108話
決着をつける時が来た。
精霊4人を引き連れるかのような形で敵となったリクトを倒そうと走り出したヒロム、対するはそのヒロムの全てを否定するようにして彼を倒そうと肉体を浮遊させながら彼に迫ろうと飛ぶリクト。
両者譲れぬものがあり、そしてその譲れぬものを否定しようとする目の前の相手を倒すべく持てる力を用いて自らの正しさを示し勝利を掴もうとしていた。
ヒロムの勝利を信じ、彼がリクトを倒し平穏を取り戻すと信じるユリナたち4人と街の人々、そして彼女たちを守ろうと最終防衛ラインを担うトウマが見守る中で先手を打つべく動き出したのは……ヒロムたちだった。
先手必勝、それを体現するかのようにヒロムは加速すると一気にリクトの背後へ回り込んでみせ、ヒロムが背後へ回り込むと連動するかのようにフレイとラミアがリクトに対して正面から仕掛けようと間合いを詰めようと加速を始めた。
ヒロムの背後への回り込み、そしてそれに対して反応させるのを阻止するかのような間合いに詰め方を試みるフレイとラミア。双方の存在、両方を視覚情報と空間認識により把握しているリクトは両方に対応するべく闇を強く纏い双方に向けて発散するように放射させようとするが、リクトがヒロムのいる背後とフレイとラミアが迫る前方に向け対応しようとすると双剣を構えたユリアとガントレットを纏い拳を強化するマリアが挟撃しようと左右から迫ろうとしていた。
ユリアとマリアの左右からの挟撃、それについて前後方向への対応をしようとするリクトは認識 した上で素早く対応を済ませた左右方向に対しても対応しようと考えるがその思考を読んでいたかのようにユリアとマリアは加速してヒロムやフレイ、ラミアよりも先にリクトに接近すると攻撃を仕掛けようとした。
「コイツら……!!」
想定よりも早かったのかユリアとマリアの接近とそこからの攻撃への移行に対してリクトは舌打ちをすると闇を強く纏いながら高く飛ぶ事で2人の精霊の攻撃を不発へと誘発させるが、リクトが高く飛ぶと今度はラミアが刀を振り下ろそうと構えながらリクトよりも高い位置に現れて攻撃を放とうとした。
ラミアの出現と刀による振り下ろしの攻撃に対して認識が遅れたのかリクトは闇を左手に纏わせると彼女の振り下ろした刀を防ぎ止め、ラミアの攻撃を防ぎ止めたリクトは反撃しようと右手に爆炎を纏わせるように出現させて彼女にぶつけようとした。
ラミアに対しての反撃、リクトが爆炎を放とうとしたその時だった。
ラミアに爆炎をぶつけるためにリクトが攻撃を行おうとすると彼は突然何かに引っ張られるかのように下降させられ、それによりリクトがラミアにぶつけようとした爆炎が狙い通り当たらずに彼女のいない場所に向け放たれる形で終わってしまう。
何故こうなった?何故自身が下降させられるかのように体が高度を下げたのか、そこが気になったリクトが視線を下に向けるとその視線の先には自身の右足を掴むヒロムの姿があった。
「オマエ、まさか……
「舌噛みたくなかったら黙ってろ!!」
ヒロムの存在、そしてヒロムの行動から何かを察したリクトが言葉を発する途中でヒロムは白銀の稲妻を強く纏い続けるながら勢いよく敵を振り下ろし地上に叩きつけるように投げ落とし、投げ落とされたリクトが受身を取るべく勢いに抗おうとするとそれを邪魔しようとするかのように大剣を手にしたフレイがユリアと共に武器を振るべく構え、リクトが迫り来るとフレイとユリアは同時に武器を振ると一撃をリクトに叩き込み、一撃を叩き込まれたリクトは抵抗すら出来ぬまま吹き飛ばされると飛ばされた先で勢いよく倒れてしまう。
倒れるリクト、だがリクトは闇を纏うとすぐに立ち上がってしまい、リクトが立ち上がった事で今の2人の一撃が有効でなかったと判断したヒロムたちは次なる攻撃のため、そしてリクトの動きを警戒するために構え直し態勢を整えようとした。
ここまでの攻防、いや、ヒロムと精霊による連携攻撃とそれを受けるリクトを見た街の人々はヒロムの活躍に歓喜して声を出し、ユリナたち4人もヒロムの活躍に期待を向けていた。
が、そんな中で1人……トウマだけは違った。
「……ダメだ、足りない」
(今の連携攻撃はたしかに兄さんが今まで能力者と戦う上で自分の強みにしてきた要素ではある。けど、今のリクトさんを相手にする上ではそれだけじゃ足りなくなっている!!現にリクトさんにダメージは通っていない……連携攻撃での連携速度はリクトさんの予測を越えてはいるけど、攻撃力としては足りていない!!攻撃パターンを広げないと……兄さん自身の攻撃に対しての選択肢がもっと広げられないとリクトさんと《オーバーロード・ギア》を越えられない!!)
いまのヒロムと精霊の連携攻撃では足りない、トウマは戦いを見る中でそれを感じ、そしてそれはヒロム自身も考え方は違えど感じていた。
「クソが……」
(今の連携攻撃、四方展開を囮にした三次元的攻撃による連撃を想定していたのに単なる決め手への誘導のための連携攻撃で終わっちまった。原因はおそらく仮止まりの繋がり、それがオレの扱える白銀の稲妻とフレイたちの武装となっている霊装、そして……オレのこの両手首のブレスレットの形をしたオレのための霊装の真価を閉ざしている。今のまま戦えないことは無い、けどそれは……稲妻と単なる身体能力しか選択肢に無いオレが数手欠けたまま戦い続ける事になる……!!)
「なるほど、今のオマエらの連携攻撃は全力でありながら万全ではなかったのか」
トウマ同様に問題があると感じていたヒロムのその思考を読んだかのようにリクトは言葉を発し、リクトの言葉から彼に読心術の類の力がある事を察したヒロムはため息をつくと敵に向けて中指を立てながら煽ろうとした。
「うるせぇバーカ。この程度で終わると思ってんなら胎児からやり直せ。本番はここからだからな」
「無駄な虚勢は張らない方がいいぞヒロム。それは時に……オマエを小さく見せる」