105話
レイガと獅天、2人で同時に放つ《獣身武闘拳》の流派だからこそ放てる渾身の一撃を叩き込む事に見事成功し、2人の一撃を受けたリクトを貫くほどの衝撃が地面を壊すほどに強く駆け抜けるとリクトはそれに耐えられなかったのか倒れようとするかのようにフラつき始める。
一撃を決めた、これまでにはないたしかな手応えを感じていたレイガと獅天はリクトに対して警戒する中でその手応えに対して喜びを感じており、クロトとキラも警戒しながらもリクトを確実に追い詰めたと感じていた。
が、しかし……
クロトには1つ腑に落ちない点があった。
「何故……」
(疑問、1つ気になる……八神リクトは何故2人の一撃に対して引力と斥力による攻撃を使わなかった?あの2人は一撃を放とうとするが故にスキがあった。それは誰が見ても明らかで2人を倒す事を狙わずとも2人の攻撃を止めるために使うという判断が出来たはずだ。それなのに……何故、八神リクトは使わなかった?いや、それを言うならどうしてあの武装を発動した時から今みたいに他の力を使わなかった?)
レイガと獅天の一撃を受けたリクト、そのリクトが纏うはヒロムが使うことを想定して設計と開発された《オーバーロード・ギア》でありその力は発動したばかりの時にクロトたちを容易く倒せる程であり、今も一撃を受けるまで圧倒的な力を見せていた。
それが何故、レイガと獅天の攻撃を防げなかったのか?そして何故、これほどの力を最初に使わなかったのか?
クロトはそれが気になって仕方なかった。
クロトが疑問を抱く中でキラは全身刃で刺されたアスランを自身の能力で異空間を生み出してその中へ匿い、レイガと獅天もリクトが倒れるまで気を抜くこと中臨戦態勢を保っていた。
単に気にし過ぎているだけ、それで済めばいい。クロトが内心そう思いかけたその時……
「……黒月クロト、オマエは他と違い思考がヒロムに近いらしいな」
「「!?」」
リクトの声がした、その声に反応するかのようにレイガと獅天の目の前にいるリクトの体に全身に及ぶ亀裂が生じ、亀裂が生じた事にクロトたちが驚いているとリクトの体はガラス瓶が砕け散るかのように炸裂し、そして炸裂した亀裂が生じていたリクトの体があったその場所には……
姿を変えたリクトが当たり前のように立っていたのだった。
上半身は何も身につけず天女の羽衣のような白い衣を纏い、下半身は無数の布を重ね纏ったかのような状態となり、リクトの肌は色素が抜けたように白くなっているのに対して髪は黒く染まり地につくほど長く伸びていた。
目の前で起きたありえない現象。クロトたちの善戦を全てを無に帰すかのように姿を変え君臨したリクトの姿を目にしたクロトたちは恐怖を覚えずにはいられず、レイガと獅天は危機感知能力を高める『見動気』により今のリクトの危険性を理解したらしくすぐち攻撃を仕掛けようとするが、リクトが右手を2人に向けてかざすと右手から炎と氷、風が強く放射されて2人に直撃し、2人は勢いよく吹き飛ばされて倒れてしまう。
このままではまずい、そう思ったクロトは短剣を構え応戦しようと考えるがその考えを行動に移そうとした瞬間、いつ放たれたか分からない斬撃がクロトに直撃し、クロトは斬撃によるダメージを負いながら膝をついてしまう。
何が起きた?
訳が分からないまま現状について整理しようとするクロト、ダメージを受けながらも立ち上がろうとするレイガと獅天はとにかくリクトの異様な変化に対してそれが普通でない事を理解出来てはいるもののどう対応するべきか分からずただ思考を働かせるしか無かった。
が、その3人の心情を読んでいるかのようにリクトは彼らを見るなり何が起きたのかを敢えて教えてやるかのように話し始めた。
「オマエらの考え方は評価に値する。だが、それで終わる程度で止まっては意味が無い。《オーバーロード・ギア》についてその力の一端を解明したようだったがそれは大きな間違いだ。《オーバーロード・ギア》には使用者に対して変化を促す効果がある」
「難解……どういうことだ……!?」
「起動時に引力と斥力しか使わなかったのは単純に霊脈から来るエネルギーを受け取る上で大地の存在を正しく感じ取るための練習でしかなかった。そして時間を重ね経験を重ねる事でこの《オーバーロード・ギア》は真価を発揮するようになる」
「貴様、オレたちで何を試した!?」
「それは違うな獅天。これは《オーバーロード・ギア》の一方的な思考共有を介した学習とその再現を繰り返すことで行われる使用者の変化……つまりは使用者に対して進化を促すという事だ」
「進化……!?」
「戯言……!!所詮、武装……見てくれを変えるなど、一時的なもののはずだ……!!」
「いや、それは違う。これは肉体を進化させるのではなく魂を進化させるんだ。ヒロムが多くの精霊を宿して適応に至ったようにこの《オーバーロード・ギア》は使用者の魂を次の次元に進化させる!!」
「不能……理解、出来ない……」
「全ての原点……それは単にギア・シリーズの集約ではない。このギアの存在そのものが全ての力が行き着く到達点に辿り着くからこそのものだ!!」
新たな姿に変化したリクトは天高く飛び上がると右手を天に向けてかざし、リクトが右手をかざすと天空に巨大な魔法陣が現れ、魔法陣が現れると同時にそれが発光するとクロトたちを飲み込むかのように巨大な爆撃が彼らが逃げる間もないほどの勢いで辺り一面を破壊しようと広がり、そして爆撃が少ししてすぐに止むとそこにはクロトたちの姿は一切なかった。
「……やはりその辺の雑兵と変わりない存在だったか、オマエらは。オレを進化させる、その役割を果たしたという意味では感謝しておく。だからあの世で見ていろ……この先に起こる激闘を」
クロトたちの姿がないことを目視で確認したリクトは姿無き彼らに向けて言葉を残すように話すと飛行しながら次なる場所に向かおうとした。
進化を遂げたリクト、強さの底を見せぬリクトは……