15話
ヒロムとフレイ、ラミアによる左右からの3人同時攻撃を後ろに飛んで躱した鉄千を待ち構えていたかのようにクロトが現れ、そしてそのクロトの放った一閃に鉄千は持ちうる力を発揮させる間もなく背を大きく抉られて予期せぬダメージを負うこととなってしまった。
「がっ……あっ……」
クロトの一閃、その一撃に対して何も出来ず受けるしか無かったであろう鉄千は背を酷く負傷してしまったことで膝から崩れ落ち、膝から崩れ落ちた鉄千は背中から大量の血を流しながらも完全に倒れないように地に手をついて耐えようとしていた。
「意外とタフだな」
倒れず耐える鉄千のその頑丈さに意外そうな顔をするヒロム。まだ倒れないならとヒロムは鉄千の前に立って彼を見下ろし、鉄千が動く可能性を考えたと思われるフレイとラミアは敵がヒロムに対して動こうと対応出来る距離で武器を下ろしながらも様子を見ていた。
敵に深手を負わせたクロトは短剣に付着した血を払うかのように素早く振って刀身を綺麗にしようとしており、まだ完全に倒れていない敵を前にして余裕とも取れる態度を見せるヒロムたちに対して鉄千は背中の負傷と流血により顔色が悪くなりながらも彼らを睨もうとした。
「……敵を前にして、気を抜くとは……油断か?それとも若さ故の判断ミスか?」
「あん?」
「どちらでも構わないか……だが、まだ、終わらん……!!まだ、オレは……やれる!!この程度の傷、オマエらを倒すための多少のハンデとして受け止めてしまえばいいだけのこと……!!オマエらを倒し、必ず死獅王様に貢献せねば、ならない……!!」
「……哀れだな、オマエ。そんな姿になりながらも戦意は保たれてるけど現実はちゃんと見ろよ?今のオマエ、もう終わってるぞ」
「まだ……終わらん……!!まだ、オレは……」
背を酷く負傷しながらも敵を倒そうと意思は未だに消えていない鉄千にヒロムが忠告するもそれを無視するかのように鉄千は頑なに消えぬそのやる気を彼らに示そうとしていた。が、そんな鉄千を取り囲むかのように突然光のキューブが鉄千の周囲に形成され、突然のキューブの形成にその内側に入れられた鉄千が困惑しているとキラがゆっくりと歩み寄ってくるなり指を鳴らす。
「ここまで追い詰めたら捕獲は楽ちんだね」
「小僧、まさかオレを……
「さぁ、ここからは楽しい拷問の時間だ」
「やめ……」
キラが指を鳴らすと鉄千を取り囲んだキューブの形成が完了して敵を閉じ込め、キラが嬉しそうに話す中で鉄千は抵抗しようと何か言おうとするもキューブは発光すると同時に鉄千を閉じ込めたまま手の平サイズにまで圧縮され、圧縮された手の平サイズのキューブにキラが手を伸ばし触れるとキューブは光となって完全に消えてしまう。
「ボス、情報源の確保完了だ」
「……ご苦労、と言いたいところだがオマエの手柄にしたいならしっかり何もかも吐かせろ。それが無理だったら今回の手柄は深手を負わせたクロトってことになるからな?」
「あいあい。それより……まだ、残ってるよ?」
分かってる、とヒロムはキラに指摘された残る敵……つまり、シェリーを次の標的にするべく彼女の方を向き、フレイとラミア、そしてクロトもヒロムと共にシェリーを相手にしようと並び立つ。鉄千が捕獲された今単身となってしまったシェリーだが、彼女はこの状況で何故か……
落ち着いていた。
「……鉄千、残念な男だったわね。見所はあって良かったけど、こんな風に終わるんじゃその程度ってところね」
「何だよ女、せっかく連れてきたお仲間が消えたってのに冷たいんじゃねぇのか?」
「バカ言うんじゃないよ。鉄千はあくまで死獅王様を支持しているだけの戦士、あの方の役に立つためだけに存在する事を約束したただの駒よ」
「駒か……何とも言えない悲しい関係ってか?まぁ、どうでもいいわ。とりあえず女……次はオマエを潰す。そして捕獲してキラに拷問させる」
「ふん、やれるもんならやってみな。その代わり……相手をするのは私じゃないけどね」
「は?どういう……
「見つけたぞ……!!」
鉄千を倒した今次の狙いはシェリーだと宣告したヒロムに対して彼女は相手は自分ではないと告げ、その言葉の意味についてヒロムが不思議に思い聞き返そうとするとどこからか声がし、声のした方をヒロムとクロトが見るとそこには1人の少年が立っていた。
額に赤いバンダナを巻きそれによって逆立ったかのような髪型となっている黒髪に金色の瞳、右頬に引っかかれたような傷があり、ここに来る前に何かあったのかボロボロになっている武闘家を想起させる意匠の白い服に身を包む両腕に包帯を巻く少年。何やら異様な空気を発する少年にヒロムとクロトは警戒し、2人の精霊もヒロムたちに加勢するべく構えようとしていた。
そんなヒロムたちの警戒する姿が見えていないのか少年はゆっくりと歩を進め始めるとヒロムたちの方へ進み出し、少年が動き出すとシェリーは不敵な笑みを浮かべながらどこかに逃げようとするかのようにヒロムたちに背を向け始めた。
「待てよ女。どこ行く気だ?」
「言ったはずよ。アンタの相手は私じゃないってね。そいつと戦いなさい」
「オマエの言う駒か?自分は手を汚さず逃げるってか?」
「何とでもいいな。でも、気をつけなよ?そいつは少し事情が特殊でね。何と……死獅王様を強く憎む人間なのよ」
「死獅王を憎む……!?」
「驚愕、つまりは死獅王について知る人間ということか!?」
「そうとも言えるわね。ただ……気をつけなさい?今のそいつは憎しみに囚われた獣そのもの、その瞳に映る者を全て自らの敵として認識し襲うから気をつける事ね」
さよなら、とシェリーはヒロムたちに突然現れた少年に関して情報を与えるなり消えようとし、彼女を逃がす気などないヒロムたちはここで捕らえようと走り出そうとした。しかし……
「オマエらは……強き者か……?
それなら……倒してやる!!」
ヒロムたちがシェリーを捕らえるべく走り出そうとすると少年は突然叫び、少年が叫ぶとそれに呼応するかのように彼の全身から凄まじい気のようなものが解き放たれると大気が激しく揺れ、それを肌で受けたヒロムたちは走り出そうとしていた足を止めずにはいられなかった。そしてそれによりヒロムたちの足が止まるとシェリーは何も残すことなくその姿をここから消してしまう……
「なんだ……この凄まじい力は!?」
(得体の知れない威圧感、底知れぬ憎悪……そして、オレの全てを喰らおうとするかのような鋭い殺意。コイツの奥底に何があるって言うんだ!?)
「ボス!!女が逃げた!!」
「早急、急げばまだ間に合……
「キラは女を追え!!オレとクロトは目の前のアイツを止める!!」
シェリーが逃げた事によりキラとクロトが指示を仰ぐとヒロムはキラに追跡を任せ、彼はクロトと共に目の前の少年の相手をしようとした。指示を受けたキラは何も残さず消えたシェリーを追いかけるべく自身の身を光のキューブに取り囲みながら消え、ヒロムとクロトは少年を止めるべく構えると走り出し……