125話
その頃……
都心からかなり離れた所にある森林豊かな地域の中にある村、そこに鬼桜葉王は何か目的があるらしく1人で訪れており、彼は誰かと通話をしていた。
『姫神ヒロムが《センチネル・ガーディアン》として本格的に動こうとやる気を見せ始めたようだな』
「そうだなァ。虐げられてきた立場から一転して守る側になれなんて頼みを引き受けるだけでも驚きなのに自分から動きを見せるとは驚きだなァ」
『よく言う。オマエは最初からこうなることを理解した上であの男を推薦したんだろ?』
「それを言うならァ、オマエも姫神ヒロムの事を高く評価していたじャねェかァ。なァ、カズキィ」
『ふん、日本を守るために最適解を用いるとなればあの男の存在は不可欠になる。それに、現実的な話をするならば国内においてあの立場を全う出来るだけの責任感と相応の強さを秘めている能力者はあの男だけだと判断した部分が1番大きい』
「責任感と強さァ、ねェ。そうは言いながらも本心は十神アルトを倒し《十家》の制度を撤廃するオマエの目的が達成出来たことに関しての借りとでも言いたいんじャないのかァ?」
否定はしない、と電話の相手……一条カズキは鬼桜葉王の発言に対して返答し、返答した上で一条カズキは電話越しに鬼桜葉王に自身の考えを語り始めた。
『個人的な意見を語るならオレたちだけでは《十家》の奥に潜む悪意と十神アルトの暗躍には辿り着けなかった。姫神ヒロムをはじめあの男と協力して動く存在が集う《天獄》というチームがあの騒乱の中で身を潜める悪意への突破口を見出してくれたからこそ今に繋がる結果を出せたと考えている。何より……姫神ヒロムが十神アルトを倒した事でこれまであの男を白い目で見てきたものたちが自分たちの置かれていた現実が虚構で塗り固められていた事を思い知らされ、その歪んだ考えを改めるきっかけを得た。おかげでオレの理想とする日本の正しい在り方を取り戻すための計画が大きく躍進出来た』
「とは言ッてもそれはあくまで《十家》の制度と十神アルトをはじめとした《十神》による悪意の野望の阻止と悪事の露呈が達成されたという点だけを見たらの話だろォ?今民間人はァ……いやァ、この国の人間のほとんどはこれまでの《十家》の制度で無駄な差別化がされていた当たり前の中での生活が消えて内心混乱している状態にあるゥ。さらに言うなら本来はこの状況で正常に機能してないとおかしい警察機関や自衛隊ですらその制度の支配により上の判断が下されなければ助けを求める声にすら反応出来ない指示待ち人間状態で万が一の事が起きた際の不安を払拭出来る存在が脆弱化してる点も解決しなきャならねェぞォ?」
『理解している。警察機関及び自衛隊に関しては《ギルド》と名乗っていた対能力者専門対応機関などという戯けた組織のせいで現状使い物にならない問題が起きているからこその《センチネル・ガーディアン》だ。あらゆる脅威に立ち向かい対応可能な能力者、彼らの存在と行動が民間人の抱く不安等を軽減させている間に腐敗していた警察機関及び自衛隊の立て直しを進める。この国を在るべき姿、在るべき形として取り戻すには時間をかけてでも確実に事を進める』
「へェ〜……問題が山積みの中で対応するためのアイデアはあるッてわけかァ。それを聞けて安心したァ。だがなァ……オレの中には疑問が残ッたままだァ」
『疑問だと?』
一条カズキの考え、今自分たちの置かれた状況はもちろん国の情勢や問題として解決しなければならない点について理解し対処するための考えを述べた彼の言葉についてその1つ1つを理解し安心したと話す鬼桜葉王。だがしかし、その鬼桜葉王はそんな一条カズキの考えを聞いても尚現状ある疑問が拭えずにいることを口にし、そしてその疑問の存在を語り始めた。
「今回の件……姫神ヒロムと即興部隊である『アウトレイジ』が対応した十神シエナの件、腑に落ちない部分があるゥ。そして八神リクトが遺した資料についてもなァ」
『それは《八神》の人間を贄にしてのギアシリーズの開発と設計にはまだ謎があると言いたいのか?』
「謎なんて言い出したらそんなもんはまだまだ出てくるはずだァ。それにィ、オレの中ではこの《八神》のギアシリーズの件……この一件に対して多くのものが都合よく関与し過ぎていると思えないかァ?」
『なるほど、言いたい事は分かった……葉王、オマエはアイツを疑ってるんだな?』
「あァ、オレはアイツを……《一条》を裏切ッたあの男が裏で糸を引いていたと思ッているゥ」
『たしかにアイツがオレたちを裏切った事実がある以上疑いを向けるのは当然だ。だが、アイツ個人が多方面と関与していたとしても個人での限界はあるはずだ』
「待てよカズキィ。肝心な事を忘れるなよォ?十神アルトの尋問であの男が《世界王府》に籍を置いている事が判明しているゥ。それを加味して話すとだなァ……」
『……なるほど、あの裏切り者も《世界王府》に与してるということか』
「あァ、そうだァ。『リュクス』、《一条》の臣下として数年からオマエに仕えながらも《一条》の理念に反した独断で情勢を掻き乱しィ、そして己の目的のために多くの人間を利用してきた事実が判明した途端に《一条》から姿を完全に消し足取りさえ掴めなくなッたあの男が世界的なテロリスト集団である《世界王府》に身を置いているのならァ……オマエが《センチネル・ガーディアン》を使ッて国の立て直しを考えるというなら《一条》がやるべき事は1つだよなァ?」
『……裏切り者のリュクスと《世界王府》の関係性を洗う、だろ?分かっている』
「なら話は早いィ。《センチネル・ガーディアン》の件はひとまずオマエに預けるゥ。オレはその間にリュクスの事を調べていくゥ」
『了解した。成果に期待しておく』
任せておけェ、と鬼桜葉王は葉王は通話を終えるとどこかへ向かうように歩き始め、そしてその彼の歩く後ろ姿を……後方離れたところにある建物の陰から何者かが監視するかのように見ていた。
黒のロングコートを纏いし赤い髪の青年……リュクスは鬼桜葉王の動きを把握しようとするかのように彼の去る後ろ姿を見つめていた。
「あらら、オレが裏にいる事に気づけちゃったかな?流石は鬼桜葉王、一条カズキの最も信頼する臣下にして《一条》を最強まで導いた狂人天才様だ。けど……キミ程度じゃオレに辿り着けても彼らには辿り着けない。楽しみにしておきなよ、《世界王府》による破滅を」
不敵に笑うリュクスは闇を纏いながら消え、リュクスが居たことに気づいていない鬼桜葉王はそのまま目的地に向かおうと進み続ける。果たしてこの先、これからの未来に何が待っているのか……