109話
戦いに詳しくないものからしたら今のヒロムはリクト相手に優勢に見えているのだろう。
だが戦いを見守るトウマと戦っている当人たるヒロム、そして彼が倒そうとするリクトは能力者の戦いを知るものだからこその視点で物事を見ていた。
決め手に欠ける、その点から流れは向いていないと考えるヒロムのその思考を読んだリクトを前にヒロムは……
「……潰す!!」
思考が読まれている、それを理解した上で切り替えるかのように息を吐くなり地を蹴り走り出し、ヒロムが走り出すとフレイとユリアは右側に、ラミアとマリアは左側ににそれぞれ分かれるようにしながら走り出した。
「今度は3方向か」
(主とそれと繋がる精霊間のみで行われる記憶・認識・知覚の共有はオレの力でも読めない。それを理解した上で立てられたであろう次なる連携攻撃……はたしてどんな作戦で展開されるのか見物だな)
思考を読む、リクトのその力の裏を掻くかのようにヒロムと精霊でしか出来ないことを活かした上で動いたであろうと考えるリクトは彼らがどう動くか期待を向ける中で妖しい光を纏うと体を少し浮遊させ、リクトが体を浮遊させるとヒロムは白銀の稲妻を強く纏い加速すると間合いを詰め、そこから流れるように拳撃を連続で放ち叩き込もうとした。
「……」
(単なる連続攻撃?いや、この程度で倒せると考えてるはずがない。だとしたら……無策による打算無き選択か)
単身で接近し連続攻撃を仕掛けようとするヒロムのその攻撃に対してリクトは落ち着いた様子で対応しようと浮遊する中で無駄の無い躱し方を披露しながら放たれる攻撃全てを躱し、躱されても連続攻撃を止めようとしないヒロムの連続攻撃を放ち続ける中にある右の拳を左手で掴み止め、連続攻撃を放つ最中のヒロムの片手を掴み止めるとリクトは右手の中に雷撃を出現させるとヒロムの体にぶつけようとした。
「考えどころか策もない連続攻撃とは芸の無い……
「いいや、目論見通りだ……!!」
ヒロムの連続攻撃を芸が無いと酷評しようとするリクトに対して目論見通りと返すとヒロムは自身の右手を掴み止めたリクトの左手を左手で掴むと地を強く蹴って高く跳ぶと同時にリクトの体勢を崩すかのように敵の頭上を介して裏に回り込もうとし、ヒロムのその行動によってリクトは左手を起点に後ろに体が持っていかれるように崩れそうになってしまう。
「なっ……!?」
「オマエなら必ずオレの拳を掴んででも止めると思った。だからそれを誘発させるために無駄な事をした」
「オマエ、まさか……思考を読むオレの予測を逆手に……!?」
「油断してんじゃねぇぞクソ従兄!!」
思考を読む、それ故にある程度の想定で済む範囲で予測して動いたリクトのその読みを逆手に取る形でヒロムが彼の体勢を崩させるとフレイたち4人の精霊は体勢の崩れたリクトを仕留めるなら今だと左右に分かれるように走った状態から両サイドから畳み掛けようと4人同時に攻撃を仕掛けようとした。
だが……
「……甘いな」
体勢を崩され4人の精霊が攻撃を仕掛けようと迫る中でリクトは背中から闇を放出させるとそれを刃のように変えて地に刺す事でこれ以上体勢が崩れるのを防ぐと今度はヒロムをフレイたちの方へ投げ飛ばしてしまい、ヒロムを投げ飛ばし離れさせたリクトは自由を取り戻す体勢を直すと攻撃を放つべく力を高めようとした。
ヒロムが投げ飛ばされると攻撃に向かおうとしていたフレイはすぐにヒロムのもとへ駆けつけると彼の体を受け止め、フレイがヒロムを助ける中でラミア、マリア、ユリアは彼女が抜けた分も補おうと3人で同時に仕掛けようとした。
が、リクトは3人の精霊が攻撃を放つその瞬間に彼女たちの前から塵となって消え、3人の攻撃が空振りに終わるとリクトは彼女たちの背後……その後ろに位置する場所でフレイに助けられたヒロムの前方にその姿を現すと両手から闇を強く撃ち放とうとした。
「終わりだ……!!」
今のヒロムはもちろんフレイたちの対応も間に合わない、そう判断したからこそ終わりだと確信して攻撃を放とうとするリクト。リクトの中に確信が生まれたその時だった……
「やっぱ、思考を読むのに慣れ過ぎて見落としてんな。だから……まだ終わらない!!」
リクトが勝利を確信して攻撃を放とうとする中でまだ終わらないと逆転の手があるかのように言葉を発し、ヒロムのその言葉に反応するかのようにリクトの左右に2人の少女が現れる。
長い白髪、赤い瞳、薄紫色のレオタードを思わせるような衣装の上に龍、狼、蠍、蛇を彷彿とさせるようなアーマーを身につけ両手に鋭い爪を施された薄紫色のグローブを装備した少女が右側、長い銀髪に水色の瞳、肩と腕を露出するような青い衣装と脚を露出させるホットパンツの上に水色のローブを巻いた服装をし両手に水色の双銃を持った少女が左側に出現し、出現した2人の少女の姿をそれぞれ素早く視認したリクトは彼女たちが何者かをすぐに理解し、ヒロムの言葉を理解した。
「精霊……まだ呼び出せたのか!?」
「オレがいつ、上限だと言った?」
「……だが!!オレのこの攻撃でオマエが終わる事は確かだ!!」
2人の少女の精霊の出現によりヒロムがまだ精霊を呼び出せる、その事に驚きを隠せないリクトに対してヒロムは自分の精霊の使役の上限については明かしていないと指摘してみせるがそれでも勝ちを確信している事に変わりないリクトは攻撃を止めずヒロムを倒すべく闇を強く撃ち放って彼を仕留めようとした。
が、リクトが闇を撃ち放った瞬間、ヒロムと彼を助けたフレイの前に藍色の光と共に盾を左手に持った少女が現れてリクトの放った闇を防ぎ止め、そして防いだ闇を弾き消してみせた。
長い銀髪をポニーテールにしたドレスというには肌を多く露出するような奇抜なデザインの黒い衣装を身に纏う少女、彼女は左手の盾に加えて右手に刺突に特化したランスを持っており、攻撃を防がれたリクトが驚きを見せる中でヒロムがフレイの手を借りながら立ち上がると現れた3人の少女はそれぞれの名を名乗り始めた。
「ティアーユ、マスターのもとへ新たな仲間である2人を引き連れ参りました」
「フラム……マスターの前に立ちはだかる敵は私の爪で引き裂くわ」
「私の名はシェリー……この盾を持ってマスターを守り、このランスを持って敵を穿ちます」
「次から次に……!!」
攻撃を防がれただけでなく新たな精霊を呼び出したヒロムに対して苛立ちを見せ始めるリクト。そのリクトの苛立ちを感じ取ったのかヒロムは首を鳴らすと彼に向けて忠告した。
「リクト、オマエに対してこれだけは言っといてやる。オレたちを敵に回した……それを必ず後悔するってな!!」
「言ってろヒロム……!!オレの実現しようとする変革を理解出来ない愚かな王の分際で……オマエの方こそ後悔しろ、オレを相手に歯向かった事をな!!」