36話
『傷憑き』、その正体は殺人鬼であり《八神》の地下の独房に隔離されるそれは数段階に重ねるように設置された鉄格子に囲まれる中で拘束される少年であり、シンクが『傷憑き』だと紹介した少年の今の状態について気になったヒロムはここまで厳重に拘束されている事についてシンクに詳しい説明を求めようとした。
「どうしてあんなにガチガチに固めてんだよ?独房……つうか監獄の鉄格子の設け方とここに入る直前ノ壁の仕掛けからしてあそこまでする必要無くないか?」
「あそこまでしないとアイツに近づくことも難しい。仮に能力を発動出来て拘束具を1つ外せたとしても逃げられないレベルで備えておかないと最悪の事態を招きかねない。それくらい『傷憑き』は危険なんだよ」
「その危険すぎる殺人鬼をどうやって拘束したんだ?」
「オレの能力で死なない程度で抵抗出来ないところまで追い込んでから気絶させて拘束した。とはいえかなり抵抗されたし拘束完了までに十数人がアイツの能力を受けて負傷させられた」
「結論、つまりは拘束するまでの経緯からこの厳重な状態になったということか」
「簡潔に言うならそういう事になるなクロト。とはいえこの厳重な拘束がいつまで効果を成してるのか、その保証が出来ないのが問題だ」
「あの……今拘束されてるアイツ、メシってどうなってんだよ?」
「その辺は大丈夫ですレイガさん。ボクも流石に彼に何も与えないなんて事はしたくないので拘束具の隙間を通す形での流動食での栄養補給を行っています」
「オレは不要だと言ったんだがな」
「殺人鬼であろうと彼は人間、ボクは必要以上の事を強いたりする事は嫌なんだ」
「……って事は今空腹なのかもしれないんだな」
「兄さん?」
よしっ、とヒロムはこれまでの話から何かを決めたらしく一言言うと鉄格子の前に立ち、彼が何をする気なのかとトウマが不思議そうに見ているとヒロムはトウマとシンクにとんでもない命令を出した。
「オレを中に入れろ。直接話がしたい」
「なっ……危険すぎるよ兄さん!!」
「いくら拘束が厳重とはいえアイツがどんな事を起こすかは未知数だ。ヒロムを信用していないわけじゃないが、流石にここで素直に中に入れてやるのは難しい」
「危険と判断したらすぐ引き返す。それにシンク、仮にもアイツをオレの戦力として紹介しようとしたんだから黙って見とけ」
「……それもそうだな。すまない、オレの発言が軽率だった。だが、万が一の備えとして会話が出来るレベルで留めさせてもらう」
「好きにしろ。オレはアイツと会話が成り立つなら何でもいい」
『傷憑き』と直接話をする、殺人鬼としての情報を聞かされた直後に出る言葉としては異常としかいえない発言にトウマが動揺しシンクも危険性を忠告しようとするもヒロムの言い分を聞いたシンクは一転して彼の頼みを聞き受けようとし、最悪の事態を避けられるレベルでの拘束の解除にて引き受けるとシンクが伝えるとヒロムは受諾、そしてシンクが指を鳴らすと鉄格子が次々に道を作るかのように開かれ、そして厳重な拘束の中にいる少年の顔に施された拘束具から電子音が鳴ると外れ落ちて彼の顔をヒロムたちへ披露させていく。
額右半分、というよりは額右側から左頬にかけて大きな傷痕のある褐色の肌の灰色の髪、紫色の瞳を持った整った顔立ちの少年。開いた鉄格子を迷うことなく通り過ぎていくとヒロムはその少年の前に立ち、ヒロムが近づいてきたことにより『傷憑き』と呼ばれる少年は何を思ったのかヒロムを睨むような眼差しを向け、友好的とはいえない彼の反応をまえにしてもヒロムは何も思わないのか腕を組みながら『傷憑き』をじっと見つめた後、彼に向けていくつかの質問を行おうとした。
「俺が誰か分かるか?」
「貴様は……覇王、か……?」
「まぁ、合ってるな。異名じゃなくてオレの名前は分かるか?」
「……知らん……」
「そうか。質問を変えるがどうして密入国船の乗員乗客を殺した?」
「答える義理は……無い……」
「ふーん……そうか。答える義理が無いなら仕方ないな」
何故密入国船の乗員及び乗客を殺したのかを問われるも答えようとしない『傷憑き』、彼の態度にヒロムは何やら言いたげな反応を見せるとゆっくりと彼に近付くと意外な事を口にした。
「ここを出て美味い飯食いたくないか?」
「……何……?」
「軽い報告程度にオマエの事を聞いたが、密入国船内にいた人間を殺した以外は《八神》の配下の人間を負傷させたくらいで民間人には手を出してないみたいだしな。オマエに何か言い分と理由があって殺人についても正当性があると判断されればこんな薄暗い所で流動食与えられるような生活を過ごさなくて済むとオレは思ってる」
「……オレにそんなものは……」
「人は理由も無く行動を起こせない。理由が無いと思ってもそれは生きるため、生きていくためという本能に直結する。飯食うにしても、な」
「……」
「話したくないなら別に話さなくてもいいけど……腹減ってんだろ?まずは飯にしないか?」
殺人に関しての質問からどういう流れか食事の話をするヒロムのその言葉に理解が追いつかないのか『傷憑き』は言葉を詰まらせ黙ってしまい、そんな彼に向けてヒロムは優しく話しかけ、そして少年は……