122話
病室で目を覚ましたヒロム。そのヒロムのもとへ彼の母親・姫神愛華に続けてやって来たのはヒロムにとって予想外の人物だった。
「何で……オマエが!?」
ヒロムのもとへやって来た人物、黒衣に身を包んだ青髪の青年。その青年がここに来るのはもちろん、自分の前に来ると思っていなかったヒロムが驚きを隠せず困惑していると青年はヒロムの反応など気にすることなく部屋の中を少し進むと部屋の隅に置いてある椅子をベッドの近くまで運ぶとその上に座り、椅子に座るなりヒロムを見ると同時に青年は……一条カズキはヒロムの反応に関して触れずに話を始めようとした。
「まず最初に今回の件、尽力してくれて感謝する。おかげで日本の危機を未然に防ぐことが出来た」
「お、おう……てか、何でオマエがここに?」
「今それは必要ない問答だ。こちらの話を進める」
「お、おう……」
(苦手だ、コイツ……!!コイツ、《一条》の当主で日本国内最強の能力者とかじゃなかったらぶん殴るのに……!!)
「話を続ける。今回の件は十神シエナ及び牙堂詠心の計画的な犯行とそれを阻止しようと行動を起こそうとした八神リクトの双方の行動が重なって引き起こされた……という形で処理する事になった」
「その方が都合がいいからか?」
「死人に口なし、と言いたいのだろうが違う。そういうのは腐敗を招いた十神アルトの支配政治のやり方、これからのやり方ではない。詳細を話すとかなり複雑な内容になるが……オマエが求めてるであろう要点だけを伝えてやろうか?」
「……それで頼む」
「そうさせてもらう。まず八神リクトの件はオマエや八神トウマ、さらには《八神》の隠れている事実を明らかにするきっかけを表に浮上させたとして八神トウマの民間人を守ろうと戦場に駆けつけた点を加味した上で八神リクトの名誉を守る事にした。それが死後のあの男のためであり、これから変わろうと償いの道を進む八神トウマ率いる《八神》のためになるとオレは判断した。そのために十神シエナと牙堂詠心の計画を利用した。オマエの精霊が永楽寺院の跡地に隠されていた地下空間を見つけてくれたおかげでやつらの計画とそのための悪逆非道な行いについての決定的な証拠が出てきたこともあって事実を全面的に主張出来るから裏で動かしやすかった」
「けどそうなったらレイガはともかく、獅天はアイツらの計画に利用される形で色々やらかしてる。それはどうなる?」
「オマエはあの地下空間で発見された資料を詳しく見てないから知らないんだな。あの地下空間には獅天を都合よく利用する計画についてのデータも発見された。獅天及びレイガの両名の死獅王に関する件はこのデータによる弁明で無実を証明出来たから心配するな」
十神シエナと牙堂詠心の名が出た事でヒロムが《獣身武闘拳》の使い手として運命を大きく翻弄されたレイガと今回の件で悪意の片棒を担がせられていた獅天の身の心配をすると一条カズキはヒロムと精霊が永楽寺院の跡地で見つけた証拠で2人が無実であり罪は無いと伝え、それを聞いたヒロムは安心したような表情を見せた。
が、一条カズキはそんなヒロムに対してこの件について何か言いたいことがあるらしく続きを語ろうとし、その内容はヒロムの安心を少し不安にさせるものだと彼は思いもしなかった。
「ただし、無実を証明出来たというだけで2人に対しては一部から危険視する声も出ている。理由は……分かるよな?」
「十神シエナと牙堂詠心に利用された点を配慮しても2人の人間により人体実験を行われたという事実から今後何かあると警戒してしまうって言いたいんだろ?」
「その通りだ。これに関してはオレの責任と判断で《一条》の管理下に置くという事で納得させた」
「そうか」
「それと……今回の件でオマエに手を貸したアスランも同様の対応だ。やつらに嵌められ計画に利用されたとはいえ密入国者を攻撃し国内においても《八神》の人間と対峙した事実があるからな」
「その方がアイツのためになるだろうな。一応、アスランの仕事は全員から理解されるようなものじゃないしな……クロトとキラは?」
「羅国キラは葉王の命令を放棄し独断で行動したとして折檻と反省文の提出のもと免罪、クロトは今回葉王の指示を完遂したとしてボーナスの支給程度で《一条》の能力者として今後も葉王の指揮下にあることは変わらない」
「とりあえず、全員無事ってことか」
「それとこれは葉王からの提案だが、今回の件に関わったこの5人について……オマエを抜きにした遊撃部隊として葉王の職務のたまに借りたいとのことだ」
「アイツらを?つうか何の確認?」
「葉王としては今回の件での戦いでの実績から遊撃部隊として正規採用可能なレベルだとして作戦行動を許可しようとしているらしいが、5人とも揃いも揃ってオマエが許すならと遊撃部隊としての参加を検討している。それ故の確認だ」
「はぁ……オレは構わないから好きにしてくれ」
「オマエが認可したと伝えておこう。それと……いや、むしろ今回ここに来たのはこれのためだな」
一通りの報告が終わったのか、それとも報告の途中で思い出したのか一条カズキは何かに関してまとめられた資料をヒロムに渡し、受け取ったヒロムはそれが何なのか不思議に思いながら目を通そうとするが、そんなヒロムに一条カズキは渡した資料に関して簡潔に中身を伝えようとした。
「これは……」
「来たる未来に備えるためのものだ」