123話
病室に来た一条カズキからレイガと獅天の処遇とクロトたちの今後について聞かされ、今回の件でヒロムと協力し巨悪を討とうと動いた面々についてヒロムを除く5人については《一条》及び鬼桜葉王の指揮下で遊撃部隊として活躍する話が伝えられた後、彼は何かの資料をヒロムに手渡すと同時に『来たる未来に備えるため』と伝えた。
彼の言葉、そこにある意図と真意が分からないヒロムは不思議に思いながら資料を見ようとするが、一条カズキはヒロムが資料に目を通そうとするとある人物に関する彼の知らない情報を伝えようと話し始めた。
「言い忘れていたが八神リクトの件……どうやらあの男は最初から死を受け入れて計画を立てていたらしい」
「リクトが?」
「八神トウマと氷堂シンクが昨日、八神リクトが《八神》の屋敷へ現れる以前の行動ルートについて調べた結果都心から離れた所に住居を構えていた事が判明した。そこにあの男の計画の全容が残されていたとの事だ」
「これはその計画についてのものか?」
「それは違う。その計画について記されてる資料は《八神》が厳重管理する事になっているからここにはない。が、内容だけ話すならギアシリーズの誕生経緯が書かれていた」
「誕生経緯?経緯も何もアレは《オーバーロード・ギア》の存在が全てを物語っているだろ?」
「それはオマエと精霊の関係を人為的に再現しようとした愚かな大人たちにより起こされた結果が原因の産物でしかない。肝心なのはそれが生まれるきっかけとなった起因だ」
「起因?ギアシリーズの始まりに何か理由があると言いたいのか?」
「あぁ、ある。ギアシリーズに関わる全ての原因と今回の結果を残した根底にある起因……それは八神リクトの存在だ」
「リクトが?」
「驚かずに聞け。八神リクトは……無能力者だった」
「!?」
リクトは無能力者、そう話した一条カズキの言葉にヒロムは驚くなと言われても驚かずにはいられず、前置きをされても驚きを隠せないヒロムの反応をある程度想定していたであろう一条カズキはリクトは無能力者だったという驚きを隠せない情報について話し始めた。
「正直な話、オレも驚きはした。八神リクトが元々は無能力者だったという情報はこれまでなかったし、あの男は《憤撃》という能力を有していると思っていた……が、あの男が残した資料には両親が人体実験を自身に施した事で意図的に与えられたものだと記されていた」
「リクトの親が……って、待て。だとしたら……」
「オマエの考えた通りだ。八神リクトに能力を後付けで与え、さらには八神ホタルが腐敗していた《八神》の上層部の人体実験で命を落とすきっかけになったのは八神リクト姉弟の実親がそう仕向けたからだ」
「なっ……」
「これに関しては氷堂シンクに確認したが、八神リクトの実親は父親と母親双方が長らく失踪扱いにされていたらしい。傀儡にされていた《八神》に潜伏して内部からの改革を狙っていた氷堂シンクは当初八神リクトの実親となる両親共にギアシリーズの贄にされたとして事をまとめようとしていたらしい」
「けど、実際は違った。リクトの両親はギアシリーズの完成に加担していたって事か。そのリクトの両親は今は?」
「資料には八神リクトが少し前に自らの手で殺害した事と遺体を遺棄したとされた場所について記述されていた。八神トウマが調査員を記述された場所に向かわせた結果……記述通りに八神リクトの両親の遺体が発見された」
「アイツ、ギアシリーズに関わる何もかも終わらせるために親を殺す事も躊躇わなかったのか……」
「そのようだな。人体実験を受けたが故に能力を得てギアシリーズを扱えた自分の存在を消す……そうする事でギアシリーズに深く関わった人間をこの世界から全員消せたということだ」
「全員?」
「八神リクトの残した資料通りならギアシリーズに関与していた人間はもうこの世に生存していない事になる。最後の生存者は……八神リクトだと記されていた」
「そうか……《ラース・ギア》だけでなく《オーバーロード・ギア》を使ったリクトはギアシリーズを利用した側の人間って認識でいたのか」
「事実、ギアシリーズの使用者は既に全員死亡が確認され、ギアシリーズの開発と設計に関与したとされる人間はギアシリーズの完成のための贄にされたか八神リクトが足取りを掴み殺害している事でどちらの条件を満たすものは存在せず、今後もうギアシリーズが生み出される心配はなくなった」
「……そう、か」
リクトの今回の行動、そのきっかけが元々は無能力者だった彼の身に施された人体実験によるものであり、リクトの過去が明らかになった事で彼が実は無能力者であったと知り、そして《八神》にとって負としてのダメージを残した事実があるギアシリーズの全てを自らの存在と共に抹消しようと彼が最後まで動いていたことを知ったヒロムは何やら思う所があるかのような反応を見せ、八神リクトについての事実の報告と発見された資料の受け渡しを終えた一条カズキは立ち上がると病室を後にしようと入口の方へ歩き始め、部屋を出ようとした彼は動きを止めるとヒロムの方を向かずにある事を伝えようとした。
「近々オレは《センチネル・ガーディアン》の本格始動に向けて各地に赴き候補者と顔合わせのためにここを不在にする。その間の事、オマエに任せるつもりだ」
「……《センチネル・ガーディアン》のまとめ役としての手本を見せろってことだろ?理解してるさ」
「理解しているのならひとまずは託せるな。しばらくは任せるぞ……最強の能力者に近づいた天才」
一条カズキがしばらく不在となる事、その間の事を一任すると伝えられたヒロムがやる気を見せ、そのヒロムのやる気を感じ取った一条カズキは何か嬉しそうに少しの笑みを浮かべると部屋を出ていき、一条カズキが部屋を去った後、ヒロムは……