53話
《クリムゾン・ジャッジ》、大層な名前を名付けるように真紅の剣をそう呼称したパラディンはそれを用いてヒロムを殺さんと構えようとし、パラディンが真紅の剣を構える中で対抗するべくヒロムは己の拳で相手しようと自らの拳を強く握りながら構えようとした。
拳と剣、普通に考えればこんなもの勝負にすらならないだろう。一般的に考えれば人の命を容易く奪い取れる剣と当たり所が悪ければ最悪死に至らしめられるという拳とでは比較するまでもないし、生身の人間の体でしかない拳が数多の過程を経てつくられたであろう剣に触れたらどうなるかはヒロムもよく理解していることだ。それでもヒロムは拳で挑もうとする。
そんなヒロムの行動を無謀だと感じたクロトたちは倒れてしまった体を起き上がらせ彼に加勢しようと急ごうとするが、クロトたちが立ち上がるのを待つ気もないヒロムはパラディンより先に仕掛けるべく敵が動く前に動き出そうと一歩踏み出そうとした。
その時だった。
ヒロムが動こうとした時、突然無数の氷柱が飛んで来てパラディンに対して襲いかかり、氷柱が飛んで来たことにパラディンは驚く素振りもなく落ち着いた様子で剣を用いて斬り壊し、パラディンが氷柱を全て斬り壊すとパラディンの出現から今まで動きを見せなかったシンクがヒロムの隣に並ぶように歩いてくると冷気を纏い敵を睨むように見ながら言葉を発した。
「やはり、オマエだったんだな……パラディンの正体は」
「……あ?シンク、今何て言った?」
「少しだけ黙っててくれヒロム。謝罪なら後でする」
「は?謝罪?何が……
「パラディン、オマエのその仮面の下について暴いてやるから大人しくしろ。それとも、昔みたいに苦湯を飲まされたいか?」
「っ……!!まさか、アイツは……オレたちと面識がある人物なのか!?」
「ヒロム、オマエも気づいてるはずだ。ただ信じたくないから無意識に考えなくなってるだけで……アイツはあの剣を手にする前に自分の正体に繋がるヒントを提示している」
「あの剣を……」
シンクの言葉からパラディンの仮面の下の人物が自分たちの面識のある人間だとヒロムは気付かされるも見当が無いらしく分からずにいるとシンクは既に答えに辿り着けると言いたげな事を口にし、そして答えとなる人物に繋がるヒントをシンクに伝えられたヒロムはシンクの言うパラディンが真紅の剣を手にする際に起きた事を振り返ろうとした。そして、振り返ろうとしたことによってヒロムは……彼は自身が気付きたくなかったものを気付かされることとなった。
「……嘘、だろ……!?」
「とはいえオレがパラディンの正体について確信を得たのはヒロムやクロトたちが奮闘してあの剣を出現させてくれたからだ。紅い雷撃……能力の所有者の怒りを糧に力を高め解き放つ事を可能にする《憤撃》の力、その力と相対した経験のあるヒロムとそれを使う『オマエ』をよく知るオレの前で一瞬のつもりで発動したのは油断か、それとも計算なのか……教えてくれ、パラディン」
「……ふん、やはりオマエの存在は気に食わないな氷堂シンク。いや、そもそも十神シエナの作戦でここへの攻撃が指定された段階で止めるべきだったな」
不甲斐ないな、とパラディンはシンクの言葉を受け自身の行動を振り返るように呟くなり仮面に左手を当て、左手が当てられると仮面は静かにパラディンの頭部から外れていき、パラディンの仮面が外れるとその下からパラディンを名乗る人物の素顔がヒロムたちに向けて晒されようとした。
晒されるパラディンの素顔、シンクの言葉で正体に気づいたヒロムはその正体に見当がついていたらしく敵の素顔を見ると驚きの表情を見せることはなく、というよりも何故か信じたくないと言いたそうな顔をしていた。
「何で……オマエがそんなところにいるんだ……!?」
「……言ったはずだ。オマエの過去、罪について向き合えってな。そのためにオレはここに立っている」
「答えになってねぇだろ……!!オマエが……オマエがそんな所にいていいわけないだろ、八神リクト!!」
仮面を外し素顔を晒したパラディンのその正体……逆立たせた金髪の青年を前にしたヒロムは自身の敵として立っていることについて問いかけるように叫び、そしてヒロムが彼の名を……『八神リクト』の名を口にしてもパラディンは顔色1つ変えようとしない。
『八神リクト』、ヒロムが口にしたその名が何なのか分からないレイガとアスランは立ち上がるなりクロトの方を見るもクロトも詳しく知らないらしく首を横に振り、3人がパラディンの正体について理解が追いつかずにいるとシンクが敵の方を向きながら彼らに向けて『八神リクト』について解説を始めた。
「八神リクトはヒロムとトウマの従兄弟にあたる男であり《十家騒乱事件》の起こる少し前まで《八神》を支配していた十神アルトに生み出された闇の部分の一端を担うように『斬角』の名を名乗りながら行動していた能力者だ」
「それって……」
「レイガ、オマエが獣身武闘を通して死獅王を名乗るようになった獅天という男と因縁があるようにヒロムもこの八神リクトとは血の繋がりを通した因縁があるんだ」