37話
暫くして……
『傷憑き』の厳重な拘束は体を軽く動かす程度にまで軽い状態へと緩和され、そして……
彼の前に用意されたテーブルの上には大量の握り飯や肉料理が並べられ、『傷憑き』は貪り食うかのように人目を気にする様子もなくひたすら食べ続けていた。
彼の食事をヒロムはそばで観察するように見ており、明らかに異様な光景に対してトウマとシンクが幾重にも重ねるように設けられた鉄格子の1番外側の鉄格子の所から様子見をする中、クロトとレイガは状況整理を行おうとヒロムのもとへ集まった。
「質問……この奇妙な状態は何だ?」
「何って食事。流石に流動食だけの人間を戦力として入れるのは不安しかないだろ?だからひとまず飯食わせて栄養補給させてる」
「いや、危険過ぎないか?だってコイツは殺人鬼なんだろ?」
「密入国船内にいた人間をな。民間人は殺してないのならある意味所属機関の問題による拘留になるからコイツがその件を全て話して真相がハッキリすればトウマたちも無駄な拘束をする必要無いと判断して全て解いてくれるはずだ」
「難関、当主はかなり警戒している。シンクは多少ヒロムを信じてはいるみたいだが……大丈夫なのか?」
「んなもん、最終的に力づくで連れていくだけだ。それにトウマがゴネたらオレが黙らせて認めさせる」
「強引、最後は力技か」
「そういうことだ。さて……そろそろだな」
クロトとレイガに状況の説明と目的を伝えたヒロムがそろそろだと呟くと『傷憑き』は食事の手を止めて水を一気飲みし、そこで食事を終わらせたであろう『傷憑き』はヒロムを見るなり彼に深々と頭を下げた。
「……感謝する。貴様には大きな借りが出来てしまった」
「別にいいから顔上げろって。まぁ、個人的に大きな借りが出来たって言うなら……話してくれるか?オマエの事、それから殺人の事を。嫌なら名前だけでもいいぞ」
「……名はアスランだ」
「そうか、アスランか。じゃあアスラン、話題を少し変えるが……ここが《八神》の管轄下ってのは把握してるか?」
「理解している」
「ならストレートに聞かせてもらうがどうしてここに拘束されるような事になった?」
「別に大した理由は無い。単純に彼奴らが徒党を組んで現れたから攻撃しただけだ」
「論外、大した理由も無く襲うのはおかしい」
「アスラン、言い難いのは分かるけど変に誤魔化さなくていい。話しやすい範囲で構わないから話せる事を話してくれ」
「なら、分かった……オレが《八神》に拘束される事になったのは、オレが《八神》の当主の側近といえるあそこにいる男を攻撃しようとしたからだ」
「その理由は話せるか?」
「あの男ならオレが探している無垢の仮面騎士を知ってると思ったからだ」
「無垢の仮面騎士……」
「驚愕、まさかだな」
「それってアイツのこと、だよな?」
「貴様ら、何か知ってるのか?」
「アスラン、その無垢の仮面騎士ってのは鉄仮面で素顔を隠した戦士じゃないか?名前は……パラディン、じゃないか?」
「正確な名前は知らないが……驚いた。貴様もあの無垢の仮面騎士を追ってるのか?」
「少し訳ありでな。ちょっと前に求めてない縁が出来ちまったって感じだ。オレたちの事は別にいい、今はアスランの話を聞かせてくれ」
『傷憑き』……アスランと名乗った少年の口から明かされた無垢の仮面騎士、つまりはパラディンであろう存在を知らされた事でヒロムたちは思わぬ収穫で驚きを抱くもヒロムは詳しく聞き出そうとアスランから詳細を聞き出そうとし、アスランはヒロムに無垢の仮面騎士に関して聞かせてくれと言われると拒否すること無く受け入れるように頷くと続きを語り始めた。
「元々オレは自分の能力を活かした殺し稼業を生業に各地を転々としていた。ある日、オレのもとへ匿名での依頼が寄越され、ターゲットの情報を集める中でそいつが海外に渡航していると判明した。オレはそれを頼りに追いかけてその地へ向かったが見つけたのは既に殺されていたターゲットと無垢の仮面騎士だった」
「そのターゲットってのはどんな人間だった?」
「数ヶ月前まで富豪だった男で、没落するまでは豪遊していたもののある事件を機に後ろ盾が無くなり何もかもを失う事になり、結果的にそいつは国内に身を置くと何を言われるか分からないとして海外に逃亡したらしい」
「ある事件……没落……。クロト、まさかだが……」
「推測、おそらくこの男の話す没落した富豪の人生が一変したのは《十家騒乱事件》、後ろ盾というのもあの時まで地位と名声、富を手にしてきた《十家》の中に属していた何れかの家ということになる」
「そこから無垢の仮面騎士との因縁が?」
「いや、その時に出会ったそいつはターゲットを殺害した事と『コイツは外れ、《八神》については知らなかった』と口にしただけだった」
「なるほど……そこで《八神》について目をつけたんだな」
「ああ。彼奴に対して本格的に目をつけたのはオレがこの国に戻るために彼奴の足取りを追って密入国船に潜入した時だった」
「コイツ、サラッとおかしいこと言ってるけど大丈夫なのか……?」
「落ち着けレイガ。そんなのはどうでもいい。そんなことよりも密入国船にアスランが乗り込んだ時にパラディン……アスランから見ると無垢の仮面騎士が居たんだな?」
「いや、正確に言うなら現れたが正しい。密入国船内に密入国者を装おい潜伏しようとしていた矢先に彼奴が現れ、そして彼奴とオレの間に余計な因縁が生まれた」