19話
レイガの話から彼の過去と彼と死獅王の因縁の一端について知る事となったヒロムたち。しかしヒロムは死獅王が何故レイガの秘密を知れたのかについて疑問を抱いていた。
しかし、このヒロムの抱いた疑問は意外にもキラの一言により解決することとなった。
「質問スけど、門下生の登録ってどう管理されてたんスか?」
「オレもよく知らないですが多分、名簿とか帳簿のようなものだったかと思います。師範、現代文明は鍛錬を妨げる毒だとか言っていたことあるので」
「登録情報か……!!」
(単純過ぎて見落としていた。そうだ、警察の調査で門下生全員死亡が確認されたのは確認する術があったからだ。管理していたのは師範、であれば獅天もそれを見る機会はあったはずだから登録されていない門下生だったレイガのその謎に気づけても不自然では無い。けど……どうして獅天は登録情報を見ようとした?何がきっかけだ?何故そう考えた?一体……)
獣身武闘拳の門下生の登録情報さえ閲覧すれば死獅王こと獅天にもレイガの過去を知る術はあると理解したヒロムだが、それは同時に新たな疑問を呼び、新たに生まれた疑問である『何故獅天は登録情報を見ようとしたのか』という点についてヒロムは考えようといくつか可能性を見つけようとした。が、そんなヒロムの脳裏にある1人の存在が浮かび上がった。
そう、ヒロムの前に2度現れ、ヒロムを襲った2人の刺客から敬われていた人間。その人物の存在に気づいたヒロムは答えはそれしかないと考え、それをハッキリさせるためにすぐにレイガに確認のための質問を投げかけた。
「レイガ、話が大きく変わるけど教えてほしい。着物の女……シェリーって名前の女について知ってるか?」
「着物の女……!!ええ、知っています。名前は知らないですけど、獅天が接触していたのは知ってます。他の門下生が獅天がその女と話しているのを見たとも聞いたことがあります」
「そうか……あの女、死獅王の事をやたら崇拝してるような感じだったが死獅王がその名を語る以前から関係があったの」
「そうみたいです。すいません、オレも直接会ったり自分の目で見たわけじゃないのでこれ以上の事は何も……」
「いや、いい。十分だ。あの女が何かしらある事は想定出来ていたし、それが確認出来ただけで大丈夫だ」
「そうですか」
「それより……オマエ、さっきの暴走は何なんだ?オマエ自身把握してるにしてもさっきはどうして暴走が起きた?過去に何があったかもだが、オマエが持ってるものって何なんだ?」
「す、すいません……オレもよく分からってないんです」
「分かってない?どうしてだ?」
「その、何かあるのは分かってるんですけど、その何かが何なのかすら分からなくて……ただ、今言える事としては怒りとか憎しみを強く感じた時に内側から溢れ出そうとする何かが出てきて、それにオレが耐えられなくなると暴走するような気がするんです」
「なるほど……な。そうか、変な事聞いて悪かった」
(多分、コイツは能力者で相当危険な力を秘めていることは間違いない。ただ、その力をコイツが把握していないのが問題だな。獣身武闘拳を教えられた武闘家って認識しかしてないんだろうし、そもそもあの身体能力の高さからして能力なんかに頼る思考も無かっただろうから無関心なのも無理ないか……)
レイガが何故暴走するのか、その根本の理由について知るためにヒロムは彼に尋ねるも肝心の理由をそもそも知らないらしいレイガは申し訳なさそうにそれを伝えた上で今自分の把握している事を全て伝えようとし、それを聞いたヒロムは色々思うところがあるのか考えながらも彼にいろいろ尋ねた事を謝罪した。
一応今聞いた内容について一通り頭の中でまとめようとするヒロムだったが、そんなヒロムの隣からクロトがレイガに今後の彼の行動について確認する旨の質問をした。
「追問、これからオマエはどうするんだ?」
「そうですね、とりあえずオレは獅天……死獅王を倒すためにアイツを追いかけます。皆さんには迷惑はかける気はありません」
「誤解、何故そうなる?」
「オレは暴走してアナタたちを攻撃している。死獅王を追いかけているという共通点があったとしてもオレは……
「不問、その程度ヒロムは気にしない。ヒロムはいずれ能力者の頂点に立つ男だ」
「ですが……」
「クロト……勝手な拡大解釈するな。オレは別にそんなもん目指してねぇよ。ったく……けど、レイガ。クロトが言うようにあの程度の事、気にしてねぇよ。むしろ、オレはオマエを殴り倒したんだからそれで有耶無耶にしようぜ」
「アナタのは正当防衛です。オレのは……
「オマエ、アテはあるのか?」
「アテ、ですか?」
「オレたちは《一条》の依頼で死獅王を探している。その点では《一条》からある程度の支援が受けられる。だがその反面で死獅王についての情報を集める術が限られてるし手掛かりも無い。対するオマエは死獅王について詳しく知っている代わりに何か後ろ盾があるわけじゃない。こうして整理すると……お互いに困ってる点と足りている点とで噛み合うと思わないか?」
「それって……」
「共通の相手を追うならオレと行こう、レイガ。オレたちで死獅王を倒そう」
「い、いいんですか?オレは……」
「何も気にすんな。オレはもちろんクロトもキラも受け入れてくれるさ」
「同感、ヒロムとオレの攻撃に暴走した状態で対応出来る強さを持つオマエが加わってくれるなら有難い」
「そッスね。ボスが決めたなら文句も何もないって感じッスけど、戦力2入ってくれるならオレも色々やりやすくなるから助かるッス」
「な?これでもまだ暴走した件を気にするか?」
「あの……ありがとうございます!!よろしくお願いします!!」
ヒロムから彼らと共に死獅王の追跡を協力し合う提案がされ、その提案についてクロトとキラも賛同している事が聞かされたレイガはヒロムと言葉を受けると彼の優しさと彼らの心の広さを目の当たりにして嬉しく感じたのか涙を浮かべながら深深と頭を下げ、ヒロムはレイガに頭を上げさせると彼に手を差し伸べるとまだ名乗っていなかった事もあってここで自己紹介をすると共にこれからを共にする彼に一言添えた。
「まだ名乗ってなかったな。オレは姫神ヒロム……ヒロムでいい。これからしばらく、よろしく頼むぞ」
「はい!!」
ヒロムの自己紹介とその一言を受けたレイガは嬉しそうに言うと彼の手を握り、ヒロムとレイガが握手をする様子を見たクロトとキラは暖かい目で見守っていた。握手を交わす中、ヒロムは何か気になったのかレイガに1つだけある頼み事をした。
「それよりレイガ、そんな堅苦しい話し方しなくていいぞ。どうせなら気楽に話してくれ」
「い、いいんですか?オレ……」
「そういうのは無しだ。オレたちはこれから仲間になるんだからな」
「は、はい……あっ、押忍!!」
「そこはそのままでいいと思うぞ」
「あっ……ごめん」
「そうそう、それでいい。よし、そうとなれば……少し休むか」
レイガと協力する事が決まり、これでヒロムは死獅王の追跡をこれで4人で行うことになった今、ひとまず少し休む事にした。
ヒロムとクロト、キラ、そしてレイガ。彼らのこれからの先に待つものは……