20話
夜が明けるのを待つかのようにキラの能力で生成されたキューブ内部で休むヒロムたち。キューブ生成の張本人のキラは何やらタブレット端末を操作しており、そしてヒロムとクロトはレイガと共に実戦に近い形の鍛錬を行っていたらしく3人が3人とも汗を流していた。
「疲弊……少しやり過ぎた」
「そうだな。とはいえ、ウォーミングアップとして考えればいい刺激になった」
「驚愕……この運動量は準備運動ではない」
「流石ですね、ヒロムさん。オレもそれなりにやれる自信はあったのにこんなに対応されるとは思わなかった」
「そうか?まぁ、これでも無能なりに努力はしたからな」
「無能?何言ってるんだよ、ヒロムさんは高いポテンシャルを秘めた才能ある人だ」
「あぁ、レイガ。ボスのそれは大人が押した烙印の話だと思うよ」
「大人が……どういうことです?」
「姫神ヒロムという人間は5歳の時に能力者としては無価値、存在そのものが役立たずだとして『無能』という蔑称を与えられた。子供1人の全てを否定して夢も希望も抱けないほどに追い詰める……ボスに付けられたその烙印は今話してても胸糞悪いスね」
「なんだキラ、知ってたのか?」
「当然ス。今では情報屋や賞金稼ぎの界隈では有名過ぎるくらいに広がった話スからね。伝書に記されてる程度の未知の存在を宿した日本屈指の最強の能力者の候補……というか、現代において精霊という未確認に近い存在を複数宿すなんて逸材を追い込むような真似するとかそう仕向けた大人の方が能無しって方が有名なんスけどね。それも子供にわざわざ突きつけるあたり人間性疑うレベルッスし」
「同感……ヒロムがどれだけ苦しんだか」
「やめろ2人とも。もう過去の事だし、今となってはそれも事実でしかない。精霊を宿せてもオレには能力が無い。精霊を宿すからこその相応の量があるってだけだしその魔力も体外に出すことも出来ない。そういう意味では能無しなのかもな」
「能力が無いって……精霊を宿すってそれだけで能力じゃないのか?」
「肯定、ヒロムはそこだけを見ても能力者と言える。が、十神アルトや他の腐敗した思考の大人が敷いた能力者の線引きが悪い意味で浸透したことでヒロムが能力者だと認識されない環境を生んでいる。異能を操れるものこそ能力者、なんて小学生の考えそうな解釈を広めた大人たちが責任も取らずに残したある意味で負の産物だ」
「つっても、ボスの場合はいい意味でその烙印が初見殺しに繋がってたと思うスよ。だって初見でボスのあの強さを理解出来る人間なんて限られてるスからね」
「そういえば……ヒロムさんは誰に戦い方を教えられたんだ?」
「ん?いや、オレは独学だが?」
「独学?いや、鍛錬の時に見せてくれたあの動きが独学なわけ……」
「独学だ。正確にはフレイたち精霊がある程度の戦い方を会得してる状態で宿ってくれてたから基本的な動きやらは幼少期からフレイたちに教えてもらってそこからウチにあった書庫の本片っ端から読んで戦いに応用・転用出来そうなものをフレイたちに手伝ってもらう形で自分の体に叩き込んだ。技術面はそうやって培って、肉体面は重力負荷数倍とか高水圧に耐えるとか北国で数日のサバイバルとか……ガキの頃からやれそうな事とか使える設備やら、とにかく使えるやれることは片っ端から試した」
「えっ……つまり、今の強さは5歳の頃に大人に無能と言われた後に試せること全てを自分で探して試してを繰り返して得たって言うのか?」
「おう。まっ、オレもこうも強くなれると思ってなかったからな……10歳過ぎたくらいの時の一時期はオレを殺そうとするやつらがうじゃうじゃ現れたけど、いい歳した大人が子供殺しに来たとは思えないくらいに弱くて何回も拍子抜けさせられてたな」
「えぇ……人間ってそんな風に強くなってしまえるのか」
「ボス、4年くらい前に一時期的とはいえ危険な存在って変な理由で賞金かけられてたスからね。その金額は5,000万って相当高額だったスから金の亡者の大人たちはナメてかかって半殺しの返り討ちに遭うって流れが続いてたスよ」
「不快……超不快、理解力の低い大人は欲に支配されるだけで醜い」
「そゆこと。でも、その賞金の話も《一条》が不当だとして取り下げ指示して消えたんスけどね。まぁ、それまでにボスは賞金目当てで来た大人を軽く200人は潰してたから界隈では人生を無駄にしたくないなら手を出すなってことになって落ち着いたんだ」
「えっと……ヒロムさんの話聞いてたらオレは何のために鍛錬してたか分からなくなってきた……」
それは違う、とヒロムはレイガがキラの話した内容を受け自信を無くしそうになっている中で一言伝え、ヒロムはレイガに向けて強くなった今だから言えることを彼に伝えた。
「オレはたまたまこのやり方で成功してるだけだ。誰もがこれを真似て成功するなんて話は無い。誰もが基礎を学び基本を高めて新たな挑戦を続ける。どんなに強くなろうと学んだことは活き続けるし経験を重ねると教えられた基礎は大きくなって強さに繋がっていく。今のレイガの強さも師範が強くなるための鍛錬について教え基礎を学ばせたからこそ得られたものだ。そしてそれはこれからオマエが経験を重ねる度に強さに繋げてくれる」
「ヒロムさん……」
「まっ、オレの話はここまでにしようや。ここからは……オマエの因縁を追うための話をしよう」
レイガに向けて積み重ねてきたものが強さに繋がると諭したヒロムはここで一区切りつけるように話を終わらせ話題を死獅王の方に切り替えようとし、そしてヒロムはレイガたちに次の目的について伝えた。
「レイガを除けばオレたちは死獅王について知らな過ぎる。だから……原点を辿ることにした」
「原点?」
「永楽寺院の跡地に行く。獣身武闘拳の師範と門下生の死と全焼の話を聞いて思ったことがある。何故、寺院を焼いたのかってな」
「疑問、確かに不思議だ。不殺のルールをレイガが守れていないというだけなら寺院を燃やす必要ないな」
「何かある、だから消したような感じがしてきたな」
「レイガにとっては過去を思い出すだけの過酷な事になるが、そこに何かあると思って探しに行く。異論はあるか?」
「不問、拒む理由より賛同する理由しかない」
「ボスの考え通りだと思うから……行くッスよ」
「……行こう、ヒロムさん!!死獅王を見つけるためにもオレは向き合う!!」
「よし、すぐに動く!!
クロト、葉王に連絡してくれ。アイツの言う支援……移動の足を手配させろ」
「快諾、連絡する」
次なる目的地はレイガにとっては故郷とも言い換えられる場所である永楽寺院の跡地。クロトに対して鬼桜葉王への連絡と支援要請を指示したヒロム。そのヒロムはレイガの方を見るとふと、ある事を考えてしまった。
「……」
(もし、永楽寺院の跡地に何かあったとしてだ。死獅王はどうしてレイガを殺さず生かし寺院だけを消した?不殺のルールを破っていたレイガに怒りを感じていたなら殺す理由しかないはずだ。なのに、どうして……)
「レイガの存在よりも寺院の方が危険だったっていうのか……?」
何故死獅王はレイガを殺さなかったのか、何故寺院を燃やしたのか……死獅王の行動に疑問を抱くヒロム。彼の抱いた疑問の答えは果たして……




