60話
光に包まれたヒロムは次の瞬間、白い空間の中に立っていた。
周囲を見渡そうとすると彼の隣に精霊・ラミアとマリアが現れ、2人に続くように彼のそばに4人の少女の精霊が現れ並び立とうとした。
「オマエら、ここは……」
「どうやらアナタの意識と私たちの繋がりが強く共鳴した結果としてアナタの意識が完全にここへ連れて来られたようね」
「だとしたらアイツとの戦いは……」
「フレイとの念話が途絶えてるので時間的な概念は一時的に途絶えてる空間だという解釈になると思うわマスター。それより……アナタと共にここへ来たあの子たちのお出ましよ」
ヒロムに状況を説明したラミアは何か来たと伝え、ラミアから伝えられたヒロムが何かを感じ取りそれの方へと体を向けると彼の前に7人の少女の精霊が並び現れる。
ヒロムが先刻思考の中で振り返っていた不和がある関係の精霊7人とヒロムと彼の存在を認め彼の意思に賛同するラミアたちを分かつかのように並び対面する双方。
緊張感漂う中、ヒロムがまず何か言おうとすると、ヒロムの前に並ぶ精霊の1人、双剣を手に持つ少女の精霊が前に出るとヒロムに対してある質問を口にした。
「アナタは先程私たちに自由を許し主の命令無しで好きにしていいと解釈出来る言葉を口にしていましたがそれはつまりアナタが主として相応しくないと判断した場合に離反しても構わないという解釈でいいのですね?」
「なっ、アンタ……マスターに対して何を……
「ラミア、大丈夫だ 」
「これはアナタの発言の真意の確認ではなくアナタの意思の確認。私たちのこれからに関係のあることですので」
「そうだな……うん、それでいいよ」
「マスター!?」
「……意外ですね。もう少し言い訳でもするかと思いましたが、偽りはないようですね」
「本気だからな。オレの言葉に嘘とかそんなもんはないさ。それに……」
ヒロムの言葉、不満があれば精霊として仕えることを破棄することを口にした彼女の言葉にヒロムがそれを受け入れるような言葉を当たり前のように口にした事で少し意外そうな反応を彼女は見せ、嘘は無いと伝えるとヒロムは1歩前に出て彼女に歩み寄ると右手を差し伸べながら彼女に向けて自身の思いを伝えようとした。
「人間だとか精霊だとかは無い。オレたちはある意味で『家族』であり『仲間』だ。出来ることならオレはこれからゆっくりでも仲を深めて対等な関係になりたいと思ってる」
「綺麗事ですね。ですが……悪くありませんね。過去の精霊の記憶の影響なのかは無視しても、受け入れていいと思ってしまう自分がいますね。こんな気持ちを抱いたのなら……仕方ありませんね」
ヒロムの言葉を受けた少女は双剣を地に刺すようにしてテバナスとヒロムに向けて手をかざし、少女が手をかざすと光の粒子が1つ放たれてヒロムの中へと取り込まされ、少女に続くかのようにほかの6人も手をかざすと光の粒子を飛ばしヒロムの中へ取り込まさせた。
彼女たちが何をしたのか、ヒロムやラミアたちが不可解に思っていると少女は双剣を手にするとヒロムに向けて自らの思いを伝えようとした。
「これは私たちからアナタの覚悟を認めるという形での仮契約、アナタとのこの繋がりを受け入れるという表明です」
「仮契約……か。でも、ありがとう。それでもオレは嬉しいよ」
「喜んでる場合なのマスター?仮契約って事はまだ認められてはいないって事よ。あまり呑気にしてられないわよ?」
「そうかもしんないけど大丈夫だよラミア。これからのオレの行動で彼女たちに認めてもらう、そこで本当の対等な関係になれるんならいいじゃないか」
「……不思議な人だなアナタは。だが、そんなアナタに期待したい自分たちもいるのは事実だ。だから見届けさせてもらう……アナタという人間を」
少女の言葉を合図にするかのようにヒロムは再び光に包まれ……
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気がつけばヒロムは元いた場所に立っていた。
白銀の稲妻を纏い、一撃を受け壁面へ叩きつけられたパラディンの動きに警戒していた状況はまったく変わっていない。ラミアの言う通り時間という概念は先程いた場所には無縁らしく、ヒロムは先程のやり取りで得たものを確かなものとして感じ取ると気を引き締めるように拳を強く握りながらパラディンを倒すべく再動しようとした。
ヒロムが再び動き出すと戦いを見守るように観戦するクロトとアスランはヒロムとパラディンの戦いに加勢するタイミングがあれば介入するべく武器を構え、リクトとシンクはパラディンの勝敗が今後の鍵となるであろうシェリーに不振な動きがないかを警戒していた。
パラディンは未だ壁面に叩きつけられてから動きがない、それが焦りを与えているのかシェリーは扇を広げるなりそれを顔に出さぬよう、或いは顔に出そうになっているのを隠そうとするかのように口元に扇を当てようとした。
が、この時、だれもこの裏に起きていることに気づけるものはいなかった。
扇で口元を隠すシェリー、そのシェリーは現在の状況では考えられないほどに嬉しそうに口角をあげていたことに……