120話
白銀の嵐がリクトを飲み込み、そして嵐の中で起きた爆発の影響が消えず勝負の行方が分からないままの中でヒロムはフレイとラミアと共に静かに着地し、着地したヒロムは確信があるのか纏っている白銀の稲妻を消し、ヒロムが稲妻を消すとフレイたち精霊も身に纏う稲妻の力を消しながらもリクトの是非を気にして武器を構えようとした。
が、稲妻を消したヒロムはフラつくと膝から崩れるように倒れそうになってしまい、それに気づいたフレイとラミアはリクトの健在という危険が残っている中で武器を捨てて彼の体を支えようとし、2人の精霊の手が彼の体が倒れるのを防ぐとヒロムは2人の手を借りながら何とか立とうとした。
いや、というよりはヒロムが戦いを続けていた今の状態が異常なのだ。ここに至るまでに続いた連戦から伴う疲労と消耗、過去に敵対していたとはいえ和解が出来たと思っていた従兄の裏切りによる小さいながらも確かな影響をもたらした精神的なダメージ、そして圧倒的な力に追い詰められる中で卑劣な手によって危険に晒されそうになったトウマやユリナたちを身を呈して守ろうとした事により負った重傷と多量の出血。挙げた内容全てを加味して結論だけを言うならこの瞬間まで戦いを続行していたこと自体が奇跡的といえるほどだ。
「はぁ……はぁ……」
「マスター、これ以上は限界です!!」
「フレイの言う通りよマスター。流石のアナタもこれ以上は……」
「まだ、ダメだ……。リクトが完全に倒れない限りは……」
これ以上は限界だとしてフレイとラミアは主である彼を止めようとするが、息切れを起こしながらもヒロムはリクトを完全に倒すまでは止まれないと自分の意思を貫こうとした。そのヒロムの意思が招いたのか、それともそうなる流れなのかは分からないが爆発によって起きた戦塵が晴れる中で白銀の嵐に襲われたリクトが全身がボロボロの血に塗れた状態で立って現れ、リクトが倒れず負傷しながら立って現れるとヒロムは倒せなかったかと目にした結果に悔しさを感じ、ヒロムがこれ以上の継戦能力を発揮出来ないと判断したユリアを筆頭にマリアたち精霊がヒロムの体を支えるフレイとラミアをも守るように3人の前に並び立って武器を構えようとし、ユリアたちがヒロムたちを守ろうと構えるとリクトはヒロムたちを視界に捉えると1歩踏み出そうとした。
「アレでも倒れない……のか……」
全力と言える一撃をぶつけても目の前の敵にはまだ戦う気力がある、端的に言うなら状況は最悪だとヒロムが考えたその時だった。
1歩踏み出そうとしたリクトが足を動かそうとしたその瞬間、リクトの体に大きな亀裂が生じ、大きな亀裂が生じるとそれを起点に無数の細かな亀裂が発生し、細かな亀裂同士が繋がり結びつくとそこからリクトの体が部分的に崩壊を始め、崩壊を始めたリクトの体は塵となって消え始める。
「……」
「リクト、オマエ……」
「……やはり……オマエ……は、強いな」
肉体の崩壊が徐々に始まるリクトの姿を目にしたヒロムは何かを察し、ヒロムが何かを察した事を認識したと思われるリクトはヒロムに向かって優しく微笑むとヒロムを『強い』と認めるような一言を発した後に崩壊が進む中で無理やり体を動かしながらヒロムに近づこうとしながらゆっくりと話し始めた。
「この《オーバーロード・ギア》の力を、最大限に引き出しても……オマエは止まることなく、乗り越えた……。オマエは、オレの……オレの理想を、体現し続けてくれ、た……」
「オマエ、何を……」
「最初から、こうなる事を望んでいた……オレが、《八神》の負の遺産と消えるために……」
「!?」
「だが、同時に……オマエの中の蟠りを取り除きたいと……思った。だから、オレは……この力を悪意で使った。そうすれば、オマエは……後先考えずに、オマエの意思を示そうとすると思ったからな……」
「オマエ、最初から……何で……!?」
「……最後のあの戦い、その中でオマエはオレに……未来に繋がる、可能性を示してくれた……。飾音さんが託した未来を、繋げようとするオマエの姿に……オレは、姉さんの面影を見た……だから、あの時、決めたんだ。オマエと向き合えなかった自分の愚かさの償い……そのために、オマエやトウマの未来を明るく照らすために、不要なものを……消してやりたい、と」
「だからオマエは《オーバーロード・ギア》を……ギアシリーズそのものが消えるように牙堂詠心や十神シエナを利用して……!?」
「ギアシリーズに関与した人間を全員は消せない……だが、大きく影響をもたらすものを巻き込めば、いずれは全員に辿り着ける……そのきっかけに、オレがなったんだ……」
これまでの自身の行動と《オーバーロード・ギア》の使用に踏み入った理由を明かすリクトは肉体が徐々に消える中でヒロムに近づこうとし、近づこうとするリクトの言葉にヒロムはじっとしていられずフレイとラミアの支えから離れるようにフラつきながら歩み出すとリクトに歩み寄ろうとした。
「何で、言わなかった……!?あの時、オマエがオレに全て話してくれていたら……!!」
「……ギアシリーズが始まるきっかけをつくったのは……《八神》の腐敗した上層部であり、オレはトウマを傀儡にしていたその上層部に耳を貸した愚者だった……オレなりの償いを、しなければ姉さんにも……飾音さんにも顔向け、出来そうになかった……」
「そんな理由で……オマエは命を捨てるってのか!?」
「……そのために《クイーン》を完成させ取り込んだ。最後の最後に自壊するために……な」
「……馬鹿野郎……!!」
「オマエは生きろ、ヒロム……誰よりも人に寄り添え、誰よりも身を呈し守る事を実行出来るオマエは未来のために進み続けろ……オマエが進み続けるなら、オレは……満足だ」
「やめろ、待て……!!」
リクトの思いにヒロムは抑えられぬ思いを吐き出しながら手を伸ばそうとし、ヒロムが手を伸ばそうとするとリクトは肉体が完全な消滅を遂げようとする中で微笑みながら最期の言葉を伝えようとした。
「ありがとう……オレと向き合おうとしてくれて。オマエと出会えた事は幸せな事だったよ」
ヒロムが手を伸ばす中でその手を取ることなくリクトの最期の言葉と共に彼の瞳から涙が落ちると彼の体は完全に消滅してヒロムの前から消え、消え行くリクトの体を掴もうとヒロムは必死に手を伸ばそうとするも間に合わず、そしてヒロムは手を伸ばそうと前に身を乗り出した瞬間に完全な限界を迎えたのか静かに倒れてしまう。
一瞬にして平穏を壊したリクトとそれを止めようとするヒロムの戦いはヒロムの勝利で幕を閉じた。だが、勝者のもとへ残ったのは彼の望まぬ結果でしか無かった……