのか?」
「面倒くさい……なんて言えねぇし言ってらんねぇ。とりあえず今は情報共有だな」
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しばらくして《八神》の屋敷の敷地内で起きた戦闘による損壊は当主のトウマの指示のもと《八神》の配下の人間により執り行われる形で対処され、ヒロムたちはトウマの執務室に集められ、トウマは執務室の壁面に設置された大型モニターにてある人物と連絡を取ろうとした。
その人物は当然……
『……つまりィ、何が言いたいィ?』
鬼桜葉王、ヒロムに死獅王追跡を依頼した今回のこの騒動において真相を紐解く始まりを与えた張本人である。先程まで起きていた敵襲に加えて『パラディン=獣身武闘拳の師範』という奇天烈な事実、ヒロムが精霊との繋がりを仮ではあるが確立してその力を得ると同時に十神シエナことシェリーがその力に関するデータを獲得した事、そしてシェリーが他国から盗み出したとされるクローン培養技術とそのデータを用いて彼女が精霊を再現する形での大規模な兵力の生産を可能にしようとしてる事を代表してトウマが報告し、報告を受けた鬼桜葉王はヒロムと前回連絡をしてから今に至るまでの間に多くの事が起きている事実を聞かされて呆れたような反応をしながら結論をトウマにまとめさせようとし、鬼桜葉王が結論を述べろと無茶振りをしてもトウマは嫌な顔もせずに状況について結論をまとめ改めて報告した。
「十神シエナがかつての十神アルトに近づこうとしています。そして、クローン培養技術と兄さんの力に関するデータを利用した大規模な兵力確保が行われるかもしれません」
『……くそがァ。まさか姫神ヒロムを頼ッた事が敵の手助けになッてしまうとはなァ』
「警戒せず安易にフレイたちとの繋がりによる形勢逆転を狙ったオレの判断ミスだ。アンタのせいじゃねぇよ葉王」
『いいやァ、今回の件に関する責任は全てオレが背負うことになッているゥ。責任云々についてはオマエたちには何の負担もないからオマエたちは気にせず休めェ』
「異議、そうは言っても敵がヒロムの戦闘データを得た事実がある今呑気な事は言ってられないのではないのか?」
『気持ちはわかるが落ち着けェ黒月クロトォ。八神トウマの報告に虚偽がないのなら姫神ヒロムには休息が必要になるゥ』
「あ?何でオレに……
『オマエェ、途中で力が解けるくらいに消耗してしまうような力しか使えないんだろォ?ただでさえオマエは化け物顔負けの桁外れの身体能力を活かした格闘戦が主体で体力的に消耗品しやすいのに力を使うだけで簡単にバテるような状態じャあ十神シエナや生きていた獣身武闘拳の師範とやらはともかくゥ、死獅王すら倒せねェぞォ?』
「アンタ相手に一度はその身体能力だけで対等に渡り合えたオレが負けるとでも?」
『慢心はするなァ、敵はあの騒動の時より手強いはずだァ。今回の敵……十神シエナは十神アルトを倒したオマエの事を特に学習し行動を把握しているゥ。とくにィ……八神リクトォ、オマエが表舞台に戻ッてくるのも予測の範囲だッたんだろォ?』
「そうみたいだな。だが鬼桜葉王、今回の件さえ早々に解決出来れば良いだけのことだろ?」
『簡単に言うなよォ?今のオマエはァ……
「アンタの権限で『八神リクトが直近で《八神》或いは《十神》の管理管轄にあった研究施設に入った痕跡の有無』を調べられないか?」
『何ィ?』
「リクト、どういう事だ?」
現状油断ならない。ヒロムの戦闘力向上に比例した消耗の激しさ、そしてリクトの行動すら把握出来てしまえる程にヒロムやその周りの事を把握しているシェリーはかつてヒロムが倒した十神アルトよりも手強いと鬼桜葉王が語りリクトにも釘を刺そうとするが、鬼桜葉王の言葉に対してリクトは《八神》と《十神》、2つの家が管理を担っていた研究施設に自身が入った痕跡があるかどうかを鬼桜葉王に調べるよう提案した。
リクトの提案、意図として何が隠れているのかわからない鬼桜葉王とヒロムが不思議に思っているとリクトは彼らが予想すらしない驚きの事を話し始めた。