47話
岩鯨を完膚なきまでに倒し伏せたヒロムはシェリーを視界に捉え、岩鯨が倒され次の標的にされるシェリーは扇子を構え魔力を身に纏うと彼の動きに対応出来るよう最大限警戒しようとしていた。
さらにヒロムに合流し彼に加勢しようと精霊・フレイが大剣を構えながら並び立ち、フレイ並び立つとヒロムはこれまでのように逃がす訳にはいかないと敵の動きに十分警戒するように殺気と共に冷たい視線を向けようとした。
「女、もう逃がす気は無いから観念しろ……!!」
「悪巧みもここまでです、十神シエナ。これ以上の戦闘行為は無謀、素直にマスターに投降してください」
「岩鯨を倒した程度で調子に乗って……!!」
「ご自慢のペアルックはクロトとレイガが倒す。そうなれば残るはオマエ1人だけだ」
「姫神ヒロム……!!アンタはどうしてここまで《十神》の邪魔をするのよ!!」
「あ?」
「アンタさえいなければ……!!アンタさえいなければ兄上の悲願は成し遂げられた!!アンタはそれを邪魔した……!!そして今も、兄上の悲願のために動く私を邪魔して……!!」
「自業自得だ。オマエも十神アルトも身内の中で楽しめばいい事を外に持ち出し無関係の人間に危害を加えてまで規模を拡大しようとしてる。ただオマエらだけが手を汚してるならまだしも《十神》とは何の縁も無いような人間を利用し使い捨てにして平然としている。十神アルトは今までそれを都合よく隠し通してきたが今は違う。都合よく隠させないためにも、オレが止めるべきところで止めるだけのことだ」
「ふん……偉そうに善人気取りな発言ね。アンタの存在がこの世界の秩序を乱した元凶だというのに」
「これまでの腐敗したルールを壊した自覚はある。だからこそオレはこれからの新しいルールと世界に不要なものを潰したいってだけの事だ!!」
シェリーの言葉を頑なに否定するのではなく彼女の言い分を聞き入れた上で反論し自身の意思を語ったヒロムはあくまでここまでの非はヒロムにあると言いたげな敵を倒すべく動きを見せようと踏み出そうとした。
が、その時だった。
シェリーを倒そうと動くべく1歩踏み出したヒロムの全身に何やら電撃のようなものが駆け巡り、ヒロムがそれを感じ取り踏み出した1歩に続くはずの動作を止めると突然彼の内側で大きく脈打つかのような振動が起き、それを受けたヒロムは苦しそうに胸を押さえながら膝をつくように座り込んでしまい、突然のヒロムの異変にフレイは彼の身を案じてか手にしていた大剣を手放すと駆け寄ろうとした。
「がっ……あっ……!!」
「マスター!?」
「な、んだ……!?」
(あのデカブツの攻撃のダメージ……違う、アイツの攻撃に時間差作動の仕掛けがあるならもっと早い段階で出てるはずだ。じゃあこれは、まさか……)
「どうやらパラディンの予測通りになったわね」
「予測、通り……だと……?」
「アナタ、マスターに何をしたのです!!」
「私は何もしてないわ。もちろん、岩鯨もね。ただ、誰かが何かしたというまとめ方をするなら教えておいてあげるわ……姫神ヒロムのその症状、その原因は姫神ヒロム自身にあるのよ」
「オレ……だと?」
「アンタ、兄上を倒すために精霊の力を対価に強大な力を解き放って勝利を収めたらしいわね。兄上はその力に敗れはしたもののアンタは対価を支払う形で宿していた精霊を消失した。でも何故かアンタの中で精霊の繋がりが戻りアンタは再びその力を得た……反面、アンタは兄上を倒すまでのような戦い方をしなくなったとパラディンは語ったわ」
「……っ……!!」
「アンタの異名たる《覇王》の由来はアンタ個人の高過ぎる戦闘力だけでなくアンタが数多と宿していた精霊を同時に複数従える姿が軍隊を統べる王のようでもあったからというところが大きい。でもアンタ、私や死獅王を追跡する中で戦闘に参加させる精霊は多くて2体、これまで確認した総数も3体と少ない。つまり、今のアンタは過去のように精霊を扱えるような状態ではなく、同時にそれはアンタの中に異変が起きている証拠でもあるのよ」
「オマエ、まさか……!!」
「これまでマスターの前に幾度となく現れたのはそれを確かめるために……!?」
「全てはパラディンの読みよ。おそらくアンタの中には私の確認していない精霊がまだ数人は存在する。その精霊が今も確認出来ないのは今のアンタのその反応で予想が出来る……アンタ、今まで姿を見せてない精霊に苦しめられてるんでしょ?」
「さぁな……元々色々と無理を続けて精霊を宿してたからな。単に今になって今までの負担が返ってきただけかもしれねぇだろ」
「強がらなくていいわよ。その反応で私の中で察しがついたから何を言っても無駄よ。何を言っても今のアンタは手遅れなんだから!!」
岩鯨を倒して残すはシェリーだけという状況から一転してヒロムの身に異変が起き、それを待っていたかのようにシェリーは魔力を強く放出させ光線に変えながらヒロムに向け撃ち放とうとした。
ヒロムに向け放たれようとする光線からフレイは彼を守ろうと武器も持たずに前に出ようとするも丸腰の彼女にそんな事をさせまいとヒロムはどうにか力を振り絞って立ち上がると彼女を無理矢理にでも下がらせようとした。
そんな時だった。
突然魔力を纏った斬撃が飛んできてシェリーに襲いかかり、斬撃が飛んでくるとシェリーは放とうとしていた攻撃を中断させるように消すと斬撃を華麗に躱して難を逃れ、斬撃が誰によって放たれたものなのかとヒロムが不思議に思っていると彼のもとへ地下で拘束されていたはずのアスランが歩き現れ彼の前に立とうとした。
「アスラン……!?」
「貴様には恩義がある。だからこんなところでくたばるのはオレが許さん」
シェリーの攻撃を前に危機的状況にあったヒロムを助けるかのように現れたアスラン。果たして彼は……