59話
パラディンの真紅の剣を破壊したヒロムは稲妻のようなものを纏いながら拳を構え、ヒロムの纏う力を前にしたパラディンは一時は動揺したかのような反応を見せはしたもののすぐに平静を取り戻すと不敵な笑みを見せると余裕を見せびらかすかのようにヒロムの纏う稲妻のようなものについて観察し分析を始めた。
「……一瞬は驚かされたがこうして観察すると虚仮威しも程があるな。キミのそれは不完全、十神アルトを倒した際に纏っていた力には程遠いものだな」
「不完全かどうかはオマエが勝手に言ってりゃいいことだ。けど、これが不完全と思われようが何だろうがオマエを倒す事に変わりねぇ」
「ふざけた御託を……!!」
「ふざけてるかどうかは……オマエ自身、その体に教えてやるから堪能しろ!!」
パラディンの言葉に対して強気に返すことしかしないヒロムはてき敵を倒そうと地を強く蹴って走り出し、走り出したヒロムは残像を残すかのように加速するとパラディンの背後へ一瞬で回り込むと同時に拳撃を叩き込み、拳撃を叩き込まれたパラディンが怯むとヒロムは続けて拳の連撃を放ち敵の体へ叩き込み追い詰めようとした。
が、連撃を放つ中でヒロムは急激な痛みに襲われて攻撃の手を止めてしまい、連絡が止まるとパラディンは闇を纏うとヒロムに反撃しようとした。しかしヒロムはパラディンの反撃を受け流すように躱して間合いをさらに詰めると腹に一撃を叩き込むと共に殴り飛ばし、殴り飛ばされたパラディンが地を転がるように倒れそうになりながらも何とかして立ち上がろうとしている中でヒロムは一瞬苦しそうな顔を見せるも首を鳴らすと追撃するべく駆け出した。
「やっぱ、反発するよな」
(アイツの言う通り、この状態は不完全……正確に言うならそもそもそれを運用する今のオレは戦闘していること事体が命懸けと言って差し支えない状態。あくまでこれはオレが『能力を持たない自身の肉体だけで一定ランクの能力者を駆逐出来る』という条件をクリアした上でオレ自身が高次元の戦闘を可能にするために精霊との繋がりを能力者の能力に代替する事で戦闘能力を飛躍的に強化する術だ。元々人間と精霊とで種の違うもの同士の間にある繋がりと関係性の高さを利用したやり方、それはつまりオレとフレイたちの間に不和が無いこと前提での発動になる。けど、ラミアが言っていたように《十家騒乱事件》で消滅した精霊の記憶を受け継いだ7人とその事件以前から宿す7人とでオレとの関係性に大きな差がありそれが不和としてバグのようにオレの行動を邪魔してくる)
立ち上がったパラディンに接近したヒロムは飛び蹴りによる先制攻撃を仕掛けてパラディンに回避もしくは防御のどちらかを選ぶように仕向け、ヒロムの飛び蹴りに対してパラディンが回避を選択し横へ跳ぶように躱すとヒロムは飛び蹴りが不発に終わると分かると空中でありながら体勢を立て直すかのように素早く回転し、回転したヒロムはパラディンとの間合いを上手く詰めると回転の勢いをそのまま利用した回し蹴りを放って回避し反撃しようと試みていたパラディンの顔を蹴り、ヒロムの回し蹴りが敵の顔に命中すると彼の纏う稲妻のようなものがその力を増すように大きくなると共に炸裂してパラディンを勢いよく吹き飛ばし飛ばされた先にある壁面へ叩きつけてみせる。
回し蹴りを放ったヒロムは着地すると大きく息を吐きながら大きくさせた稲妻のようなものを落ち着かせるかの如く力を弱くさせ、ヒロムは壁面に叩きつけられたパラディンの動きを様子見するように視界に捉えながら誰かに向けて何かを伝えようと語り始めた。
「……オレを認められないのはよく分かる。オレだってオマエらと同じ立場なら反発する方を選ぶ」
『マスター、何を……』
「ラミア、任せてくれ。……オレはこれまで過去に宿していた精霊の記憶を受け継いでいる7人の心を理解してやれていなかった。精霊を宿す者として、強き者として上に立つためにその力を貸して欲しくて身勝手に振舞っていた。きっとその振舞いがオマエたちとの関係に亀裂を生んでいたんだと思った。でも……レイガの今の姿を見て何とかしようとした自分の行動で目が覚めた。これまでオマエらにやってきたことはレイガを利用していたパラディンと変わらないってな」
だから、とヒロムは拳を強く握りながら自らの内に存在する精霊たちに向けて自らの思いを伝えようとした。
「今はまだオレのためになんて言わないからこの関係性がいいならそれはそれでいい。でも、もしオマエらの中にある行動理念とオレの行動が合致しているのなら……オマエらの気まぐれで構わないからオレに手を貸してほしい」
『マスター……』
『……』
「……オマエらとの不和で反発が起きてこの状態が維持出来なくなっても構わない。だけど、見届けて欲しい……オレと生き様、覚悟を!!」
ヒロムが自らの思い、自らの決意を伝えたその後しばらく沈黙が生まれた。が、その沈黙を吹き飛ばすかのように稲妻のようなものは雄々しく輝くと強く激しく大きくなり、そして稲妻のようなものは白く光り、そして白銀へと変わると完全な稲妻となってヒロムの体を駆け巡ろうとする。
「これは……」
稲妻のようなものが白銀の稲妻へと変化した事にヒロムが驚いていると彼は光に包まれ、そして……
彼の両手首に光とともに白銀のブレスレットが現れ、彼は光の中へ消えてしまう。