21話
レイガの過去に深く関わる永楽寺院の焼け跡地に向かうべく行動を開始したヒロムたち。行動を開始し、クロトの連絡により《一条》が車を手配した事で目的地付近まで送り届けられたヒロムはクロト、キラ、レイガと共に目的地に向けて歩いていた。
何故目的地となる永楽寺院に直接車で向かわなかったのか?それには理由があり、車での移動に際しては高速道路や整備された道路等で快適と言って差し支えないようなもので困るような事も無く移動出来ていた。だが、ある地点から急に道の整備などされていない荒れた道中が続き、果ては車は当然入れぬ人も入れぬように鉄製の柵が施されていたため、ヒロムたちは止むを得ず車での移動から徒歩に切り替える形で目的地に向かっていた。
人里離れた所にある、というか永楽寺院が人を避けているかのような場所にあるらしくヒロムたちは道中少し険しい道を歩き進めて目的地に辿り着こうとしていた。
「……遠くねスか?」
「同意。永楽寺院はまだ先なのか?」
「あと少しで着くから我慢してくれ。師範がこの辺の整備をケチってたせいだし不満なら極楽に逝った師範に言ってくれ」
「その師範ってのは金に厳しい人だったのか?」
「いや、そういう訳じゃなかったと……思うけど実際はわかんないです。師範の金銭事情まではオレも分かんないですけど、道の舗装とかそういう事に金を使いたくないみたいなことは他の門下生に話してるのを聞いたことがあるんだ」
「まぁ、獣身武闘を伝授させるために門下生集めてたって考えると金回りは悪くなさそうだし、金銭的理由というよりは他のところに理由があるって思う方がいいのかもな」
(もしかしたら死獅王がレイガだけを生かした理由と関係あるかもだし……)
少しばかり険しい道を歩く事に不満を口にするキラとクロト、永楽寺院までの道のりがあと少しであることと道の悪さについて知る限りで話すレイガ、そしてそのレイガの言葉に質問を交えながら話をまとめるかのような言葉を返しつつも死獅王の行動について怪しむヒロムは目的地に辿り着くために話しながらも歩き続け、そして……
歩き進めしばらくしてヒロムたちは険しい道から少しばかり道が整備され開けた場所を歩く事になり、そこから少し進んだ所で長い石段を見つけ、石段を見つけたヒロムたちは何を言うでもなくアイコンタクトで何かを伝え合うように頷くと周囲を確認した後に石段を登り、長い石段を登りきったヒロムたちはついに目的地として目指していた場所に到着することとなった。
「着きました、ここが永楽寺院があった場所です」
石段を登りきったところでヒロムたちが止まるとレイガはここが永楽寺院があった焼け跡地だと言い、ヒロムとクロト、キラは目的地として目指した永楽寺院の焼け跡地に踏み込もうとした。
焼け跡地、そう言い切れるだけあって現状言える事は建物が焼けたという痕跡と焼け果てた建物の一部が残っている程度の悲惨なものだった。
「……跡形も残さず焼いたみたいだな、死獅王は」
「はい。ここを燃やしたアイツは師範や他の門下生を殺害し、どういうわけなのかオレだけが生かされた」
「疑問、わざわざレイガだけを生かす理由は何だったんだ?」
「それを調べるためにここに来たわけスけど、ここがこの有り様じゃ望み薄じゃないスか?」
「流石に何もかも燃えてこんな風になってたら地上で手掛かりを見つけるのは無理だろうな。でも……もし、死獅王も把握していないものが隠されてるかもしれないってなると動かない訳にはいかないだろ」
「ボス、何か思いついたスか?」
焼け跡を見て望み薄と感じるキラの言葉に対してヒロムは何か考えがあるような口振りで話し、ヒロムの言葉に何かあると感じたキラはそれを聞き出そうと彼に尋ねるとヒロムはキラだけでなくクロトやレイガにも伝わるように死獅王が把握していないと語ったものについて明かし始めた。
「憶測でしかないがどこかに地下に通じる入口もしくは扉が隠されてるはずだ。死獅王が何を思って燃やしたかは知らねぇけど、死獅王は寺院を焼き消したいと思うほどの何かがあったはずだ。それとレイガの件、不殺の掟を入門前に既にレイガが破っている事を師範が秘匿にしてた事も踏まえると永楽寺院自体に何かが裏があると考えて良いと思っている」
「師範がオレたち門下生に何かを隠していたって事か?」
「そうなるな。ただ、実際にそんなものがあるかはここを調べるまで分からない」
「でもボス、あるか分かんねぇもんを時間かけて探すつもりなんスか?流石にそれは無謀すぎねぇスかね」
「心配すんなキラ。ここに何かあるのかどうかは……その答えを持つ人間が現れれば簡単に判明する」
「それはどういう……
「コソコソ尾行してないで出てこいよ。死獅王のために邪魔しに来たんならさっさと仕留めに来い!!」
ここに何があるのか、その答えを持つ人間が現れれば簡単に分かるというヒロムの言葉に疑問に感じたキラが質問しようとするとそれを途絶えさすかのようにヒロムはどこかにいるであろう誰かに向けて叫び、ヒロムの言葉によりこの場に何者かがいるとクロトたちは察して構えようとし、そして……ヒロムの言葉に反応したかのように彼らの前方の空間に歪みが生じるとそこから死獅王に近い人間と思われる女……シェリーが現れる。
「……どうして気づいたのかしら?私は確実に気配を消していたというのに」
「気配は消せても視線は消せねぇみたいだな。ここに着いてから誰かに見られてる感覚があった、てだけだ」
「覇王の名は伊達ではない、ということのようね……」
「どうやらそのようだな」
シェリーがここにいたという事を感覚的に気づいていたというヒロムに彼女が驚かされていると天から声が聞こえ、そして……
声が聞こえると同時に天より勢いよく地上に降下するように1人の青年が現れ、現れた青年を前にしたレイガは殺気を剥き出しにするかのように怒りの感情を露にしながら青年に向けて叫んだ。
「オマエ……獅天!!」
「その名でまだオレを呼ぼうとするのはオマエだけだ裏切り者。今のオレは死獅王……強者の上に立つ戦士と知れ」