17話
少しして日が暮れた夜……
謎の少年が倒れた後、ヒロムとクロトのもとへシェリー追跡のため離れていたキラが戻って彼らに合流して状況の報告をしようとしていた。
「ボス、申し訳ないけど間に合わなかった」
「追跡の結果は?」
「どこをどう移動したかの気配や匂いの痕跡も無し、どこまで逃げたのか不明……追跡の途中で最初からいなかったかのように気配が突然消えた。多分、それがなければもう少し追えたかもしれないス」
「いや、気にするな。あの女と最初に遭遇した時も人の意識が逸れた瞬間を狙うように消えていたからもしかしたら隠密性に優れたタイプの人間だったのかもしれない。能力的にも分が悪かったはずだから何も言わないさ」
「悪いねボス、気を遣わせて。代わりに捕獲したさっきの男からしっかり情報を聞き出すための手筈は進めてるッスから」
「仕事が早くて助かる。そいつがどんだけ情報を持ってるか分からないが、どうせ死獅王に加担した悪党として始末する事になるから後先考えることも無く洗いざらい吐く位まで好きに追い詰めていい」
「そういうと思って結構派手な空間に放り込んで追い詰めてるッスよ」
「そうか。それよりキラ、オマエの能力はキューブだけでなく牢屋を作ることは可能か?」
「単体では無理だけど、簡易的な空間を生成した後にオプションとして牢屋を作って隔離するってんなら出来る」
「ならそれで頼む。コイツが目を覚まして暴れないように段取りしておきたいからな」
了解、とヒロムの頼みを受けたキラは何やら印のようなものを結ぶと自身とヒロム、クロト、そして気を失っている謎の少年の4人を囲むようにキューブを生成し、キューブ内に新たな空間を生み出すと続けて気を失い倒れている謎の少年を閉じ込めるように牢屋を生成して彼を中に捕えさせた。
「これでいい?」
「十分だ」
「キューブの方は外から視覚情報として認識出来なくしておいた。これで死獅王のお仲間が来ても邪魔されずに済むッス」
「気が利くな。さて、あとは目を覚ますのを待つか」
キラの用意した空間の中、ヒロムは牢屋の中に囚われる謎の少年が目を覚ますのを待つことにし、そして……
「うっ……」
暫くすると謎の少年が目を覚まし、目を覚ました彼は体を起き上がるとすぐにヒロムたち3人の存在に気づくと次に自分が牢屋の中へと囚われているという現状を知り、突然の事で彼が困惑しているとヒロムは牢屋の前に立つなり彼に話しかけた。
「やっと目が覚めたらしいな。とはいえ小一時間程度意識を失ってたくらいだから目覚めとしては早い方か?まぁ、その辺はどうでもいいが……初めましてで合ってるよな?」
「アナタは一体……」
「質問してるのはオレだ。オレとオマエは初対面、だよな?」
「……はい」
「よしっ、それでいい。とりあえずで聞くがさっきの記憶はあるか?オレたちの前に現れて暴れた記憶、あるかどうかで答えてくれ」
「あるのはあります。でもそれは断片的で薄らとしか記憶にないんですが……多分アナタたちの前にオレが現れた時の部分とアナタに殴られ吹き飛んだ瞬間の部分だけはあります」
「そうか。部分的に把握してるんだな」
「は、はい。というか何でオレはこんなところに……」
困惑している少年は戸惑いながらもヒロムの問いに答え、彼の答えを聞いたヒロムもそれに対して理解するような返事を返していた。今の状況について少年が戸惑っている事を理解しながらもヒロムは事を少しでも前へ進めるために彼に向けて本題となる質問をぶつけようとした。
「まどろっこしいこは無しで行くが……死獅王について何を知ってる?」
「死獅王……!!」
「知ってるよな?シェリーって名前の女はオマエが死獅王を強く憎んでると語っていた。あの女の言葉が事実ならオマエは何か知ってるはずだ」
「……その前に教えてもらえますか?」
「何だ?」
「アナタは何故アイツについて知りたいんです?」
「死獅王を見つけて倒す、そのために情報を集めている。死獅王の素性や目的は何も知らないがそいつがいることでオレにとっての安息が壊される可能性がある、オレはオレの大切なものを守るためにそいつを見つけてぶっ潰す。ただそれだけのために情報を求め、そしてオマエに出会った」
「大切なものを守るため……」
「初対面の人間に話しにくいのは分かるが頼む。オレたちは少しでも多くの情報が必要なんだ。信じろとは言わない、けど何か知ってるなら教えて欲しい」
「……分かり、ました。その代わりではないんですが、ここから出して貰えませんか?」
何故死獅王について知りたいのか、謎の少年のその問いに対してヒロムは巧みな話術なんてものがない自身の心が思う事と今行動している素直な思いを伝え、ヒロムの言葉を受けた少年は死獅王について話す事を了承した上で牢屋から出して欲しいと頼んだ。が、これを聞いたクロトは険しい顔で反論しようとした。
「論外、オマエはヒロムに危害を加えようとした。そこから出してまた暴れでもしたらどうする?初対面ならばこそオマエに対して信用は出来ない。そこから出すなんて……
「キラ、コイツを出してくれ」
少年を牢屋の外に出すことを反対するクロトの言葉を遮るようにヒロムは少年を出すようにキラに伝え、キラが自らの能力で生み出した牢屋を消しているそばでヒロムは反対しようとするクロトを説得しようとした。
「クロト、気持ちはわかるが今は少しでも情報が欲しいところだ。コイツの素性云々は別に置いておいていい」
「不服、万が一暴れたら……
「クロトが止めてくれ。オレに何かあれば助ける、そのために強くなったんだろ?」
「……理解、ヒロムがそう言うなら受け入れる」
「悪いな、クロト。さて……」
クロトをどうにか説得し理解させたヒロムはキラが牢屋を消したことで自由となった少年の方に注目し、そして……
「オマエ、名前は?」
「……レイガ、オレの名前はレイガだ」