107話
大人子供関係なく、どれだけ屈強な人間でもお構い無し、その場にいる誰もが当たり前のように恐怖を感じ絶望に追いやられるような感覚に襲われるほどの存在となったリクトから人々を救い出すかのように現れたヒロム。
ヒロムの登場にリクトはようやく現れたかと言わんばかりの顔をし、そしてユリナたちは彼の登場によって絶望から希望を見つけ出そうとしていた。
「ヒロムくん!!」
「ヒロムさん!!」
「……あ?何でユリナとエレナが?てかユキナも……」
「ちょっと!?私もいるわよ!?」
「今はそれどころじゃないでしょアキナ!!ヒロム、アレは何なの?」
自身の名を呼ぶユリナとエレナの存在に気づき驚く中でさらにユキナがいることにも気づいたヒロムに対して自分もいるとアキナが存在を主張しようとするとユキナはそれどころでは無いとしてヒロムにこの場においては彼以外には全容を理解出来ていないリクトの事を尋ねようとし、リクトについて尋ねられたヒロムはリクトに視線を向けるとその状態のままユリナたちはもちろん他の人々にも伝わるように話し始めた。
「アイツは……《十家》というシステムの中で何もかもを狂わされた被害者だった……はずの男だ。過去の事になって終息した事を許せず個人的な理由で世界を滅ぼそうと堕ちた……今はこの国にとっての害だ」
「よそよそしい言い方だなヒロム。堂々と言えばいいだろ?オレはオマエが倒すべき敵だってな」
「それだけで片付けられるならそうする。でも、事はそう簡単には済ませられない」
「それは……オレがオマエにとって従兄にあたるからか?」
「オレにとっての従兄だった男はもう死んでる。オマエは力に囚われ理想を呪いのように纏い続ける馬鹿だ」
「呪いか……なるほど、オマエにはそんな風に見えてるんだな。そして、その馬鹿を止めるためだけに鬼桜葉王の力で万全の状態に回復して戻ってきたのか」
「オマエが悔い改めるならこんな面倒なことはしなくて済んだんだ。その辺理解しろよこの野郎」
「理解ならしている。変革に犠牲は伴い憎悪を向けられるのも承知の上だ」
「そうか……もう、これ以上はオマエに何も伝えられないんだな」
「兄さん!!」
リクトと話しても何も伝わらない、そう感じたヒロムが今のリクトに言葉で何かを伝えるのを諦めようとすると天空から片翼だけの光の翼を纏ったトウマが舞い降りるように現れてリクトと対峙するヒロムの少し後ろに着地し、トウマが現れるとリクトは少し意外そうな顔で彼を見ると少し嬉しそうに話し始めた。
「トウマ、当主のオマエがわざわざ来てくれたのは嬉しい事だ。オレとしてはオマエたち兄弟がこうして揃うのは喜ばしい事だと思っている」
「リクトさん……もうやめてください。アナタがやろうとしていることは《十家》の制度を壊し、日本を支配しようとしていた悪意の元凶だった十神アルトを倒した兄さんが築いた今を否定し、新しく進もうとしているこの国の人たちを拒絶し苦しめようとするだけです。変革が時には必要なのは分かります。ですがやり方を誤れば変革は暴力にしか……
「オレが結果としてそれを『変革』と認識出来ればそれでいいだけの事だ。他の人間など知らん」
「アナタの言う変革において、ここにいる人たちは何だと言うんですか!?」
「礎になるべき有象無象、変革のために捧げる魂というだけだ」
「そんな事……
「もうやめろトウマ。馬鹿に何言っても無駄、オマエが必死になったところでどうにも出来ねぇよ」
リクトに対して話し合いで和解しようと考えるトウマは何としてでも歩み寄ろうとするもそれが無駄でしかないと判断したヒロムはそれを止めさせ何をしても無理だとハッキリ伝え、その上でヒロムは彼の考えについてある危険性を指摘するべく忠告した。
「無駄な争いを避けたい気持ちは分かる。だけど、オマエが対話でどうにかしたとしてもここにいる人たちがアイツを目の当たりにした事で心に植え付けられた恐怖はアイツが居る限り消えない。無駄な争いを避ける事で将来的にこの場にいる人全員が平穏の中で今感じた恐怖を思い出しながら生活させる事になるだけだ」
「だからって戦うだけじゃ……」
「オマエも頭では分かってんだろ?だから今この瞬間もオマエは光の翼を解かずに維持している。対話で済むならと思いながらも……オマエはアイツを倒すしかないと理解してるはずだ」
「……っ!!」
「心配すんなトウマ。あいつはオレが潰す。だからオマエは後ろの守りを頼む」
「ボクも兄さんと戦……
「当主として何をするべきか、そこを優先しろ。オマエは《八神》の当主、オレは……ただ野蛮に戦うしかない人間だ」
トウマに対話の先にある危険性を語ったヒロムはトウマにユリナたちの守りを託してリクトを倒すべく前に進もうとし、リクトはヒロムが動き出すと彼を迎え撃つべく自らも動き出そうとした。
「兄弟での一時は終わりか?」
「くだらない事ほざくな。オレはここに雑談しに来たんじゃなく、オマエを倒しに来ている。そこを吐き違えんなカス野郎」
「ふっ……相変わらず強気だな。シンクはともかくオマエが死獅王を倒すために集めたやつらは皆オレに何も出来ずに倒れた。オマエだけで……何ができる?」
「オレだけ?勘違いするな。オレは……1人じゃない!!」
先程自らの手で始末したとしてシンクやクロトたちの存在を出して煽ろうとするリクトの言葉にヒロムは堂々と言い返し、ヒロムの1人じゃないという発言に応えるかのように光と共に精霊・フレイとラミア、ユリア、マリアが現れた彼の隣に並び立ち、そして……
「オレにはオレを信じてついてきてくれる存在が共にある。そして……オレには、オレが勝つって信じてくれている人がいる!!だから、オレはオマエに勝つ!!」
「ならオレがオマエのその言葉を否定し、人の思いなど儚いものだと思い知らせてやる!!王の力……その全てでオマエを葬る!!」
「やれるもんならやってみろ!!本気で殺ってやるよ……だから、あの時の決着!!今ここでつけてやる!!」
殺る気十分、両者共に無駄な考えなど抱かずただ相手を倒すために戦おうと闘志を漲らせ、そして2人はこの場でこれまでの全てを含め決着をつけるべく戦いに突入しようとした……!!