10話
突然の爆発と飛来した爆弾による爆撃、それらを受けた集会所の平屋の建物は爆発に耐え切れずに吹き飛んでしまい、爆発により吹き飛んだ建物の跡地からは黒煙が天へと登っていた。
そんな集会所の跡地の黒煙を遠くからサングラスをした男が見ており、男の近くにはヒロムを襲撃した空蓮のもとに現れた花魁のような装いの女のシェリーがいた。
「……姐さん、やり過ぎじゃあないか?」
「遠慮は要らないよ鉄千。どうせあの男の事、この程度は死んでないはずよ」
「お言葉ですけど、姐さんに頼まれてオレは最高の爆弾用意して投げたんですぜ?流石に能力者といえどあの量は防げないでしょう」
「備えあれば憂いなし、最悪を想定しなきゃ殺せないわよ」
容赦するなと話すシェリーに対して彼女に鉄千と呼ばれた男は爆弾の量と威力から能力者であろうと逃れられないと丁寧に言い返した。鉄千の反論にシェリーは少し苛立ったような顔を見せると最悪を想定しろと注意した。
まさにその時だった。突然集会所だった跡地の近くに人が入れるような大きさの光のキューブが現れ、現れたキューブに扉のようなものが現れ開くとその中よりヒロムとクロト、そして羅国キラが一切の傷を負っていない姿で2人の前に現れた。
「姐さんの言う通り……最悪を想定したら足りなかったようですね」
「見ればわかるわよ!!というか今反省するな!!」
ヒロムたちの生存を目にしてシェリーの言い分が正しかったと自身の考えについて甘さがあった事を鉄千が反省しているとシェリーは単に強く当たるように言葉を口にし、シェリーと鉄千が何やら話す中で光のキューブの中から出てきたヒロムは少し驚いたような顔をしながら羅国キラに説明を求めようと話し掛けた。
「……羅国キラ、これはオマエの能力か?」
「そッス、これがオレの能力の《異界》。オレのいるこの世界と繋がる異空間を生み出せる力、今みたいに箱としてこっちに出せるし異空間をいくつか用意してオレの中の収納領域に格納しておくことも可能で、オレが許可しない限りは出入りが自由に出来ない仕組みになっている」
「なるほど、現実と別空間が繋がる箱を作り操るって能力か」
「単に空間を生み出すだけじゃない。空間それぞれに設定を施すことも出来る。例えば……空間内の温度を1000℃にしたり、空間内に人が入ると同時に空気が濁水に変化するようにしたり、あとは5秒毎に目が焼けるような強い光を全体に発生させたりね」
「追加効果まで細工可能なのか……」
(それならクロトの話してた異常性も納得出来るな。コイツの能力により生み出された空間に幽閉されるだけでなくコイツの気まぐれで用意された追加効果で心身を追い詰められる……人間性に問題のある羅国キラに宿ってはいけなかった能力、それをコイツは自分の求める最大限の使い方で活用している。実戦よりも支援の方が適しているが使い方次第で相手をどうにでも出来る代物か。それなら……)
「羅国キラ、確認なんだが……オマエのその能力は対象を鹵獲するのに応用出来るのか?」
「ん?出来なくは無いけど相手が身動き取れない方がやりやすいッスよ。キューブの形成はパパっとできるわけでもないから相手が動いたりするとキューブのサイズとか中心がズレてやりにくくなるから出来れば動きを封じてから捕まえたいって感じだな」
「そうか。例えばだが……あそこにいるあの女を鹵獲してくれって頼めば引き受けてくれるか?」
「今も言ったけど相手が抵抗しなければ可能だな。けど、そんな一方的な命令としか思えない取引にオレが応じるメリットある?明らかにアンタの楽になるだけな気がするけど?」
「嫌なら別に断ってくれていい。ただ……今回の死獅王の件に関して依頼を受けるって事でオレは鬼桜葉王から一定の範囲でなら色々優遇して貰えるらしくてな。オマエがもしオレの指示に従うって約束してくれるなら……そうだな、オレとオマエの取引の見返りとして《一条》から受けてる監視の解除と身の自由に関して交渉してやるよ」
羅国キラの能力について聞かされたヒロム、その能力に何かを見出したヒロムは1つの確認を行うと彼に対して取引に関しての見返りを提示することで話を進めようとした。が、ヒロムの見返りの提案に関して羅国キラは彼の言葉から何かを感じたらしく承諾するような雰囲気はなくどちらかというと否定したそうな顔でヒロムに反論してきた。
「交渉って言い方が気になるな。そこは約束してくれないのか?」
「あくまで今のは取引としての提案、確実性を保証してやれるような状態じゃないから交渉を進めるって点で止めてる。確実性が無いような内容を見返りとして提示したくはないからな」
「なるほど……たしかに、意外としっかりしてるな」
「あくまでこの提案はオマエがオレに手を貸す前提のオマエの努力次第なところもある。けど、オマエの望むものを実現するなら避ける理由は無いはずだ」
「オレの望むもの、ね。大きく出たからには最低限どっちかは実現してもらう必要あるけど大丈夫そ?」
「なら歩合制で他も付け加えてやる。オレとクロトが証人として箴言して交渉を進めてやる。それでどうだ?」
「……歩合制か、悪くないね。ならこっちのもとめる条件は2つ……やるからには徹底的にやりたい。そんで、アンタの全てを見せてオレを楽しませてくれ」
「非人道的なやり方が好みなら好きにやれ。どうせ……これから相手にするのは死獅王と同じで《一条》にとって消えて欲しい連中だからな」
「オッケー、なら決まりだ。取引成立、仲良く頼むよ……ボス」
「オマエのボスになるつもりは無いが……頼りにさせてもらうぞ、キラ!!」
ヒロムと羅国キラ、2人の間で取引が成立したことで晴れて羅国キラはヒロムとクロトによる死獅王追跡の一員となり、そしてヒロムとクロトは新たなメンバーとなったキラと共に並び立つと鉄千とシェリーを視界に入れながらやる気を見せ始める。
「とりあえず、オレのやり方で拷問して聞けるだけの情報を聞こうか」
「苦渋、オレとしては乗り気では無いが目的達成のために必要ならオマエを頼りにする。ヒロムが決めたから従うだけだ」
「あいあい、オレはオレのやり方でアンタとボスの敵を潰すだけだ」
「仲良くやれよオマエら。ここから先……手柄の取り合いで暴れるんだからよ!!」