57話
レイガに対してパラディンが明かし告げた衝撃の事実。レイガにとって死獅王を追跡する決意を抱かせた全ての始まり、その元凶が死獅王となった獅天ではなく自分自身だと明かされたレイガはその言葉を信じられず激しく動揺するしかなかった。そのレイガの動揺の裏でヒロムはパラディンが口にした『偽の記憶』という点についてかつて抱いた違和感について紐解くきっかけを得ようとしていた。
「偽の記憶……記憶の改竄」
(どうやって記憶改竄を行ったかは知らないがレイガが最初に話してくれた獣身武闘の師範と2人だけの秘密にしていたという点と死獅王が怒りにより全てを壊したという事実の違和感に納得がいく。レイガの信頼していた師範とその師範と2人だけの秘密にしていた過去の殺し、そしてそれを運良く知った死獅王の怒り……なんてものは、最初から虚構として存在していただけの戯言だったってことか!!)
「う、嘘だ!!そんなはずをは無い!!だってあの日……!!」
「あの日、キミは死獅王……獅天が恩師を殺し同胞たちを手にかけたと記憶しているようだが現実は異なる。その記憶はキミの中にある力が暴走した結果生まれた惨劇からキミが目を逸らせるように都合よく捏造された偽の記憶なのだよ」
「ありえない……!!だって、あの日オレは……
「たしかにキミは獅天と対決している。ただしそれはキミが過去に人を殺めた獣身武闘の不殺の掟を破った裏切り者としてではなく、キミに生きていてはならない理由があると知った獅天がキミを殺すために行ったことだ」
「は……?え……?何を……」
「キミが過去に人を殺めたという点は事実だ。だがその事実は同時に虚偽を含む内容である。レイガ、キミは単に家族を殺したのではない……キミは無実の人間を私の望みのために殺し続けてくれたのだよ。キミがこれまで悔いていたキミ自身が殺したその家族も……私のために殺してくれたのだ」
「な、何言ってんですか師範……?無実の人間って何を……おかしな事を言ってるんです?」
「キミは能力が高まると自我を失うほどの強い力に飲まれ暴走してしまうと思っているようだがキミの中にあるその力は特殊……何よりキミの存在そのものが特別なんだよ」
「は、はい?何を……
「結論だけを述べよう。キミは私がそこにいる姫神ヒロムを越える戦士を作り上げるために技術を注ぎ込み続けた被験体なのだよ」
「被験体……!?」
「レイガは……オレを越える戦士を生み出すために悪用された人体実験の被害者……!?」
「キミたちが目にした永楽寺院の地下の施設、あれは獣身武闘の戦士をより高度な戦士に仕上げるための人体実験施設であると同時にレイガの調節を兼ね備えていた。全てを超越する強さを手にしてあらゆる能力者を排除する……全てを『零』にする『牙』、それがレイガなんだ」
「それじゃあ、オレは……」
「キミが不殺の掟を破った門下生であり同胞殺しの死獅王を追いかけるようになったのはキミという存在の実地テストを行うために自然な流れで進めたいという私の気まぐれから来たものだ。その気まぐれが無ければキミは今頃単なる命令遂行のための生体兵器にしか成れなかったが、姫神ヒロムと対峙しその懐に入り込めた事でキミは姫神ヒロムの強さを目の当たりにして学習しようとしてくれている。本当に、私は自分の気まぐれを褒めたいくらいだ」
「嘘、だ……」
パラディンが楽しそうに次から次に語る言葉を耳にさせられるレイガはこれまで信じてきたものを否定されるかのように言葉の全てを受け入れることも出来ず絶望したかのように膝から崩れ落ち、レイガが絶望して立っていられなくなった中でヒロムは彼を守るように立とうとし、ヒロムの接近に気づいたパラディンが闇を纏いながら距離を取るように素早く離れるとヒロムは敵を睨むように見ながら拳を構えようとした。
そのヒロムの行動を目にしたパラディンは何がおかしいのか笑い、満足するなり笑いを止めたパラディンは手に持つ真紅の剣の切っ先をヒロムに向けながら彼に対してある種の感謝の言葉を述べ始めた。
「キミには感謝している姫神ヒロム。暴走したレイガを単なる危険分子として始末せず死獅王に辿り着くための手掛かりとして手元に置いてくれていた事を。おかげでレイガは私の想定していたよりも早い速度で強さを得るための経験値を貯えてくれた」
「オマエが前回言ってたオレの過ち……まさかだがレイガを助けたことを言ってたのか?」
「そんな些細なことでは無い。私としてはキミがレイガを助ける事は織り込み済みだったから何の影響も及ばない。むしろ……キミの罪とはその存在そのものであり、キミが起こしてしまった行動にある」
「オレがいなければよかった、とでも?」
「まさにその通りだ。キミという存在がこの世に生まれなければ無駄な争いも無駄な犠牲も生まれなかった。そして、キミという男があの日……十神アルトをはじめとした多くの人間を否定した《十家騒乱事件》さえ起こさなければレイガが苦しむこともこれから起こされる惨劇も防げていたのだから」
「まるで手遅れみたいに言ってるが……まだ間に合うんだよ」
「何?」
ヒロムの存在、そして彼の過去に起こした行動こそがパラディンが前回口にしていた罪と過ちだと語り伝えられるもヒロムは動じることも無く、動じるどころかヒロムはむしろパラディンを前に挽回出来ると言いたげな言葉を口にするとパラディンを指差しながら強く告げた。
「ここでオレがオマエらを倒してこれから起こることも、レイガの背負う悲しみと苦しみも止めればいいだけの事。レイガの信じていたオマエがコイツを否定するというなら……オレはレイガを受け入れ共に戦ってやる!!」
「綺麗事と世迷言、戯言しかない絵空事の虚言だな。キミに止めることも防ぐことも出来ない……オマエが私に勝つなど不可能なのだよ!!」