18話
レイガ、そう名乗った少年から死獅王について聞き出そうと考えるヒロムは事を急ぎたい気持ちを抱きながらも順に聞き出す必要があるとして先ずは彼と死獅王の関係について聞き出そうとした。
「まず最初の質問だが、オマエは死獅王とどういった関係なんだ?」
「それを話すにはまず死獅王……いや、獅天について話す必要があります」
「獅天?それが死獅王の名前か?」
「はい、死獅王がオレたちを裏切り全てを奪った際に捨てな名前でもあります。元々アイツは親を事故で亡くした身寄りのない子供として道場に引き取られ、その時に自分の事を天をも統べる百獣の王のような存在になるとして獅天という風に名乗り始めたらしく親に付けられたはずの名前については分からない状態です」
「少しいいか?道場ってのは?」
「あっ、すいません。元々オレたち……オレと獅天は獣身武闘拳という流派を広めようとされていた師範の居た永楽寺院で過ごしていた門下生なんです」
「永楽寺院?生き残りがいたんスか?」
「キラ、何か知ってるのか?」
死獅王の過去について離そうとするレイガの口から『永楽寺院』という言葉が出るとキラがそれに反応し、そこに反応したキラが何か知っているとすぐに思考が働いたヒロムは咳払いをしてレイガに少し待つよう手で伝えるとキラに対してそれについて知ってるかを敢えて尋ね、尋ねられたキラはレイガの口にした『永楽寺院』について話した。
「寺院としてはかなり異端となる武闘家たちを集め正しき心を持つものたちを育てる場所として一部では有名だったんス。永き修練の先で楽園が待つ、そんな意味が込められてるとかどうとか色々言われてたッスけどそこの管理を担当していた師範代は不殺を唱え武闘の力は正しさを導くためにあると伝えようとしていたらしいッス」
「それが今レイガの言ってた獣身武闘拳ってやつか?」
「そッス。獣のように五感を研ぎ澄ましその身に獣を宿したかのように強くあろうとする流派……らしいんスけど名前だけしか聞いた事ないんでそれについてはよく知らねッス」
「獣身武闘拳については大体合ってますよ。それにオレたちの流派が知られていないのは師範がオレたち門下生に本当に必要とする時以外は使用するなと念押しされていたこともあるからです。師範の言葉は正しく、オレたちの教わった獣身武闘拳は使い方と相手を間違えれば不殺を破ってしまうほどです」
「でもその寺院、何ヶ月か前に全焼してますよ?警察の調査で師範はもちろん門下生として登録していた人間は生存者なく全員死んだって……」
「そこについては少し複雑な事情が……」
「何があった?」
「元々オレは門下生の中で異例の存在でした。その……もうご存知かと思いますがオレは自我を失うほどの暴走をしてしまいます」
「さっきのアレか。だがあの程度……
「オレは師範に拾われる前、自分の中に宿っているとされる力で自分の家族を殺してるんです。不殺を説く獣身武闘拳、それを学ぶことは生涯不殺を貫く者しか認められませんがオレは師範に正しき心を学び獣身武闘拳を通して自分の中の力と向き合うよう提案され、オレは他の門下生にはその事実を隠す形で入門しました」
「……そうか。生涯不殺を貫く必要がある獣身武闘拳を通して過ちを犯したレイガを特別視する方法は門下生としての登録をしない肩書きと事実だけによる証明だけで通したってわけか」
「納得、それならばキラの話していた登録された門下生の全員死亡の話とレイガの生存による矛盾が解決するな」
「けど、問題は何故獅天という存在が死獅王となったかだ」
レイガの過去、永楽寺院の全焼と師範及び門下生全員死亡の裏にあった彼のある秘密を聞かされたヒロムたちは門下生全員死亡の中でレイガが生き残りとして存在する謎を紐解いたが、同時にヒロムは死獅王がその名を名乗る前の獅天という存在が何故その名を口にしたのかという点について疑問を感じ始めた。
ヒロムが疑問を感じているとレイガはヒロムやクロト、キラに死獅王……獅天という人間について詳しく語り始めた。
「獅天はオレにとって兄弟子でした。武術の才能に溢れ、人として尊敬できる優しい人だった。オレもアイツに憧れ強くなろうと日々鍛錬と精進に励み、いつしか師範からは獣身武闘拳の未来はオレと獅天に2人が導くんだと言われるまでに強くなれたんです」
「鍛錬と精進……」
(コイツが異常なまでに強かったのは獣身武闘拳っていう流派を学んだ武闘家だったからか。それにしても武闘家におさまるような身体能力じゃなかったが……いまの話が本当なら死獅王の実力はコイツ以上、寺院全焼後に発展してると仮定したらその強さは計り知れないな)
「でもある日……師範や同門の仲間が命を奪われたあの日、獅天はオレが不殺を破りながらも獣身武闘拳を学んでいる事実を知ったんです。どうやってかは分かりません、オレの過去を知るのはオレと師範だけでした。それなのに……獅天はそれを知り、怒りをぶつけてきました。不殺を破ったものが同じ流派を学ぶなど許せない、何よりもルールを破りし者を受け入れた師範が憎い、と。そして獅天はある結論にたどり着いたんです。正しき心だけでは強さの果ては得られない、と」
「それはオマエが過去に獣身武闘拳にとっての過ちを犯しながらも獅天に並ぶ強さを得たからか?」
「はい。オレが師範に認められたのはあくまで人を殺し罪を犯した事により心身に力が宿ったからだと語っていました。そして、アイツはそれを証明するために師範を殺したんです。師範を殺されたオレは怒りに任せアイツを倒そうとして返り討ちにあって気を失い、気がついた時には……同門の仲間全員が亡くなり彼らのそばで異常なまでの強い力を纏うアイツがいたんです」
「それが死獅王の始まり……」
(他者の命を奪う事……というよりはそれを己の生きる術として知った能力者の中には生存本能が強く刺激されて爆発的な進化と覚醒を呼び起こすなんて事例も報告されているらしいから内容としてはおかしな話では無い。けど、問題はそこじゃない……今の話、本当にレイガの過去について師範は2人だけが認識する秘密にしていたのか?死獅王が殺した事に強く怒れるほどに信用する相手って事から相当良い人なのは分かるが、もし師範が何か秘密を隠していたとしたら……)
死獅王の始まり、その全てとも言えるレイガに手を差し伸べた獣身武闘拳の師範と門下生全員の死の引き金とされる死獅王のレイガの過去を知った事について違和感を覚えるヒロム。彼の感じた違和感、その裏に隠れるものは……