34話
トウマとシンク、2人はヒロムたちと向かい合うようにソファーに座り、少ししてメイド服を着た女性が人数分のコーヒーを運んできて彼らに配る中でシンクはレイガの『獣身武闘』について知っていた理由を話し始めた。
「最初に誤解のないように話しておくがオレはオマエの流派に関して詳しく知ってるわけじゃない。当然オマエの流派を教え伝えていた師範の事もな」
「じゃあ何でオレのこと……いや、オレが獣身武闘の使い手だって分かった?」
「生憎、情報共有出来る相手がいるもんでな。ただ、ヒロムのためにとオレに情報を売ってた本人が知らせてないのは初耳だった……なぁ、クロト?」
「何!?」
「なんだクロト。シンクと連絡取ってたのか?」
「謝罪、悪意は無い。万が一の時の保険として氷堂シンクの手を借りれれば解決は早まると考えての事だ」
「いや、気にしてねぇよ。どっちかと言うとオマエらが面識あったのが驚きだな」
「《一条》の中に入って力をつけようとしたクロトと《八神》に身を潜めるようになったオレはヒロムを知る共通の人間としてこれまでも何度か情報共有をしていた。恐らくだが葉王が死獅王の件でクロトを仕向けたのはこの展開を予測してのものだろう。ヒロムが死獅王の件を引き受けた事、レイガと死獅王の関係、そして十神シエナの件もクロトを通じて密かに知らされていた」
「なるほど……だから十神シエナの件含めての依頼変更を提案して素直に通ったわけか」
「最初からあの男の手のひらの上という事だな。とはいえ、オレとしては来てくれて助かった」
「シンク、ボクはその話初耳なんだけど……?」
「トウマはヒロムの事になると当主の仕事を放棄しかねないと判断して報告をしなかったんだ。ただでさえ書類作成が止まってんのに無駄な事させたくないからな」
「それはシンクの報告漏れがあるから……
「話を戻すが、ヒロムたちがここに来たのは戦力の確保及び情報だよな?」
「まぁ、情報なんてのは二の次だ。ましてクロトとシンクが繋がってると分かった以上期待は出来なさそうだからな」
「返す言葉も無いな。ヒロムの指摘通り、クロトと情報共有している時点で提供出来る事は限られている。何せ、こちらで把握してる大きな手掛かりがあるなら既に提供しているわけだからな」
「だからオレとして期待してるのは戦力の方だ。都合よくオレの手駒として利用出来る上でシンクから見て使い捨て出来る人間がいるなら紹介して欲しい」
「兄さん、流石にその言い方は……」
「今回の件は相手が相手だから正攻法や正規の人間に頼る気はない。ある程度替えの利く腕利きでなきゃ話にならない」
「これに関してはヒロムの言う通りだな。クロトから提供の情報の通りなら相手は殺しを躊躇うことの無い無法者、となればこちらも一線を越えても問題ない人間が適任だろうな」
「その適任がいるかどうかなんだが……アテはあるか?」
戦力の確保、その上でヒロムはあえて『替えが利く』という言い方をしてシンクに相談し、彼の発言にトウマが問題視するもシンクが賛同するとヒロムはシンクに適任がいるかを詰めるかのように尋ね、尋ねられたシンクは少し間を置くといくつかの候補を挙げようとした。
「アテというわけではないが死獅王の件で請け負ってくれるなら《八神》として処理する手間が省けて助かる人間と……あとは似たようなのが候補で出せそうなくらいだな」
「へぇ、ずいぶんと都合のいい人材がいたもんだな?」
「とはいえトウマが反対するかもしれない……が、ヒロムの抱える問題解決に利用出来るなら首を縦に振るしかないと理解してもらうしかない」
「あの……そういうのは本人であるボクのいない所で言う事だよね?それ聞いた後だと素直に頷けないよ?」
「そう言うなよトウマ。死獅王の件は《一条》の管轄という事になる。つまり、雑に言うならここでヒロムに手を貸しておけば事件解決に貢献したとして《八神》に功績を与えられるかもしれないぞ?」
「ボクはそういうのを求めてるわけじゃ……
「オマエらの話はどうでもいいからその人材とやらを紹介してくれシンク。こっちの状況、分かってんだろ?」
「それもそうだな。具体的に挙げてた人間に関してだが、そいつは今この《八神》の敷地内にある地下の独房に隔離されてる」
「地下の独房……って、罪人か?」
「ああ、簡潔に述べるなら……
「ダメだシンク!!彼の身柄を渡すなんて危険過ぎる!!」
ヒロムに対して死獅王追跡の戦力となるであろう人材を紹介しようとするシンクの言葉を遮るようにトウマは声を荒らげるようにして止めようとし、声を荒らげるトウマの様子から只事では無いと察したヒロムとクロトが静かに様子を窺おうとするとシンクはトウマを横目で見ながら彼の意見に対して反論した。
「下手にアイツを隔離したままにするのは《八神》にとって都合が悪い。現に今の日本にはオマエが当主である事を良しとしない人間もいる。だからこそオマエにとって不利になるものは捨てれる時に捨てるべきだ」
「彼の行いがどうであれ今生きているなら彼は……
「死獅王の計画が阻止できなければ大勢が死ぬ。トウマの言い分も分かるがシンクの言い分も一理ある。オマエが言い分を聞き入れた上でオレが責任を持つ、それでいいだろ」
「兄さん……」
「それに……問題児の扱いは慣れてるから任せとけ」
「……分かったよ兄さん。彼の事は……『傷憑き』は任せる」
「傷憑き……そいつが問題児の名前か。面白ぇ」
トウマが何としても止めようとしたシンクがヒロムの戦力として紹介しようとした人物……『傷憑き』。果たしてその人物は……