124話
数日後……
入院中だったヒロムは何故か私服であるジャージに着替えた上で退院する用意を進めており、一見すると彼は脅威的な回復で傷を癒したのだと思われた。
が……
「失礼しま……ってヒロムくん!?」
「ヒロムさん!?まだ安静にしておかないと……」
ヒロムが支度をしている中で病室へと先日のヒロムとリクトの戦いを見届けていたユリナがエレナと共に訪れるなりヒロムの行動に驚いた反応を見せ、2人が驚いていると遅れて来たユキナとアキナが入ってくるなりヒロムの支度する姿を見るなり何やら察したのか呆れた様子で彼に話しかけた。
「ヒロム、また抜け出そうとしてるのね?」
「アンタも懲りないわね……そんな事してたらまた愛華さんに怒られるわよ?ただでさえ今回の件、危険な事に頭突っ込んでるってことで色々言われてたんじゃないの?」
「うるせぇよアキナ。母さんが何言おうと関係ねぇし、許可なら取ってある」
「え?言う事聞かずのアンタが律儀に許可取ったの!?」
「あら、珍しいわねヒロム。いつものアナタなら無許可で窓から脱走しそうなものなのに……何かあったの?」
「人を言う事聞かないガキか野良猫みたいに言うな。アキナにそう思われるのはともかく、ユキナにまでそう思われるのは心外だな」
「ちょっと!?何で私は当たり前のように扱われんのよ!?」
「つうか、どうかしたのか?揃いも揃って……買い物なら付き合わないぞ」
「違うよヒロムくん!!私たちはヒロムくんが心配でお見舞いに来たの!!」
「そうです。でも来てみたらヒロムさんが……」
「ああ、そういうことか。悪い、連絡入れときゃよかったな」
「ヒロムくん、とりあえずどうして荷造りなんてしてるの?まだ体は……
「おう、絶好調だ。人間離れしてる回復力だとか言われたわ。言い方が息子に対するものとは思えなかったけどな」
「そ、そうじゃなくて!!」
ユリナたち4人が来てから何か茶化そうとするかのようにかなり軽い言動が目立つヒロムのその言葉にユリナは真剣に話したい思いを伝えようと彼の言葉に強く返し、ユリナに強く返されたヒロムはやれやれと言った様子でため息をつくと少し間を置き、そしてヒロムは何故支度をしていたのかについてその理由を話し始めた。
「……近々、オレやシンクをはじめとした《一条》が選定した能力者で結成される防衛戦力の新体制として《センチネル・ガーディアン》が本格的に稼働する。そのために《一条》の当主と葉王が各地にいる候補者のところに顔合わせに向かい話をつけてくるらしい。その間、この地域は治安維持の一端を担うはずと《一条》が不在に等しい状況になる……そこで《センチネル・ガーディアン》のまとめ役として抜擢されたオレが主体となって《一条》の不在の間の指揮を執る手筈になったんだよ」
「そんな……」
「ヒロムさんが頑張る必要なんてないですよね?」
「オレもそう思ったけどな……この間の件、リクトが暴れた時の戦闘でオレがアイツを倒した所を大勢が見た上で報道まで派手にされてるって事で有事の際の対応を一任しようとしてるやつらがわんさか出てきてるらしい」
「都合がいいわね、その人たちは」
「ユキナの言う通りよ。少し前まではヒロムの事を厄介扱いしたり蔑んだりして笑いものにしてたのに」
「そう怒んなって2人とも。人間ってのは自分が理解してるより弱いものだから目の前の事を都合よく解釈したくなる事があるもんだ。その都合にオレが利用されてるだけ……だから、オレも利用する」
「ヒロムくん?」
「ヒロムさん、その……利用するっていうのは?」
「簡単な話さ。オレはもちろんオレに手を貸してくれているガイたち《天獄》のメンバーは《十家》のシステムに抗うために大人たちの批判や世間の中傷、周囲からの拒絶があろうと自分たちのためだとして難無く受け入れてきた。けど、オレに与えられたのはそんなものを寄せ付けない自己正当化を可能とした立場だ。それを許される範囲で大いに使えるのならオレはそれをオレのために利用する。ガイたち仲間を守るため、ユリナたちのことを守るため……それと、ユリナたちとのこれからの日常を壊させないためにな」
「ヒロムくん……」
「まぁ、言い方次第だけどな。要は好きに暴れられるならそうさせてもらうってだけのことだ。今回の件でオレはじっとしてるより動いてる方が性に合うって再確認出来たしな」
《センチネル・ガーディアン》という新たな制度の1つとして、それに組み込まれる能力者たちを束ねる立場を与えられながらもその立場にあるからこそ許される事があるのならばそれを仲間のため、守りたい人のために利用すると話したヒロム。そのヒロムの言葉を受けてなのかユリナは少し安心したような表情を見せ、エレナたちも彼女同様の反応を見せようとした。
戦いに身を置くことは変わりない。だが、ならばこそ何のために戦うかは自分で決める。そう考えたヒロムは今を守るため、仲間や大切な人との今と日常を守るために自らが戦うと決意を強く抱こうとしていた。彼の覚悟と決意、それは果たして……