101話
自らの言う『変革』のために暴走するリクトとそれを止めようとするシンクとの激突、街の中で突如として始まった能力者同士の戦いを前にして恐怖を感じた人々は逃げ、シンクは街を守り人々を暴走してリクトの手から守るため、そしてリクトが手を出そうとしたユリナたちを守るために全力で挑もうとした。
だが、彼の奮闘しようとする心は異常な力の前では小さく映る他なかった。
「がっ……!!」
リクトと彼の発動する《オーバーロード・ギア》の力に対して奮闘しようとするシンクだったが、そのシンクが発動させた氷の竜を模したような姿に見せる氷の武装、《竜装術・氷牙竜》を持ってしてもリクトには届かず、シンクはリクトの視認出来ぬ何かにより放たれる攻撃を受けて次第にボロボロになって追い詰められていた。
「はぁ……はぁ……!!」
「案外、オマエの力も大した事はなかったなシンク。傀儡にされた《八神》の中でヒロムのために動き続けていたオマエは妙な事さえしなければ《角王》の1人として《氷》の名を冠する幹部に成れたものを……まさかヒロムのために離反し敵対しそのチャンスを逃すとは惜しいことをしたな」
「はっ……馬鹿言うな。ヒロムを裏切る真似だけは死んでもやらねぇ!!オレはヒロムと出会ってから今までそれを胸に秘めて行動してきたんだ……今までもこれからもオレはヒロムの見る未来、ヒロムの望む理想のために全てを捧げると決めている!!」
「それが哀れ。現実か見えてない証拠だな」
「何?」
「今のヒロムに出来ることはせいぜい悪党を倒し平和を守る程度、それで何が変わる?オマエの言う未来や理想とやらはあくまでヒロムもオマエも現実を無視した事を前提にしたものでしかない。真に未来を考え理想を実現するのならば必要なのは力による破壊と裁きによる選別だ」
「破壊?選別?そんなのはオマエのエゴだろ?
オマエがさっき攻撃しようとしたのは何の罪もなければ能力も何も無い民間人……《八神》の人間ならどうすべきか分かるはずだろ!?」
「何の罪もない?それは大きな勘違いだシンク」
「何?」
「思い返してみろ。逃げた有象無象……いやオマエがこれまで目にした人間の中にはどれだけの人間がヒロムだけでなく身も心も削りながら戦おうとするものを安全な場所から蔑み罵倒し見下した人間がいた?オマエら信じるヒロムを否定した人間がこの世界にいる有象無象の中にどれだけいた?先程逃げた有象無象の中には欠片でも心の中に拒絶の心を持った人間がどれだけいると思っている?」
「まさか……オマエの言う変革って……」
「そのまさかだシンク。オレの変革は今の日本を変えるきっかけとなったヒロムを過去に否定した疑いのある人間を滅ぼしこの国を再建・再構築することだ」
「……っ!!とんだ、エゴだなクソ野郎!!」
「その再建・再構築を担うのはオマエとヒロムが率いる《センチネル・ガーディアン》、それが成功した時こそこの国にオマエらの望む理想が実現する」
「ふざけるな!!そんなのは理想の実現なんて言わねぇ!!それは単なるオマエの身勝手な私怨による破壊とそれを正当化しようとしているだけの我儘だ!!」
「この程度の事が我儘で済むのなら止める必要もない。それにオレのその我儘でこの国を正しく救えるのならオマエらも本望だろ?」
「そんなわけないだろうが……!!これ以上、オマエと会話してても埒があかねぇ……!!もう、オマエは手遅れだ!!」
もはや今のリクトの言葉は常軌を逸しシンクの理解の範疇から大きく外れたとしか言えず彼を見限るとも取れる言葉を口にしたシンクはリクトを倒すべく全身に冷気を強く纏うと勢いよく動き出そうとするがリクトが瞳を妖しく光らせると何かを引き起こして対抗しようとした。
「無駄な事はやめておけ」
「これが無駄だとしても!!」
「哀れだな……」
リクトを倒すために止まっていられない、シンクは加速すると同時に冷気をより強く纏い、その状態でさらに加速して冷気を纏うシンク自身が巨大な氷柱へと変化しながらリクトに突撃しようとした。が、リクトの瞳が強く妖しく光ると強い衝撃に襲われたかのようにシンクの纏う氷が砕け散り、そしてシンク自身が纏う氷の武装すらも砕け散ると彼の体は何か大きく重いものに衝突されたかのように勢いよく吹き飛ばされるとまたしても建物へ叩きつけられ、建物に叩きつけられたシンクはその際の衝撃によって体をひどく打つだけではなく内側にまでダメージを受けたのか吐血してしまう。
「こ、この……」
吐血したシンクの瞳にはまだ戦意が残っておりどうにかして戦線に戻ろうとするがすでに体に蓄積されたダメージが限界に達したのかシンクの意識は消えてしまい彼は叩きつけられた建物から静かに地上へと落下しその勢いのまま倒れてしまう。
「さよならだシンク。次にオマエが目を覚ますのはオレの変革が成し遂げられた時だろう」
倒れたシンクに別れを告げるように言葉を残したリクトはシンクに対してそれ以上何かをすることもなく視界から外すとユリナたちが逃げた方へ飛行し向かおうと動き始めようとした。しかし……
シンクが動き出そうとしたその時、遠くからいくつもの斬撃が飛んできてリクトの行動を妨害しようとし、飛んできた斬撃に気づいたリクトが瞳を妖しく光らせると同時に何かを放つ事で飛んでくる斬撃を消滅させ、リクトが斬撃を対処したその瞬間、彼の頭上にいつの間にか現れていたレイガと獅天がそれぞれが宿す力を纏いながら攻撃を仕掛けようとした。
「コイツら……
「「くらえ!!」」
2人の予想外の襲撃に反応が遅れたリクトに容赦なくレイガと獅天は渾身の一撃を叩き込み、2人の一撃を叩き込まれたリクトは地に叩き落とされるも勢いを殺すようにしながら当たり前のように着地してみせるが、レイガと獅天がリクトを相手にするべく着地すると今度はそれに加勢するかのようにクロトとアスランが音も何も無く現れ、4人の登場にリクトは何かを察したのかため息をつくと冷たい眼差しを彼らに向けようとした。
「くだらない……まさかこんな事を企むとはな」
「妨害、ここからはオレたちがオマエの相手だ」