30話
ヒロムにより持ち掛けられた葉王からの依頼内容の変更。突然の事でヒロムに同行するクロト、ヒロムやクロトに加勢し現在交渉に利用されかけているキラ、そしてこの場において最重要人物とされるレイガが困惑していると突然取引を提示された葉王はため息をつくなりヒロムに対して取引を持ち掛けた理由を聞き出すために話を進めようとした。
『話を聞かせろ姫神ヒロムゥ。オマエが何故そうしようと考えたのかをなァ』
「死獅王を始末しても葉王や《一条》の止めたい敵の計画が止まるかは分からない。それはシェリーと名を変えた十神シエナの存在があるからだ」
『つまりィ、今始末して計画を止めるために狙うべきは死獅王ではなく十神シエナだと?』
「他人を上手く利用して暗躍していた十神アルトの妹ってんならその妹にも十神アルトと並ぶ知能があってもおかしくはないはずだ。十神シエナを拘束しても《一条》の中にある疑惑が消えないならその時に死獅王を始末すればいい」
『オマエの考えは分かッたがァ、その考えが外れてたらどうするつもりだァ?』
「責任について問いたいならオレに背負わせればいい。オレの首一つで済むなら好きにしろ」
『……ッたくゥ、やめろやめろォ。オレがそれを出来ないと分かッてやッてるんならタチが悪いぞォ』
「そんなつもりは無い。ただオレは依頼内容の変更に伴い責任の所在が問われるならそれを負うつもりだと言いたかっただけだ」
『……ハァ〜ッ、オレは別にそんなものを求めたつもりはないんだがなァ。まァ、そこまでの覚悟があるッて事で内容を訂正しろと言うなら聞き入れてやるよォ。ただしィ、暫くは支援に手を回せないからその辺は自分たちで何とかしてくれよォ』
「無理を言ってるのはオレの方だからその辺はどうにかする。その代わり都市部に戻るまでの足として車には乗せてもらうぞ」
『それくらいなら頼れェ。流石にそこから自分たちの足で移動しろとは言えねェからなァ』
「助かる。とりあえずオレの方からの連絡は一旦ここで終わりにする。何かあればまた繋げるが暫くは何も無いと思っててくれ」
『あァ、そう思ッておくゥ。こッちからの連絡も羅国キラの合流時にしかしないからなァ?』
「了解した。じゃあな」
葉王に軽い挨拶を返したヒロムは映像通信を終わらせるように画面を切り、タブレット端末を持ち主のキラに返したヒロムは咳払いをするとクロトたちにここからの流れについて話し始めるが、その内容は葉王との映像通信の時の内容とは異なるものが話された。
「まずキラは《一条》に一時帰還してアイツらが《十神》について調べるように誘導してくれ。多分だが今の状態だとアイツらがこっちの動きを気にして集中出来ないだろうから一度アイツらの注意を完全に逸らさせたい。長居しなくていい、とりあえず《一条》の調査がある程度《十神》の方に向いたらクロトの端末に連絡入れろ。そのタイミングでオレが葉王に連絡入れてこっちに合流するよう誘導する」
「え、ぼ、ボス?」
「クロトはこのままオレのフォローを頼む。こっから先、あのパラディンってのがどこまで関与してくるか分かんねぇ以上下手に動けないが敵が攻めてきたら叩き潰すぞ」
「……承諾、それについては今までと変わらないな」
「そしてレイガ……オマエはとりあえず死獅王に専念しろ」
「え……?」
「ボス、ストップ。何がどうなってるスか?これさっき鬼桜葉王との会話内容と相違があるスよ?」
「だろうな。そもそもオレはアイツとまともな取引したつもりは無い」
「「え?」」
「どゆことボス?」
「死獅王の追跡と十神アルトの妹を捕らえるってところは真面目な話として進めてたが、オレたちの目的の変更に関しては《一条》をオレたちから遠ざけるためにしたんだよ。あのまま進めるにしても都市部に戻った途端にこっちの動きを何かと把握されかねないからな」
「な、何のためスか?」
「死獅王の行動の真相を探る」
「はい!?」
「アイツの行動の真相?師範やオレにとって仲間だった門下生を殺した理由を調べるってことか?」
「そこは調べるにしても手掛かりとなるものがないから死獅王に問い質す他無い。問題はアイツが十神アルトの妹と一緒にいる理由だ。そして……あのパラディンってのが《十神》と関係があるのかも調べる必要がある」
「まさかスけどボス、死獅王の行動の真相って……」
「ああ、オレたちは今この瞬間から死獅王が誕生してしまった謎を明らかにするべく動く。これに関しては暫く《一条》のバックアップが無くなるからこれまで以上に危険が伴う、だからここから先の行動に関して強要する気は無いし、オマエらの意思に任せる。手を貸してくれるなら……その気があるなら手を貸してほしい」
葉王と取引して《一条》からの死獅王の始末の依頼内容を変更したヒロムが明かした今後の新たな方針。新たな方針を明かした上でヒロムは彼らに『従え』とは言わずに自らの意思での決定を促すような言葉を告げ、それを受け返事を求められたクロトたちは……