46話
岩鯨の攻撃のカラクリを見抜いたヒロム。技を鍛え続けた岩鯨は自身のその鍛錬に対するヒロムの言葉を侮蔑とし、さらにそれを自身の技の鍛錬を誇りと騙る岩鯨にヒロムは誇りを語る事はそれに見合う心を持つ者だと反論すると拳を強く握りながら走り出し、ヒロムが走り出すと岩鯨は彼を迎え撃とうと身構え動き出そうとした。
「仕掛ける気か」
(オマエの攻撃がノーモーションかつ対象に離れていても撃ち込める事は確認済み、わざわざオレの接近を待つ必要ねぇから先手を撃つなら動くしかねぇよな)
「ただ、今更過ぎてどうでもいい」
初手の偏見により起きたカウンター殺し以外に自ら動く様子のなかった岩鯨の動き出しに対してヒロムは特に何か警戒するような事も考えてないらしく当たり前のように敵に近づこうとし、ヒロムが近づいてくる中で岩鯨はヒロムに向けて掌底を向けるように構えながらその身に力を入れようと踏ん張ろうとし、岩鯨の踏ん張ろうとするその行動を瞬間で気づいたヒロムは近づこうとする足を止めると走り出しにより得たスピードを殺すかのようにその場に留まり敵の動きを観察するかのようにしながら体勢を低くさせようとした。
「ぬっ……!?」
「意外と甘いな。1度見抜けば容易に見つけられる……いや、バレたから隠す気無くなって晒したのか?」
「自分の技の弱点を把握して止まったのか!?」
「誇りだの騙ってた割に間抜けだったなデカブツ。オマエの技、その一撃一撃は流石と評価出来るがその一撃を成立させるためには自慢の肉体で攻撃を撃ち込む際に生じる衝撃を受け耐えなきゃならない欠点があるんだろ?最初の不意打ちもさっきの力のぶつけ合いの時もオマエは足を止めた状態で放っていた。そして今も……つまりオマエにとってその両脚は衝撃を撃ち込むための反動吸収の支柱でありオマエの技を一撃として成り立たせるために不可欠なようそってわけだ。そして……」
岩鯨の技の弱点、それについて触れるように話したヒロムは止まった状態から急激な加速を起こして岩鯨の背後へ移動し、ヒロムの背後への移動に気づいた岩鯨が動くよりも先にヒロムは回し蹴りを敵の背中に叩き込むと岩鯨の体勢を崩させ、さらにヒロムは回し蹴りを放った直後の状態からさらに回転して勢いにつけるともう一度回し蹴りを放ち、今度は敵の後頭部へと叩き込むことで敵へ確実なダメージを与えようとした。
対峙早々ヒロムが脳天に放った踵落としを受けても平然としていた岩鯨は後頭部へ蹴りを叩き込まれたからなのか前に倒れ込むように体勢が大きく崩れ、岩鯨の体勢が完全に崩れるとヒロムは今がチャンスと言わんばかりに渾身の蹴りを体勢の崩れた岩鯨の腹に食らわせて敵を蹴り飛ばし、蹴り飛ばされた岩鯨は後頭部へ一撃を叩き込まれた影響かフラつきながらも立ち上がると構えようとした。が、ヒロムは岩鯨が構え直そうとすると不敵な笑みを見せると共に素早く走り出すと同時に敵へ迫ろうとし、未だフラつきが見え構えに安定が見えない岩鯨に迫るヒロムは敵を挑発するかのように言葉を発し始めた。
「どうやら1度崩れると自慢の振動攻撃は飾りになるらしいな。オレの踵落としを防げたのも一撃が直撃する瞬間に同等の衝撃を生み出す事で相殺していただけでオマエ自身がタフなわけじゃない。オマエは全てにおいて研鑽した技に頼らなきゃどうにもできないって事だ。つまり、オマエは技がまともに使えなきゃ戦士にも成れねぇんだな!!」
「黙れ……自分のこの技は、オマエを倒せると姫に認められた力がある!!」
ヒロムの言葉を受けた岩鯨は彼の言葉に対する自身の内から生まれる怒りの力で持ち直すかのように強く地を踏むと右手を大気に撃ち込むかのようにヒロムに向けて素早く突き出そうとし、岩鯨の突き出した右手が大気を強く叩くとヒロムを仕留めようと大地を抉り壊す衝撃が放たれてヒロムに襲いかかろうとした。しかし……
「……自惚れんな三下」
ヒロムの浮かべていた不敵な笑みは音もなく解けるように消えると共に冷たく鋭い殺意に満ちた表情を新たに浮かばせ、殺意に満ちた鋭い瞳で岩鯨を捉えるヒロムは当然のように岩鯨の放った渾身の一撃を躱すと素早く敵の懐へ潜るように滑り込むと右手を敵の腹部へ押し当て、そして左手を勢いよく後ろへ引くと体を軽く浮かせ……
「オレを倒せるかどうかの評価はオレを実際に仕留めてからにしろ。他人の期待と願望で成り立ってる評価如きで強さを得た気になってんじゃねぇよ!!」
岩鯨が言葉を否定し反論したヒロムは勢いよく引いた左手を素早く戻すかのようにして敵の腹部に押し当てている右手を押し込むかのように勢いをつけたまま掌底を右手の甲へ撃ち込み、ヒロムのその行動が瞬間で終わると岩鯨の全身に強い衝撃が駆け抜け周囲の地面が大きく砕け散り、そして岩鯨は全身から血を吹き流し口、目、鼻、耳の穴から血を垂れ流しながら何も言わずに背中から倒れてしまう。
「覇王式重装甲撃破拳術、オレがオマエみたいなデカブツや重装甲の相手を確実に潰すためにガキの頃に生み出した技だ。オマエの研鑽した今の技にこれが出来たか?まぁ、無理だよな……技を極めたつもりで自惚れるような三下には」
倒れた岩鯨を見下ろすように冷たい視線を向けるヒロムは自身の倒した敵に背を向けるように歩き去ろうとし、そしてヒロムはシェリーを睨むと首を鳴らしながら彼女を倒そうと殺気を纏い始める。
「次はオマエだ女……!!」