56話
他国で禁止されているクローン培養技術を用いて生まれたとされるリクトのクローンにしてパラディンを名乗っていた『八神リクト』という男の偽物。その存在とリクトが口にした『死獅王は被害者』、『獣身武闘の師範は生きている』という情報からヒロムはシェリーがクローン培養技術を用いた動きを見せない不自然さを指摘した上でそれをリクトの話した内容と結びつけ、その結果その全てを明らかにするカギはパラディンにあると断言した。
今の状況にて深まる謎をハッキリさせたい気持ちがヒロムの言葉で強まったクロト、アスラン、シンク、そしてレイガの視線と意識がパラディンに向けられる中でヒロムはパラディンを単なる敵として倒すべく殺意を向け、ヒロムたちの注目を集める状況の中に置かれるパラディンは何かおかしいのか口元を隠すように手で覆いながら笑い始め、パラディンが何故笑うのかなど分からないヒロムたちが敵に対して注目した状態を崩さずにいるとパラディンは笑いを止めると今度は手を軽く叩き、そして……
「……まさか、こんな形で真相に迫られるとは思わなかった。いや、迫るわけが無いと思ったんだがな」
「その言い方、やっぱり……」
「あぁ、オマエ……いや、キミの言う通りだ姫神ヒロム。クローン培養技術の転用はなかなか上手くいかないのが現状であり、実用性に欠けるのが現実だ」
「コイツ……」
「変異、話し方が……」
「もう誤魔化す必要も無いわけだからな。当然ながら八神リクトの真似事をする必要すら無くなった。というより、彼が行方不明として処理されてる間にこちらの計画を進めて責任転嫁させたかったのだがね。それなのにまさか、責任転嫁するはずの相手に自分の首を絞められるとは思いもしなかった」
「その言い方、じゃあ……」
「1人を除けば初めましてになるのかな、姫神ヒロムとその一行。私が《獣身武闘拳》の継承者にして伝承を担う師範だった男……牙堂詠心だ」
「「!!」」
「う、嘘……だろ……?」
「あぁ、頭が混乱するだろう?この姿の今はパラディンと呼んでくれて構わない」
リクトの姿をした偽物、その正体はレイガの目の前で死んだと思われた彼の慕っていた《獣身武闘》の師範であるとパラディンの口から明かされ、明かされた事実にヒロムやクロトたちが少しの驚きを見せる中でレイガは突きつけられた現実を受け入れられぬかのように狼狽え動揺してしまい、レイガのその反応を見たパラディンは不敵な笑みを浮かべると彼の動揺する心をさらに揺さぶるかのように話し始める。
「その反応は悲しいなレイガ。せっかく生きていたんだ、もっと喜んでくれ」
「ま、待ってください……アナタが、師範?そんなはずはない……だって師範はオレの目の前で……
「現に私は生きている。とはいえ私の本来の肉体が潰えたのは事実……キミがあの時見た光景が偽りだったわけではないさレイガ」
「疑問、レイガが目の前で師範や仲間の死を見た出来事が事実だと言うなら師範だと名乗るオマエはどうやって蘇った?」
「蘇ったのは違うな、黒月クロト。私はより優れた肉体に魂を移し替えたのだよ」
「魂を……移し替えただと!?」
「否定、そんなこと出来るはずがない」
「事実として私はこうして器として生み出した八神リクトのクローンの中に魂を存在させている。私が長年生きてきた中で理想としたものを全て持ち合わせる最高の肉体の中に、な」
「ま、待ってください!!ならオレがあの時見た事……あの時亡くなったアナタは偽物だと言うのですか!?」
「あれは魂が消えた抜け殻……不要となった肉体だ。それを都合よく死体として処理するための細工を施したのだよ」
「ありえない!!あの日、オレは死獅王と……獅天に過去について問われ対立し、抵抗するも返り討ちに遭ってその後気を失っ……
「ああ、それは私が都合よく植え付けておいた記憶だな。実際は違う。あの日……キミを返り討ちにしたのは、私だ」
「……は?」
パラディンの口から語られた予想すら出来なかった言葉にレイガの顔は固まってしまい、パラディンの一言を受けたヒロムはレイガから聞き知った過去の永楽寺院での出来事について思い返すとパラディンの言葉に隠された驚きの内容を見つけ出してしまう。
「オマエ……レイガの記憶を弄ったのか?あの日だけじゃなく、レイガの過去すらも……!!」
「え、何を……
「ふふふ……素晴らしいぞ姫神ヒロム!!やはりキミは私が長年求めてきたオールマイティーな戦士!!身体技能だけでなく思考においても圧倒的な才覚を見せてくれる!!与えられた少ない情報から的確に答えに辿り着いていくその推理力……私が理想とする力そのものだ」
「ヒロム、さん……?オレは……
「レイガ、キミに隠していた事を全て明かしてあげよう。ここまで来た褒美、キミの知らないキミ自身の真実だ」
「っ……レイガ、耳を貸すな!!」
「緊急、耳をふさげ!!」
パラディンの口振りからここからレイガに対して良くない事が起きることを察知したヒロムとクロトが聞く耳を持たぬよう忠告しようと慌てて叫ぶが時既に遅く、パラディンは不敵な笑みを浮かべると闇に包まれるかのように不気味な力を纏いながらレイガの前へと一瞬で移動すると薄気味悪い笑みを浮かべながらレイガへ彼の知らぬ衝撃の事実を告げた。
「レイガ……キミがこれまで信じてきた記憶は全て偽りの記憶だ。故郷のように好いていた永楽寺院と家族のように感じていた獣身武闘の仲間の全てをあの日壊した真の元凶は他でもない……キミなんだよ」
「う、嘘だ……嘘だァァァァ!!」