2話
「お待たせしました!!特製ラーメンと餃子、豚キムチ炒飯と餃子になります!!店長からのサービスの餃子はそれぞれ1人前ずつ追加してますので!!」
鬼桜葉王がわざわざここに来てまで2人に伝えようとする話の内容を聞こうとヒロムとイクトがその気になると3人の間にある空気感を知らないバンダナを額に着けた赤い髪の従業員の少年が2人の注文した料理を運んできてヒロムとイクトの前に並べるように置き、さらに店主のサービスの餃子について説明を添えると鬼桜葉王からも注文を受けようとした。
「えっと……お兄さん、ご注文はどうします?」
「あァ、そうだなァ……そこの彼らの注文したラーメンと炒飯、餃子を頼めるかァ?」
「特製ラーメンと豚キムチ炒飯と餃子……餃子は何人前で?」
「2人前で頼むゥ。それと会計は彼らと一緒にしておいてくれェ。支払いはオレがするから頼むゥ」
「分かりました!!」
鬼桜葉王の注文を受けた従業員の少年は元気よく返事をすると厨房の方へ向かっていき、少年が厨房へ向かうのを確認した鬼桜葉王はヒロムとイクトに対して話を進めようとした。
「実はなァ、ウチのボスから姫神ヒロムに依頼があッてなァ。ある組織を潰して欲しいとの事だァ」
「アンタのところのボス……ってことは一条カズキか」
一条カズキ、ヒロムが名を出したその人物は今の日本において最強の能力者として君臨し続ける圧倒的な実力者であり、今の日本の経済や政治についてもある程度の支援を行っている名家である《一条》の当主を務める青年であり、ヒロムとイクトはこの一条カズキと鬼桜葉王とはとある件を通して接点があり、その接点が今も続いていることとなる。
名家の当主にして最強の能力者である一条カズキからの依頼、そんな彼からの依頼があるということにヒロムは意外と思う他なく、話を聞いていたイクトもラーメンを啜りながら不思議に感じていた。
「変な話だよね。日本最強の能力者にして高い地位にある一条カズキがわざわざ大将に依頼するなんてね。《一条》は一体何を企んでるのさ?」
「警戒はするなァ、別に何かを企んでたりはしてねェよォ。ただァ、これに関しては姫神ヒロムの手を借りるべきだとオレも思ッてなァ」
「何故オレなんだ?」
「信用されてるッてのもあるがァ、一番の理由は今回のターゲットを追い詰めるには姫神ヒロムが最適ッて話なわけだなァ。今回のターゲットは少々厄介でなァ、名家として大きくなり過ぎた《一条》が直接関与するのは悟られやすくなるッて理由があるゥ。一応はオマエに依頼するという事もあってオレの善意で可能な範囲で調査してるがァ……悪知恵が無駄に働く野郎で足取りを簡単には掴めそうにないィ」
「なるほど……要するにある程度の情報は提供するから手を貸せって話か」
「あァ、面倒な部分を押し付けるような形にはなるがァ、その分オレの方でフォローはするつもりだァ」
「そのターゲットってもしかしてだけど……裏社会の人間なの?」
「察しがいいな黒川イクトォ。正確に言うならそいつは最近になッて裏社会に現れた野郎なんだがなァ……どうやらコイツは国内だけでなく国外にも手を伸ばしてるらしくてなァ。しかも国外の違法取引の記録まで見つかる有様だァ」
「足取りを簡単に掴めないって言ってた割に見つかってんじゃねぇか」
「いや、もしかしたらフェイクの可能性も……」
「一応で拘束できたのはターゲットに手を貸したとされる間抜けな商人だッたァ。ターゲットについて聞き出そうとしても吐かなかッたから軽めの尋問と自白剤で聞き出そうとしたがァ……聞き出せたのはターゲットの名前と商人が聞かされたとされるザックリとした目的だけだッたァ」
「で、そいつの名前と目的は?」
鬼桜葉王が語る《一条》からヒロムへの依頼に関しての情報とどうにか集めたという商人から得た情報を聞くヒロムとイクトは食事をする手を止めて真剣な表情で聞き入っており、次に聞かされるであろう商人から得た情報について依頼を出されてる側のヒロムは詳しく知るために鬼桜葉王に続けて話させようと催促するかのように尋ね、ヒロムの言葉の意図を把握してる鬼桜葉王は自身が商人に対して尋問と自白剤の投与を行う事で得た情報を開示するように語り始めた。
「ターゲットの名前は《死獅王》とされェ、商人が言うには今の日本を破壊するために何かを計画してるような事を話していたとの事だァ。どうやら日本の支配とかを目的にしてるわけではなく日本を破滅させたいようなニュアンスだッたようだァ」
「破滅とは物騒だね。日本を壊した後で何かするつもりなのかね?」
「そういうのは聞かされてないらしいィ。商人が言うにはその死獅王ッてのは日本に対して何か尋常ならない憎悪のようなものを抱いているように感じ取れたらしいィ。詳しくは聞いてないようだから曖昧な情報だが死獅王には何人か仲間がいることは間違いないィ」
「まっ、その手の思想に至るやつはまともじゃねぇだろうし、仲間の1人や2人いても変ではないもんな。それで、商人ってことはその死獅王ってのと何か取引してたのか?」
「それがなァ……」
「ん?」
「まさか聞き出せなかったとか?」
「そうじャないィ、ただァ……商人がどんな取引をしたのかを話そうとした瞬間に突然死んだんだよォ」
「は……?」
「死んだ……?」
「何時からか商人の体内に仕込まれてたであろう呪いのようなものが作用したんだろうなァ。まさか自白剤で取引について語らせようとした事が呪いの発動を誘発してこんな結果を招くとは思わなかッたがなァ」
「口封じ……」
(にしては妙だな。口封じが狙いなら死獅王って野郎の名前を口にした時点で止めるか自白剤を投与された時点で情報を取られないように施す方が証拠隠滅としては強力なのにどうして取引について聞こうとして呪いが発動した?これじゃまるで……)
鬼桜葉王の商人が呪殺された事について不可解に思う点があったらしいヒロムは頭の中で情報を整理し考えられる可能性についていくつか絞り込もうとした。鬼桜葉王とイクトが話を続ける中で1人で呪殺の中に隠されているであろう謎を見つけようと考えたその時、ふとヒロムは何かを感じ取ってしまう。
思考の果て、というよりは気配的なものだ。まるで誰かがこちらを見てる視線とも捉えられるような妙な感覚、その感覚は気のせいで済ませるにはあまりにも不自然過ぎるものであり、何よりこの場にいる他の客はともかく同じ席のイクトと隣の席の鬼桜葉王が気づかずヒロムだけが気づくように向けられているそれは明らかにヒロムに向けて何かしらの意図があると思われた。
「……誘ってやがるな」
「大将?どうかした?」
ヒロムにだけ向けられた妙な感覚、当然ではあるがそれについてイクトが気づいているような様子はない。おそらく鬼桜葉王もヒロム単独に向けられているものに気づいていない。気づいているのは自分だけ、ならば……
「悪い、少し席外す」
「ちょっと、大将!?メシどうすんのさ!?」
「おいおいィ〜、最近の若いのは飯もゆッくり食えねェのかァ?」
ヒロムは食事中であるにも拘わらず立ち上がり突然イクトと鬼桜葉王を残すようにして外へ慌てて歩いていき、何も知らぬイクトと鬼桜葉王は特に慌てる様子もなく突然のヒロムの行動に驚かされる以外になかった。
食事の途中であろうと構うことなく席を立ち店の外に出たヒロムは何かを探すように周囲を見渡すようにした後にある方向を見ると走り出し、走るヒロムは商店街を少し走った所にある裏路地に通ずる小道を通り抜けて人気の少ない路地裏通りへと辿り着きそこで足を止めた。
そして……
「ここに来てくれると信じてましたよ」
路地裏に来たヒロム、まるで彼がここに来るのを待っていたかのようにヒロムの前に風と共に中華風の装束を着た男が現れ、得体の知れぬ男の登場にヒロムは敵意を剥き出しにしながらその素性を吐かせようと乱暴に問い詰めようと言葉を発していく。
「オマエ、何者だ?敵ならここで潰すが……答えないなら潰してでも吐かす」
「噂通りの素行の悪さですね。まぁ、いいでしょう……あの方のために、手合わせしてあげましょう」