5話
空蓮の遺体が倒れる中、ヒロムはその遺体の始末を依頼しようと携帯端末を操作しようとしたが物陰から彼の前に現れた少年が声を掛けるなりそれは不要だと止めようとした。
突然現れた少年、ヒロムからしたら怪しさしかない相手だった。
黒い髪、その黒髪の右側のもみあげ部分を三つ編みにした少し鋭さを感じられる金色の瞳、軍服にも見えないことの無い黒い装束を着た少年、外観的な特徴としてはその程度で見てくれだけで判断するならばおそらく年齢はヒロムと変わらないくらいだろうと判断できるその少年、ヒロムはその彼と面識などなく今が初めて会う程度の認識しかなくそれ故に警戒するしか無かった。
「……誰だオマエ?」
「心外、こうして再会できたのに警戒されるのは傷つく」
「再会だと?悪いがオマエとは初対面のはずだ。記憶違いか人違いなら他を当たれ」
「訂正、過去に面識はある。しかし、その時の別れ方が不適切だったせいでヒロムの記憶に残ってない可能性がある」
「……人違いだろ?」
「否定、間違えるわけが無い。オレはこの時のために全てを捧げてきたんだからな」
「はぁ……?なんか、話が噛み合わねぇ……」
「何だァ、もう姫神ヒロムと遭遇してたのかァ」
少年とは初対面だと話すヒロムに対して少年は頑なに初対面では無い事を主張し、中々話が進まないことにヒロムが頭を悩ませていると聞き慣れた独特の話し方による声が聞こえ、ヒロムが声のした方を見るとそこには鬼桜葉王が立っていた。
鬼桜葉王のそばにはイクトもおり、鬼桜葉王とイクトの登場にヒロムが少し安心したような反応を見せる一方でイクトは空蓮の遺体を眺めながら状況について詳しく聞こうとヒロムに尋ねた。
「大将、襲われた?」
「正確にはここに誘導されて戦いに発展した。死獅王の関係者らしいがまともな情報を話す様子も無かったしうるさかったから殺した」
「……理由が物騒過ぎる」
「いただけないなァ、姫神ヒロムゥ。
せッかくの情報源になる可能性がある貴重な人質候補を殺すのはなァ」
「オマエから名前を聞いた後に現れた程度の敵だぞ?情報源にするにしてもアテになるか分かんねぇからいてもいなくても変わらねぇだろ」
「早計だなァ。まァ、オマエの本気に対してこうも一方的な殺られ方で終わるような人間なら刺客としても格下過ぎるしィ、そういう意味では情報を期待するだけ無駄だッたかもなァ」
「いやいや、アンタはせめてまともな事言ってくれない?唯一の大人なんだから大将の意見に賛同しちゃダメっしょ?」
「細かい事は気にするなァ」
「細かいのか……?」
「それより葉王、この男……この急に現れたコイツはオマエの知り合いか?」
空蓮の遺体に関して色々話が進んだ後にヒロムは自身の中の疑問点を解決したいと考えたらしく話題を変えるべく物陰から現れ当たり前のようにこの場にいる謎しかない少年について面識の有無を鬼桜葉王に対して尋ねようとした。
というよりも、鬼桜葉王はこの場に現れた際にまるで彼を知ってるかのような言い方をしていたのをヒロムが聞き逃さなかったために真相を確かめようとなっただけであり、現れた時のあの口振りから面識は当然あると考えられるし仮に無かったとしてもそれはそれで何かと文句を付けられるとヒロムは考えていた。
そんなヒロムの考えなど理解してるのか鬼桜葉王は彼の問いに対して少し間を置いてから手を叩くと少年のそばに立ち、そして鬼桜葉王は何食わぬ平然とした顔で少年の事を語り始めた。
「コイツは黒月クロトォ、今回の死獅王の調査をオマエに依頼するにあたッてこちらで手配した能力者だァ」
「初めて聞く名前だな。オマエが絡んでるのは理解出来たがコイツとオレの関係や面識云々はハッキリしないままだ」
「麺ならあるはずだァ。とはいえ10年も前ェ……オマエが6歳の頃に何度か会ッた程度のはずだがなァ」
「は?10年前?」
「覚えてるかは怪しいかもなァ。コイツとオマエの関わりの深さはよく知らねェがァ、少なくともコイツはオマエと10年前に何度か会ッて別れた後にどういうルートを辿ッたか定かでは無いが《一条》に辿り着き強くなるために門下生に志願してきたァ」
「おい、コイツは《一条》の指導を受けてるってのか?」
「そうだァ。動機を聞かされた時はあまりの理由に呆れるしかなかッたがァ、動機云々はさておいてもコイツは《一条》の用意した能力者教育のカリキュラムを全て履修しているから実力だけで言うなら並の能力者以上でオレには劣るッてところだァ」
「オマエら《一条》の言う並の能力者ってのは常人離れしてる前提ってことだろうからそれを加味したとしても相当やれるって事だよな?」
そうなるなァ、と鬼桜葉王は自身の行った黒月クロトに関する説明について大雑把にまとめる形で理解を示したヒロムに向けて総括でもするような言い方で一言口にし、鬼桜葉王の説明を受けても過去に面識のあったという事実をいまいち受け入れられないヒロムは軽くではあるがため息をつくと黒月クロトに軽い詫びを入れた後で挨拶のようなものを口にした。
「……悪いがオマエとどういう出会い方をしたとかそんなのは覚えてない。とりあえず、オレのことある程度知ってるみたいだから自己紹介は省いて……まぁ、よろしく頼む」
「感謝、覚えていなくてもいい。ただ今回オレがヒロムの力になれるのならそれで十分だ」
「期待には応えてやる。だからオマエもオレの期待相応の力を見せてくれ」
「快諾、必ずヒロムの役に立ってみせる」
ヒロムと黒月クロト、何とも言えぬ気まずさのある中でとりあえずの挨拶を済ませた2人だったが鬼桜葉王はここでヒロムにある重要な事を伝えようとした。
「姫神ヒロムゥ、オマエが勝手に席を外したせいで伝え損ねた事を今伝えるがァ……今回の死獅王追跡についてだがァ、今回に限ッてはオマエの信頼する仲間は頼れないと思えェ」
「は?どういうことだよ……!?」
鬼桜葉王から告げられたヒロムにとって予想外の一言。鬼桜葉王の言葉、それが意味するものは一体……