STORY END
退院から数日後
ヒロムは自身の仲間である黒川イクトを連れてある場所に来ていた。彼に同行しているイクトは何やら花束を持っており、2人が来ている『ある』場所についても何やら静けさが目立つような場所であった。
「にしても珍しいね大将」
「あ?」
「大将って墓参りとかそういうの面倒くさいとかで蔑ろにしそうな雰囲気あるのにこういう時は割と真面目に動くんだなぁって思ってさ。愛華さんに何か言われた感じ?」
「別にそんなんじゃねぇよ。ただ、今回の件で何もかも抱え込んだまま死んだアイツに手向けてやらねぇとって気持ちが消えねぇんだよ」
「それは従兄弟だったから?それとも……
「目を背けていたオレなりのケジメだ」
「ケジメ?」
着いたぞ、とヒロムはイクトの質問に返事を返さずに到着したことを伝え、ヒロムに無視された事を気にする理由もないイクトはため息をついてスルーしようとし、2人は到着したこの場所で何かをしようとさらに進もうとした。
2人が到着した場所、それは……とある地域の墓地であり、その墓地の奥にある少し大きな『八神ノ墓地』と刻まれた墓石の前まで2人は進み、墓石の前に来るとヒロムはイクトから花束を受け取ると墓石の前に供え、ヒロムが花束を供えるとイクトは彼にこの墓石について聞き出そうとした。
「ここに八神リクトに遺体が?」
「正確にはリクトの遺品だけが追加で入れられただけ。元々ここに入れられてたのはリクトの姉のホタルさんと狼角の名を与えられていたホタルさんの恋人だった東雲牙王の遺骨だけだ」
「姉と恋人と共に弔うために残った遺品だけでもってことか」
「元々オレはそんな気無かったけどトウマがどうしてもってな。まぁ、こんな事したところで誰かが咎めるような事もねぇし好きにしろって話だから好きにさせた」
「ふーん……で、どうせなら墓参りに行ってほしいってトウマに頼まれた感じ?」
「……そんなところだ」
何故ここに来たのか、その理由についてイクトに気づかれたヒロムは特に後ろめたいこともないからか言い訳もせずに肯定した後に墓に向けて静かに手を合わせ黙祷を捧げ、ヒロムが黙祷を終えるとイクトはとある疑問について彼に尋ねようとした。
「大将は……巡り会わせを信じる?」
「何の話だ?」
「大将の弟の言いたい事は何となく分かるけど死後の魂が巡り会うなんてありえるのかなって思ってさ。ほら、仮にもオレって《死神》の異名で通ってるから気になってさ?」
「それはネタで言ってんのか?」
「いいや、割と真剣」
「……死後の魂がどうなるかは知らねぇよ。けど、身勝手な大人に命を弄ばれたホタルさんと未来のために罪を1人で背負おうと両親の罪すら自分の贖罪に変えようとしたリクトに許しが与えられるのならあの世で巡り会ってもいいとは思う」
「そっか、そういう考え方ね。まぁ大将は優しいからそう考えるのもいいのかもね」
「オマエは違うのか?」
「うーん、微妙なところ。でもギアシリーズの霊脈云々の話で翻弄されてたんなら情けがあってもいいのかなとは思ったかな」
「霊脈からのエネルギーを正しく感じ取れるって話か。水を差すようで悪いがイクト、その話は多分事実が改変されて伝わってるからそれについてはリクトの勘違いって事になる」
「え?」
リクトとホタルの魂が死後の世界で巡り会うかどうかを尋ねたイクトが《オーバーロード・ギア》の開発の発端となった霊脈の話に振れるように話すとヒロムは訂正を入れるように話そうとし、勘違いと話が触れられたイクトが意外そうな反応を見せるとヒロムはギアシリーズと《オーバーロード・ギア》が目指したとされる霊脈とそこから来るエネルギーについての話の可能性について語り始めた。
「真偽はさておいて『霊脈』という言葉がもし世界の根幹にあるエネルギーの道を指すものではなく精霊とそれを宿すものの間にある繋がりを指すものだとしたらどうなのかってオレは考えた。今回の戦いの中でオレはフレイたちとの繋がりのさらに先にある力に触れた事でアイツを止める力を使う事が出来た」
「え、じゃあ……」
「《オーバーロード・ギア》の目指す霊脈から来るエネルギーってのは精霊と人間の繋がりを指し、その繋がりを深く知ることで得られる力を目指すのが本来の到達点だった……かもって話だ」
「な、何それ……ってそっか、精霊の存在って大将が表世界に晒さなかったら過去の伝承みたいな扱いだったから正しく伝わらないってのも納得かもね」
「ああ、それも全て大人たちの歪んだ欲望が力を求めたせいで引き起きた勘違いだったことになる。そしてその勘違いにリクトとホタルさんは巻き込まれたって事になる」
「そうなってくると何か死後の世界で絶対に巡り会って欲しいね」
「そうだな。まっ、その辺は多少の願望込めて信じる他ねぇ」
「だね。ところで……この後は?」
霊脈という単語について歪んだ解釈が行われた結果にリクトと彼の姉のホタルが巻き込まれたとしてそんな2人には幸せになって欲しいと願い信じるしかないと話すヒロムの言葉に賛同するように頷いたイクトは話題を切り替えるような言い方をすると真剣な表情でこの後について尋ね、尋ねられたヒロムはリクトとホタルの墓を見ながらイクトにこの後の事を語り始めた。
「リクトがアスランを巻き込んだ事で日本国内には航海路上把握されていない密入国ルートがある事が示唆された。それに加えて牙堂詠心の非道な人体実験と十神シエナの存在からまだどこかに人体実験を受けた能力者がいる可能性と《十神》の関係者が潜んでいる可能性が浮上した。一条カズキと葉王が不在の今、オレたちがやるべき事は裏世界に身を潜める悪意の存在を把握する事だと考えてる。その1歩としてオレは賞金稼ぎたちが潜む裏世界の情報を集めて悪意の欠片を見つけるつもりだ」
「なら……元賞金稼ぎのオレが必要になるよね?」
「ああ、そうだ。しばらくオレのわがままに付き合ってもらう」
「オッケー大将。ていうか、大将のこのくらいのわがまま聞くくらい余裕だよ」
「助かる。なら、早速行くぞ」
あいよ、とイクトはヒロムが次にどう動くかを聞いた上で協力する旨を約束すると先にこの場を後にしようと去ろうとし、ヒロムもここを離れようとリクトとホタルの墓に背を向けようとするが、そんなヒロムの前にリクトと彼の姉であろう少女の幻影が現れ、現れた幻影は優しくヒロムに微笑むと静かに消え、それを目にしたヒロムは拳を強く握ると背を向けようとした墓に向けて自らの決意を伝えようとした。
「……リクト、オマエがどこまで考えて今回の件を起こしたかオレには把握出来ないがオマエの覚悟はちゃんと伝わってきた。オマエが守ろうとした世界の実現のためにオレはしばらく戦いに身を置く。オマエが未来に繋げてくれたものをオマエとホタルさんが歩むはずだった平和な世界に繋げるために……オレは歯向かうものを破壊する問題児として戦い続ける。だから、あの世で見守っててくれ」
自らの覚悟、リクトが目指そうとした平和のために戦う事と破壊を躊躇わぬ覇王になると誓ったヒロムはそのための行動を起こすためにイクトに遅れる形で歩を進めていく。今の世界を破壊して平和を実現する、それは従兄弟のような存在を生み出さぬようにするためであり、そしてそれは……
自分たちの歩み行く未来のためになる、とヒロムは信じて進む事にした。この先に何が待つか、そんな事を神すら知らない中で彼は進む事を決意した。
姫神ヒロムとして、覇王として……
世界を壊し平和を掴むために
END