106話
どこかのビルの中……
リクトが現れ派手に戦闘が行われていた影響か元々居たであろう人の姿はなく、ビルの中は無人といっても過言では無い状態だった。
そんなビルの中に……
突然、キューブ状の大きなエネルギー体が現れ、現れたエネルギー体が砕けると中から全身ボロボロのクロトとレイガ、獅天、そしてキラが現れ、さらにキラは突然吐血してしまうと今度は彼のそばに負傷し気を失ったシンクとアスランが音もなしに現れる。
現れたクロトたちは立つことも難しいのか倒れてしまうが意識は保たれており、その状態で獅天はキラに礼を伝えようとした。
「……助かったぞ羅国キラ……。貴様のおかげで救われた」
「いいスよ……元々、オレはそのために来たんスから。というか……アイツに気づかれる前に氷堂シンクの事をアスランを隠した異空間に隠して正解だったスよ……。あの土壇場で予備動作も何もなしに転移するとなると自分含めて4人が限界だったみたいスからね……」
「感謝……とりあえず、オレたちは助かったな」
「けど、アイツを止められなかった……!!せっかくのチャンスを……!!」
「気負うな、レイガ……。どの道あの男はアレを隠していた時点でオレたちに勝ち目なんてなかったんだ……」
「不覚……!!オレとした事が仕留められなかった!!
ヒロムに任されていたのに……こんな醜態を……!!」
落ち着け、といつからか意識を取り戻していたシンクが起き上がるなり自分を責めるクロトを慰めるような言葉を掛け、さらにシンクはクロトたちに向けて彼らを激励するようにも聞こえる事を話し始めた。
「立場上、言い方に困るがリクトにとっては奥の手とも言える手を引き出させたんだ。ヒロムに任せる形になってはいるが奥の手をアイツのところに向かう前に出させた……その事実、結果に対してオマエたちは最善を尽くしたと盛大に誇っていい事だ」
「反論……結果だけを見ればオレたちはアイツを強くしただけだ」
「クロト、落ち着け。オレたちが最善を尽くした以上、後は大丈夫だ。アイツなら……ヒロムなら必ずオマエたちが繋げたものを引き継いで止めてくれるはずだ」
「氷堂シンク……アンタは、ヒロムさんなら勝てると信じてるんだな?」
「ああ、当然だ。ヒロムは……いつでも全てを覆し勝利を掴む。だから、今は信じてヒロムがリクトを倒すのを待て」
「信じて待つ、か……」
不安と後悔が広がる中でシンクはヒロムならば全てを引き継ぎリクトに勝つと信じていると言い切り、クロトたちはそれに感化されたかのように今は落胆せず事の顛末が良き方向に向かうのを信じようとしていた。彼らの思いは……
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リクトの出現から避難行動を誘発させ、そして自分たちも避難しようとある程度離れたところまで来ていたユリナたち。
あの場にいた他の人々も同じようにユリナたちと逃げており、ここまで来れば安全だろうと一息つこうとしていた。
「はぁ、はぁ……何なのよアイツ……」
「なんか、得体の知れないものを感じたけど……」
リクトの出現にアキナとユキナは恐怖を感じながらもリクトについて知らない中で自分たちの中で彼が何だったのかを考えようとし、ユリナとエレナは先程のリクトの出現により感じた恐怖と不安から解放された今もまだそこまでの余裕が無いのか2人で身を寄せ合っていた。
ユリナとエレナがまだ怯えているのに気づいたユキナは2人に歩み寄ると2人の手に自分の手を重ねるように優しく握り、アキナは2人の後ろに回り込むと大丈夫と伝えるかのように優しく肩に手を掛けてあげた。
「大丈夫よ。アイツからは逃げられたしシンクが来てたんだから問題無いわ」
「ええ、アキナの言う通りシンクが来たのだから大丈夫よ。きっとあんな悪いやつを倒して終わった事を伝えに来てくれるわ」
「う、うん……」
「そう、ですよね……」
「だからドーンと堂々としておきなさいって。あんな悪党、すぐに倒され……
「見つけたぞ」
ユリナとエレナを励まそうとするアキナとユキナ。そのアキナの言葉を遮るかのように闇と共にリクトが天に現れ、リクトが新たに変化した姿で現れるとユリナたちはもちろん他の人々も恐怖を甦らされ、その場にいた全員がもう一度逃げようとした。が、リクトはそれを許さないのか指を鳴らすと人々の逃げ道を消すかのように周囲に巨大な氷壁を出現させて包囲してしまい、逃げ場を失った人々、そしてユリナたちはもうどうにもできないのかと絶望を抱きそうになっていた。
「も、もうダメ……」
「変革に犠牲は伴うもの……オマエらの犠牲を無駄にはしないと約束してやろう。だから何も感じずに消えろ」
無抵抗な民間人に手をかけることに躊躇いなど微塵もないリクトはユリナたちと人々を消してしまおうと右手に闇を強く纏わせるとそれを一気に解き放とうとした。
もう終わりだ、誰もがリクトを前にしてそう感じた瞬間だった。
どこからかエンジンの強い音が響き渡り、それを聞いたリクトが攻撃を中断させて音の響いてくる方に視線を向けると視線を向けた先から超高速で飛ぶジェット機の姿が確認され、ジェット機に向けてリクトが何かしようと右手を向けようとするとジェット機はそれを察したのかさらに高度を上げようと軌道を変えて飛び去ってしまう。
単なる虚仮威し、そう解釈したリクトは鬱陶しそうに舌打ちをするとユリナたちを今度こそ消し去ろうと闇を放つ用意をしようとし……
「おい……どこ見てんだよ、クソ野郎!!」
リクトがユリナたちを消し去ろうと闇を放とうとしたその時、天高くから急速で降下する形でヒロムが現れ、ヒロムの出現に気づいたリクトが顔を上げるとヒロムは何も無い空中の大気を蹴って降下を加速させてリクトに迫ると白銀の稲妻を纏った足で踵落としを叩き込んでみせ、反応できなかったリクトはヒロムの踵落としを受けてしまうと地上に叩き落とされる。
リクトが地上に叩き落とされるとヒロムはユリナたちや人々を守ろうと彼ら彼女らの前に立つように着地し、ヒロムが着地するとリクトはゆっくりと立ち上がった後首を鳴らし、そして……
「重役出勤かヒロム?それとも……仲間の無駄な犠牲に報いるために来たのか?」
「うるせぇぞクソ野郎。これ以上はもう……好きにはさせねぇ!!」