27話
精霊・マリアの見つけた不自然さの中にある瓦礫の山。ヒロムはクロト、キラ、レイガ、自身の精霊であるマリアと戦闘時は姿を見せなかったフレイ、ラミアを呼び出し7人体制で瓦礫の山を綺麗に退かしてその下に何かあると思われるものを目にしようとしていた。
7人で瓦礫の山を退かし続ける事約30分、全ての瓦礫を何とかして退かしたその下には瓦礫の山という不自然さに隠されていた謎が隠れていた。
それは……
「……は?何だこれ?」
「難解、何かのトリックが隠れてるのか?」
「いや、どう見ても見たまんまだと思うスね……」
瓦礫の山の下から出たものにヒロムとクロト、キラは3人揃って理解の追いつかないという呆然とした様子でそれを見ており、フレイたち精霊も瓦礫の山の下から出たものに疑問を隠せずお互いに顔を見合せていた。
ヒロムたちに反応を困らせる程の威力(?)を見せたもの……瓦礫の山の下から姿を見せたのは……蓋のされたマンホールだった。
寺院の焼けた跡も燃えることなく残っていたそれには寺院焼失の際の煤が蓋にかかっていたらしく瓦礫を退かした後もそれらしきものが少し残っているが如何せん瓦礫の山を退けてまで見つけたものが蓋のされたマンホールだったというある意味で衝撃的な発見にヒロムたちは正常な思考が働かずにいた。
とはいえ何かしなければ物事は前に進まない、ヒロムはため息をつくと重い腰を下ろしてマンホールの蓋を開けようとし、寺院の焼失の際の火災を受けていたらしいマンホールの蓋は普通に開けようにも難があり、スムーズに開かずヒロムが舌打ちするとカレをフォローしようと3人の精霊は手を貸すカタチで漸くマンホールを蓋が外れ蓋の奥先にあるものが姿を見せる、はずだったが……
蓋を開けた先にあるのは下水道や配管工事を行う作業者が出入り用いる一般的な縦穴であり、何か特別な仕掛けがある訳でもなくある程度の深さがあるくらいしか視覚から得られる情報は無さそうだった。
「……どう見てもマンホールだな」
「落胆、瓦礫の山に気を取られ過ぎたな」
「どうしますマスター?ここは私がラミアとマリアを連れて調べに行きましょうか?通信妨害の可能性も視野に入れるならマスターと私たちで行える思念通信が有効になりますが……」
「興味、思念通信とは?」
「単純に精霊と宿主の間で行える思考と脳内で処理される意思疎通だ。オレとフレイたちの間にある繋がりの強さで伝達の強度が左右されるけど、精霊との繋がりを用いる点は衛星通信や電波通信を妨害するジャミングを受け付けない利点があるし有効距離もその気になれば5kmにはなるから意外と便利なんだよ」
「精霊とヒロムさんの間でそんな強力な効果が発揮されるなんてスゴいですね……」
「まぁ、複数の精霊を宿すオレだから出来る芸当なのか精霊を宿せば誰でも出来る芸当なのかわかんねぇから特別自慢するほどのものとは思えねぇんだけど……」
(何かあるのは分かるし調べる必要性も理解してる。けど、アイツ……パラディンが現れたせいでどうも安直な行動を避けたいって考えが出てしまう。アイツは多分、オレの手の内をかなり把握してる可能性が高い。間違い、アイツがオレを大罪人だの何だの言えるって事はオレの事をある程度……必要以上に把握してる事の証明だ。だからこそ脳裏に過ぎるのはこれがパラディンの罠の可能性、通信妨害が無いにしても精霊に対する罠がある可能性も……)
「……ボス、今思考して判断しようとしてるなら精霊に調べに行かせてくれないスか?」
「……一応理由を聞かせてくれるか?オレが思考してる前提で調査するよう押すのは何でだ?」
マンホールの中に入っての内部調査に関してヒロムが死獅王の勢力に属する戦士で能力者と思われるパラディンの存在から罠の可能性を懸念しているとキラはヒロムにフレイたちによる調査を行うよう進言し、キラの言葉の真意が気になったヒロムは彼が何故調査を進言したのかその理由を聞き出そうと質問を返し、その質問にキラはヒロムとフレイたちが外したマンホールの蓋を指差しながら答えた。
「このマンホール、単に瓦礫を山にして隠すには拍子抜けスよね?ここに来たオレたちを倒そうと死獅王が現れたからには何かあると考え、見つけたのがマンホールならクロトみたいにガッカリする……けど、ここまでが敵の狙いだとしたらどうスか?」
「敵の狙いだと?根拠はあるのか?」
「根拠……というか、普通の人間ならマンホールを見た時点でそれで止まる。けど、ここに来たのは《姫神》の人間と今は《一条》に身を置く人間2人、そしてこの地に縁のある人間……つまり、このマンホールの蓋の模様の中にある紋章に気づける人間が揃ってるって事だ」
「紋章……?」
キラの言葉、マンホールの調査を進言した理由が語られる言葉を聞いたヒロムはクロトやレイガと共に外した蓋に目を向け、マンホールに掘られた模様をよく見た。その模様の中には十字架の裏で2枚の翼が交差した紋章が刻まれていた。
それを見つけるも何なのかレイガは分からなかったらしいが、ヒロムとクロトはそれを目にした時、すぐにそれが何か分かってしまう。
「驚愕……!!これは……いや、こんなのがここにあっていいのか!?」
「ああ、こんなマンホールの蓋の模様にされていいもんじゃねぇよ。だって、これは……これは、オレが潰したあの男の……十神アルトが当主を務めていた《十神》の家紋じゃねぇか!!」
マンホールの蓋に刻まれていた紋章……それがかつてヒロムに倒された男・十神アルトが当主を務める《十神》の家紋だとして衝撃を受けるヒロムとクロト。何故ここに《十神》の家紋があるのか、そしてここには何が隠されているのか……