14話
精霊という存在のフレイとラミアの登場とヒロムへの加勢はヒロムとクロトを相手に優勢を維持していた鉄千に対してその優位性を覆すだけの要素となり、2回の攻撃を防がれたヒロムの攻撃がついに決まるとヒロムはこの流れを止めまいと2人の精霊とクロトと共に敵を仕留めるべく追撃しようと加速していた。
「上々、勢いに乗ったヒロムに遅れるわけにはいかない」
ヒロムに負けまいとやる気になるクロトは全身に魔力を強く纏わせるとさらに加速して鉄千へと接近して高速での連続攻撃を放って敵を追い詰めようとするが鉄千も一撃を受けてそのまま倒される気はないらしくこれまでに無い強さで魔力をその身に纏い直すとクロトの連続攻撃を素早い身のこなしで全て回避して彼へ反撃しようとした。
が、鉄千がクロトに反撃しようとするとラミアがクロトのそばに音もなく現れると先程放った素早い突きを連続で放って鉄千を追い詰めようとし、ラミアの突きを受け止めたことによりその力を知る鉄千は両手に魔力をさらに強く纏わせると連続攻撃を放つ要領でラミアの連続突きを相殺してみせ、ラミアの連続突きを相殺した鉄千は分が悪いと判断したのか地を強く蹴り高く飛ぶ形でクロトとラミアから遠ざかろうとした。
だが鉄千の予想していない事が起きてしまう。高く飛ぶことでクロトとラミアから離れ立て直すだけの間は手に入れられた。一方で鉄千が立て直す間を得ると反面でヒロムは彼が立て直すよりも先に気づかれることなく彼より高い高さへと現れ、自身より高い位置に現れたヒロムが何か仕掛けると直感で感じた鉄千が防御しようとするとヒロムは攻撃を放つことなく敵の頭を掴むなりその場で素早く回転するなり地に向けて鉄千を投げ飛ばし、投げられた地に叩きつけられそうになる鉄千が何とかして受身を取ろうとするとフレイが大剣を素早く振ることで斬撃を飛ばし彼に直撃させてみせた。
「なっ……!?」
ヒロムによる投げにより地に叩きつけられそうになった鉄千が受身を取ろうとしたタイミングで放たれたフレイの斬撃を敵は防ぐ事も受け止める事もその用意を少しでもする事も出来ずに直撃で受けてしまい、フレイの斬撃を受けた鉄千の体はこれまで負傷することがなかったはずがここに来て軽くではあるが少しの傷を負っていた。
とはいえそれでも軽傷、斬撃を放ったフレイはその結果が納得いかないような顔をしていたがヒロムはこの結果から何かを紐解こうとしていた。
「斬撃を受けて少しの傷……」
(初撃のカウンターと背後からの奇襲、迎撃を平行したクロトの短剣と殺そうと放った一撃、ラミアの1回目の突きは完全に防ぎその後の連続突きは相殺。だが今のフレイの意識外からの斬撃は軽傷……考えられるのはあの男の魔力を用いた基本技能の高さとそれを行う際の力の操作の正確さが高いレベルでマッチしてる可能性だが、気になるのはクロトの連続攻撃を『避けた』理由だ。その後のラミアの連続突きは相殺出来たのに何で直前のクロトの攻撃は全て躱した?魔力を用いた攻撃と防御ではクロトより自分の方が上だと判断していたあの男は何故クロトの連続攻撃だけは避けた?まるでクロトの連続攻撃だけは避けなきゃならない理由が……)
「……いや、そうか。なるほど、それなら理由として納得いくな」
精霊が現れてから鉄千が軽傷を負うここまでの流れから不自然な要素を絞込み、そしてヒロムはその不自然な要素が起きてしまった理由について考えた結果1つの可能性に辿り着くとフレイとラミアに視線を向け、ヒロムに視線を向けられたフレイとラミアはそれに気づき彼の方を見ると何か言うでもなく3人は静かに頷き、そしてフレイとラミアは武器を構えると斬撃を受け軽傷を負った鉄千を倒そうと同時に走り出した。
「精霊が……!!人間に対して優位になれると思うな……!!」
まるで精霊を見下すかのような言葉を口にする鉄千はそれを表すかのような勢いで身に纏う魔力を増幅させ、鉄千の纏う魔力が増幅されるのをその目で確認したはずのフレイとラミアは止まることなく、それどころか間合いを素早く詰めようとさらに加速していく。
「コイツら、何を……
「オマエの名前は忘れたがオマエを真似て訂正してやる。オレたちの攻撃を受けても平然としてられるだけの防御力を発揮するその魔力技能、基本技能としてはあまりのレベルの高さで卓越されているとオレは思ったがそれは勘違いだった。オマエのそれはあるカラクリの中に魔力を用いることでそう錯覚させられていたんだ」
纏う魔力を鉄千が増幅させるも2人の精霊に止まらず加速することに戸惑いを隠せない鉄千が彼女たちが何を考えているか分からないと言いたげな反応を見せるとヒロムは彼の背後へと気配もなく現れると先程彼の行った訂正を真似るような言い方で彼の魔力を用いた基本技能の仕掛けを語り始めた。
「いつの間に……
「一見すればオマエのそれは並々ならぬ努力のもとで鍛えられたものだと錯覚してしまう。魔力技能で上回ることでそれに及ばない力を退け、オレみたいに基本技能を使わない攻撃はその威力のほとんどが消されてしまう。でも、カラクリ自体は簡単だった……オレはオマエが能力を使う前に倒そうと考えていた。けど、それが違った。オマエは最初から……能力を使っていた」
またしても背後に突然現れたヒロムに対して何か起きると感じた鉄千は反応しようと体を左に90度ほど回転させるも迫り来るフレイとラミアの存在がある事を理解してるのかどちらが来ても対応出来るような状態で止まる事になってしまい、そんな鉄千を追い詰めようとフレイとラミアが迫る中でヒロムは拳を構えながら敵の力の仕掛けに関して続きを語った。
「オレたちが錯覚した理由……その原因こそがオマエの能力だ。オマエのその能力は魔力の質を高めるもの、つまりは魔力の密度と濃度、強度を一時的に高めさせるものだった。そしてその能力は点で捉える分には対応出来るがある一定の速さや能力の発動範囲が大きくなる場合はその性能が低下する。ラミアの連続突きは点で順次対応すれば性能が落ちても相殺で済むがクロトの連続攻撃は何度も斬る点から作用する範囲が点ではなく線になる……だからオマエはあの時クロトの攻撃を避けたんだろ」
「くっ……まさか、見抜かれたのか!?」
「そのまさかです!!」
「アンタの力、見抜かれてんのよ!!」
「そういうことだ。大人しく潰されろ」
ヒロムがカラクリを解き明かしたことにより手の内を明かされた鉄千が驚愕しているとフレイとラミアが右側から迫り寄ると2人同時に攻撃を仕掛け、さらにヒロムは左側から敵へ迫ると2人の精霊に加勢するかのように連続攻撃を放とうとした。
自身の力のカラクリを解かれた鉄千は左右からの3人の攻撃に対してその力で対応するかに見えたが少し思考した結果なのか鉄千は後ろへ大きく飛んで3人の攻撃を回避した。
が、この鉄千の回避行動をヒロムは見通していたかのように指を鳴らし、そして……
「絶妙、いいタイミングだ」
「後ろは任せられてくれるんだろ?」
「肯定……その通りだ!!」
ヒロムが指を鳴らすとそれを合図にしたかのように鉄千の飛んだその先に気配も何も無くクロトが現れ、現れたクロトが短剣に魔力を強く纏わせ視認出来ぬほどの瞬間的な加速を発揮しながら一閃を放つと敵の背が大きく抉られ……