49話
シェリーを狙おうとするアスランを彼女のもとへ向かわせんと駆けつけ奇襲を仕掛けたはずの白戸と黒戸はアスランを相手に奇襲を失敗してしまうだけではなく謎のダメージを受けて動揺し、ヒロムの頼みとしてシェリーを生け捕りにするべく 彼女を狙いそれを阻む敵2人を相手にしようとするアスランは手に持つ剣を構えて2人の敵の動きを観察しようとしていた。
そんなアスランの姿と彼の戦いを目にするヒロムは彼の身を案じそばへと駆けつけたフレイに支えられる中で先程のアスランへの評価を一新する中で目にして光景に驚かされていた。
「あれが……名の由来、なのか?」
(今のアスランの動き、傍からだと単に刀身に付いたであろう血を払ったようにしか見えない。けど、おそらくはアレがアイツの能力……シンクが『傷憑き』と名を与えてアスランの事を呼び厄介だと評価した力。何かきっかけがあって発動する条件付き能力、その条件は……)
「あの男の魔力による傷を負うこと、それがアイツの《呪傷》の発動条件だ」
ヒロムがアスランの能力と思われる力について考察しているとその後ろからいつの間に居たのか分からないシンクが条件を語り、彼の存在が何時からあったのかはさておいてヒロムはアスランの能力について知るであろうシンクに彼の能力の詳細を聞こうとした。
「アスランの能力は結局何なんだ?」
「アレは遠隔攻撃の類で呪いだ」
「呪い……!?」
「発動条件としてアスランが対象に傷を負わせることを要求される代わりに条件を満たしたと同時にアスランが望んだ起こした行動に対して実現可能な負傷を対象に強制的に与えるというもの。望んだ通り狙った通りに負傷を与えられないギャンブル要素はあるが対象との距離が近ければ呪いは強力なものとなり最悪の場合は肉体の切断すら負傷として与えられる」
「条件を満たせば一方的に決められる能力、か」
「そう思えるが実際は少し違う。地下に閉じ込めてる間に色々試してみたがあの男の能力は燃費が悪い上に対象が複数になると効果はその数に比例して分散されていく。つまり狙って傷を負わせるのが難しくなるのが分かった。それと体温、気温が低すぎても能力が作用しない事も判明している」
「シンク、アナタはそれをどうやって確認したのです?」
「変に勘違いするなフレイ。対象の数に関してはアイツを拘束する際の戦闘で判明したことを《八神》が拘束した犯罪者相手に少し試した事、燃費の悪さと体温、気温についてはオレが相手をして見抜いたことだ」
「拘束した犯罪者を……アナタらしいやり方ですね」
「ふん。褒められたと思っておく」
「で、オマエが確認した燃費の悪さと低体温と低気温が弱点なのは何が原因なんだ?」
「燃費の悪さは呪いの維持のためにアイツ自身がきっかけとなる魔力を纏い続ける必要があるからだ。仮にも能力、その能力を使うために魔力が必要となり、そして継続させるためにも魔力を消耗する必要がある。だからアイツの能力の仕組みが見抜かれた後に纏う魔力が1度でも途切れ解けてしまえば2度目の発動条件達成は困難になる」
「じゃあアイツが今魔力を解いたら……」
「あの敵の頭と勘の悪さからして今に関しては気にならねぇかもな。で低体温と低気温については……オレがアイツの能力を受けた上で自分の肉体をマイナスまで1度下げてみて試した」
「だと思った。オマエ以外確かめようのない方法だよ、まったく」
「まぁ、そういうなよ。それより、アイツの身元を引き受けてくれるなら戦力増強として利用してもいいとトウマが認可した」
「そうか……なら、アイツの答え次第でこれからが決まるな」
アスランの能力についてシンクが解説し、さらにアスランの身元を死獅王追跡の人員補強として用いて良いと伝えられるとヒロムは彼の返答に期待を寄せようとし、そして……
そんな会話が行われているとは知らないアスランは白戸と黒戸を倒さんと剣を強く握ると地を蹴ると同時に白戸に近づこうと走り動き始めた。
「オレを狙うのか!?」
「まずは貴様だ右足野郎」
「面白い……黒戸!!援護を……
「無駄、それは貴様らにとって叶わぬ願いだ」
アスランが白戸に迫ろうと駆ける中で白戸は黒戸に援護を頼むべく叫ぼうとするがその言葉を遮るようにアスランは冷たく告げると共に手に持つ剣を何も無い所で素早く突きを繰り出し、アスランが何も無い所で突きを繰り出すとアスランから見ると彼の後方に居る黒戸の左足太腿が何かに貫かれたかのような傷を負わされ、突然過ぎる謎の負傷に襲われた黒戸はバランスを崩し倒れてしまい、黒戸が倒れたことに白戸が驚きを見せようとすると今度はその白戸の右脇腹が何かに貫かれたかのような傷を負わされてしまう。
「が……、は……」
「ふむ、二撃目で決め手がついたか。もう少し時間を要すると思ったが……残念だ」
「オマ、エ……!!オレたちに、何をしたァァァァ!! 」
白戸の右脇腹に風穴があいたことでアスランは何故か少し残念そうな反応を見せ、アスランの言葉から彼が間違いなく何かをしたと確信した白戸は脇腹にあけられた穴など構わずに全身に纏う力をさらに強くさせるように高めさせながら流血する体を動かさせて向かい来るアスランに蹴りを放とうとした。
致命傷に近い傷を負いながらも退こうとしない白戸に迫ろうとするアスランに対して白戸の放とうとする蹴りは敵を確実に仕留めようと相手の頭部を狙ってその力が叩き込まれようと動いた。が、しかし……
「これも運命と受け入れろ」
アスランは白戸に接近しようと走るそのスピードを維持したまま体勢を低くさせると同時に体を回転させるようにして白戸が放った蹴りを躱しつつ背後へ回り込み、アスランは立ち上がると同時に白戸の胸部を背後から剣で躊躇いなく貫きトドメの一撃を喰らわせてみせた。
「うっ……」
「白……」
白戸が致命傷を受けたその瞬間、突然の太腿への負傷で倒れていた黒戸が彼の名を叫ぼうとすると彼の額に何かが貫いたような傷が出現し、黒戸はその傷によって命の鼓動を停止させたのかそれ以上の言葉を発すること無く事切れてしまう。
そしてアスランが身に纏う魔力を消すと彼の手に握られた剣も何も残すことなく消え、同時に胸部を貫かれた白戸は一切の音も出さずに倒れて尽きてしまう。
「……貴様らが無駄に前に出てこなければ死は免れた。残念だったな、貴様らはオレを相手に死に急ぎ過ぎた」