12話
鉄千との戦いが始まると共に相手の身の動きとこちらの攻撃により相手がそれほどダメージを受けていないこと、さらに攻撃をぶつけた際の手応えから相手の力量の一端を実感させられたヒロムは鉄千を倒すために何かを実行しようと決め、ヒロムが何かを仕掛けようと考える中でクロトが遅れて走り来ると彼を守るように立って短剣を構えようとした。
「援護、オレも加勢する」
「加勢するも何も誰が手柄取るかの競走してるつもりで好きにやれよ。どうせオレとオマエで狙う獲物は変わらねぇんだからよ」
「否定、競走のつもりはない。オレはただヒロムのために戦いヒロムの役に立ちたいだけだ。戦いにおける同期や理由でそれ以外のものは必要無い」
「そうだったな。オマエはそういうやつだったんだな、一応」
「無駄話とは余裕か?」
加勢すると話したクロトに好きにやれと伝えたヒロム、そのヒロムの言葉に対してクロトはヒロムのために戦いヒロムの役に立つ以外の戦う理由は要らないと語り、それを聞いたヒロムが呆れていると鉄千がヒロムとクロトを倒そうと魔力を纏いながら迫るなり拳撃を放とうとした。
鉄千が拳撃を放とうとするとクロトはそれを短剣を用いて防ぎ止めると同時に傷を負わせようと斬り掛かって対応しようとするも彼の短剣は魔力を纏う鉄千の拳を斬ることなく拳の外にある魔力に止められてしまう。
「強固、魔力を纏わせてるだけでこの硬さか……!!」
「魔力を用いた基本技能の熟練度が普通と違うから生半可な攻撃は通らねぇぞ、クロト!!」
短剣を用いた自身の一撃が魔力というものに容易く妨害された事にクロトが驚いている中でヒロムは鉄千の裏を取るように回り込むと同時に軽く跳びながら蹴りを放って鉄千に一撃を喰らわせようとした。
ヒロムの裏取り、そこからの飛び蹴りという流れを鉄千はクロトが迎撃に短剣で応じた事が影響したのか反応出来ず、反応出来なければ当然対応も出来ない鉄千にヒロムの一撃は直撃した。連続攻撃を躱してからのカウンターとは異なり背後からの奇襲、さすがに鉄千に対して一撃が決まるだろうとヒロムは考えていた。しかし……
「……ふむ、判断力の高さと実行する行動力は見事だな」
ヒロムの背後からの飛び蹴りを直撃で受けたはずの鉄千だったがヒロムの想定したような結果を生まなかったのか彼は何も無かったかのように平然としており、流石にこの結果を見せられたヒロムは咄嗟に大きく跳んで再び距離を取り、ヒロムの動きを見ていたクロトは短剣に魔力を纏わせると今度は彼に代わって仕掛けようと鉄千の首を削ごうと斬り掛かる。
「殺撃、仕留めてやる……!!」
「仕留められるか、試してみろ」
クロトが敵の首を斬ろうと躊躇いなく斬り掛かるも鉄千は防御しようとする素振りが無いどころか避けようとする素振りもなく、まるでクロトの一撃を受け止めようとするかのように立つ鉄千に対してクロトは情け容赦など持つ気もなく素早く振り抜き敵の頭を胴体から切り落とそうとした。が、クロトの短剣が振り抜かれ敵の首に命中してそのまま首が落とされるかのように見えるも鉄千の首には一切の傷が見当たらず、鉄千の首を切ったはずのクロトは何やら違和感を感じているような驚いた顔をしていた。
「疑念、おかしい……切ったはずなのに、切れてないだと……!?」
「少し驚かされたが所詮戦いを覚えたばかりの小僧ではこれが限界のようだな」
「不服、オレはまだ……
「その小僧相手に本気になる馬鹿な大人が偉そうに何言ってる?」
驚きを隠せぬクロトに大人としての余裕を見せる鉄千、鉄千の言葉にクロトが反応し言い返そうとするとそれを遮るようにヒロムは敵を挑発するかのように言いながら構え、ヒロムのその言葉を受けた鉄千は呆れるように深いため息をつくとヒロムの方を向くなり彼の言葉についていくつかの指摘を行った。
「小僧、いくつか訂正してやろう。まず短剣の小僧はオレに及ばぬとはいえ高度な魔力操作が行えると見たがオマエは違う。オマエは決め手となる攻撃を放つ際にどういう訳か魔力を纏わせることをしない……背後を取ったさっきの一撃、アレで全て見えた。オマエは基本技能の魔力を纏うという行為が出来ないらしいな」
「どうかな?そもそも、必要無いからしてないって考えなかったのか?」
「それならそれで構わんがここで次の訂正。小僧、オマエは最初のカウンターでオレを殴った時に手応えと結果が一致していない事に気づいていたはずだ。それならば次の手となる背後からの攻撃は確実性を求めるはずだ。だがオマエはそうしなかった……いや、身体能力の高さと判断力・分析力と人間的な強さは異常だが能力者としての強さは平凡程度でしかない。空蓮のように単調なら通用するが手の内の見えぬ相手、つまり攻撃の通らないオレを相手にするにはオマエはあまりに役不足だ」
「……長々とご説教、どうも。生憎だがオマエの訂正ってのはどれも的外れで聞いてて不愉快だ」
「何?」
「というか、オレが姫神ヒロムだと知っててそれを話したなら見当違いもいいところだ。オレを知ってる人間は……まずオレの『力』を警戒するからな」
鉄千の言葉、ヒロムに対する問題点の指摘とも取れる言葉を聞かされたヒロムは鬱陶しそうな顔をしており、ヒロムの反応が何故か理解出来ぬ鉄千が不可解に思っているとヒロムは両手を大きく広げる。ヒロムが両手を大きく広げると彼の両手首に装着されているブレスレットが強く光り、そして……
ヒロムの両手首のブレスレットが光を発すると彼のそばに光と共に2人の少女が現れる。1人は長い金髪に碧眼の金色の大剣を持った少女、もう1人は長い紫の髪に赤い瞳、紫色の刀身の刀を手にした少女だった。
2人の少女の登場、それを見せられた鉄千は何かを思い出したかのように目を見開き、そして拳を強く握るとどこか嬉しそうに2人の少女についてある言葉を口にした。
「精霊……!!そうか、そうだった……!!
小僧の最大の武器は現代において存在すら幻のようにされていた精霊を宿し従えるという点!!1人でありながら複数の戦力を有する事が可能なその特異性、それ故に発揮される制圧力の高さと小僧の強さからあの異名が与えられたんだったな!!そうだろ……覇王!!」
「やかましい野郎だ。そんなにギャーギャー騒ぐな……聞こえてんだから」
「なるほど……噂ではその特異性が消えたと聞いていたが健在だったとはな!!これはこれで……楽しめそうだ!!」
「楽しませる気は無い。オレは……オレたちはオマエを蹴散らすだけだ」