112話
戦いに集中するヒロム、そのヒロムの意識・認識が自分に向けられ他が蔑ろになるのを待っていたかのようにリクトは後方にてトウマに守られながらヒロムの勝利を信じるユリナたちの方へ向けて力を高め加速を続ける闇の一撃を放ち、リクトの悪意に満ちた思惑から放たれた闇の一撃を前にしたヒロムは彼への攻撃をフレイたち精霊に任せるかのように自身はユリナたちや彼女たちを含む民間人を守ろうとしているトウマの方へ向かうその一撃を止めに向かおうと駆け出した。
そのヒロムの行動、敵を前にして何故か後方に向かおうとするヒロムの動きが不自然に思えたトウマは彼の行動の真意が分からず戸惑うしか無かった。
「兄さん!?」
(どういうこと!?兄さんは後方の守り、民間人の皆さんやユリナさんたちの事をボクに任せてリクトさんに専念するはずだったのに……まさか、ボクと頼りにされてない!?)
「トウマ!!可能な限り障壁を重ね並べろ!!」
「えっ、兄さん、何を……
「デカいのが来るんだよ!!」
「!!」
訳が分からないトウマに向けて出されたヒロムの指示、その意図すら分からないトウマが困惑してしまっているとヒロムはそんな彼に端的に伝わるように叫び、それを受けた事でようやく兄の伝えようとする事を理解したトウマは慌てて光の力を高めると自身やユリナたち、民間人を守るように光による障壁を何層にも重ねるように展開させて守りを固め、トウマが守りを固めるとヒロムはさらに加速してリクトの闇の一撃の前に立ちトウマやユリナたちから身を呈して守るかのように構えると白銀の稲妻を強く高めさせながら立ち向かおうとし、フレイたち精霊もヒロムの行動の意図を瞬時に理解するとそれぞれが宿す力を高めながらリクトを仕留めようと攻撃を放とうとした。
だが……
トウマやユリナたちを守るために身を呈し立ち向かおうとしたヒロムの前で闇の一撃は大きく広がるように形を変えながらヒロムを飲み込もうとし、ヒロムを飲み込もうとする闇の一撃に対してそれが何を狙っているのかを理解したであろうヒロムは白銀の稲妻をより強くその力をさらに高めさせ闇を押し返すべく解き放とうとした。
が、闇はヒロムの解き放とうとする白銀の稲妻をも飲み込む勢いで彼を全周囲で完全に包囲しながら覆い隠すように飲み込んでしまい、ヒロムを飲み込んだその闇は突然あかい光のようなものを帯びると炸裂し爆ぜるようにしながら周囲の地面を破壊し、そしてその内側に飲み込まれていたヒロムは闇の中で……いや、闇そのものに起きた炸裂の衝撃を直で受けることとなり、衝撃を直で受けたヒロムは防ぐ術もなかったのか全身負傷し血だらけになりながら崩れるように倒れてしまう。
「兄さん!!」
「ヒロムくん!!」
「「マスター!!」」
ヒロムが倒れた、その光景を目の当たりにしたトウマとユリナが叫ぶ中でフレイたち精霊も主である彼の負傷により目の前の敵から意識が逸れてしまい、それを狙ったかのようにリクトは全身から禍々しい力を解き放ち衝撃のように飛ばす事でフレイたち精霊を一気に吹き飛ばし一網打尽にしてしまう。
フレイたち精霊は吹き飛ばされ倒れてしまうもどうにか立ち上がろうとするが、リクトによる卑劣な攻撃を直撃で受けたヒロムが起き上がろうとしない中、リクトは闇を纏いながら嬉々とした表情で笑い始めた。
「ハハハハハハハ!!純粋なのか馬鹿なのか、それとも間抜けなのか分からないなぁ!!まさかオレが正々堂々と言って本当に小細工も無しに仕掛けると思ってたのか!!傑作だな、オマエは!!」
「リクトさん、アナタは兄さんを……!!」
「騙したさトウマ。だが悪く思うなよ?オレはヒロムに対しては小細工する気はなかった。単にオマエと後ろにいる有象無象を消すのにちょっとしたひと手間を加えようとしただけだ。そのひと手間にヒロムは気づいてな……オマエの光の力では防ぎ切れないと本能で感じ取ってな」
「ボクの力じゃ、防ぎ切れない……?」
「オマエの能力は厄介だ。オマエに対してかどうかは関係なく悪意や殺意、敵意が込められた攻撃等は完全に防がれ消滅する。けど、そんなオマエの能力にも弱点はある。敵意も殺意も何も攻撃……自然的に起こった力に対しては無力化が困難になるという点だ」
「まさか、兄さんを襲ったアレは……」
「元々はオマエの力を内側に取り込む形で攻略させた後に炸裂させてその衝撃で有象無象を駆逐するための行動……それをヒロムは一瞬だけ見抜いて全てを自分で受け止めようとした。哀れな事にオレの言葉に騙されてな!!」
「アナタという人は……どうして、どうしてそんな事が出来るのですか!!」
「……うるせぇぞ……トウマ……」
リクトの言葉に加えて先程の攻撃が何を狙ってのものかを本人に教えられたトウマは小細工不要という言葉を信じ動いたヒロムを蔑むようなリクトの態度に怒りを隠せずにいたが、そのリクトに対しての怒りをトウマが強く抱いている中で倒れたはずのヒロムが立ち上がろうとし、もう起き上がらないとでも思っていたであろうリクトはありえないとでも言いたそうな顔で驚いていた。
「バカな……!?オマエが予測出来たとしても対応出来ない攻撃をぶつけたはずだ!?」
「は?予測出来たとしても対応出来ない?ナメんな……」
リクトの言葉に聞き返すかのように言葉を返したヒロムは立ち上がり構えようとする中で少し体がフラつき血を吐いてしまうが戦う意志を見せるべく拳を構えようとし、拳を構える中でヒロムはリクトが先程口にした言葉について反論してみせた。
「万能なんてもんはこの世にない……トウマがここに来た時点でオマエがトウマの能力の欠点を狙うのはオレの思考の中で既に考えていた。だからずっと警戒していた……オマエがオレを油断させる布石を用意した上でオレが絶対に処理出来ないタイミングで反応する瞬間を引き起こすのをな」
「オマエ、最初から……トウマを後方で待機させていたのは……
「最初からこの瞬間のためにオレの意識の中『だけ』で構築していたプランだ」
「ふざけるな……どこまでオレの邪魔をすれば気が済むんだオマエは!!」
「なんだ、やっと本性見せる気になったか?変に気取ったような態度のオマエは見ててつまらない……それくらいの方が潰しがいありそうだな!!」
ヒロムは既に予見していた、それを理解した上で攻撃を受けたヒロムに対して怒りを隠せず言葉を荒くしながら吼えるリクトにようやく本性を見せたとして彼の怒りに殺る気で応戦しようと叫ぶヒロム。そのヒロムが叫ぶ中、彼の両手首に装備された白銀のブレスレットは微かな光を帯びようとし……